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東の大陸にあるビッタウ国の季節が肌を焼くような暑い日々から心地よい風がそよぐ過ごしやすい季節を迎え始めた頃、この国に聳える荘厳な屋敷の一つエクソルツィスムス子将家邸の広い敷地内にある池の上に建てられた東屋では屋敷の令嬢ボイティ・レナ・エクソルツィスムスが一人椅子に腰をかけ目の前に広がる池を眺めていた。


(去年より発芽する種が多かったのね、まるで別の世界に居るようだわ。)


水中で花を咲かせ桃源花(とうげんか)が時期を迎え満開に咲き誇り、池全体が金色に染まった幻想的な風景に頬を染めうっとりした表情で眺めていた。


(素敵な風景にお茶も進むわね…?)


「あぁ、そういえば飲み終わっていたのだわ。」


持ち上げたカップの軽さに先程紅茶を飲み干し空になっていた事を思い出すと用意されているティーポットに手をかけ少し眉を寄せる。


(やはり全員を下がらせずに1人残ってもらえばよかったかしら…。)


入り口付近を見つめ何時もならば傍らに控えた数名の侍女の誰かが空になったカップに気が付き丁度いい温度のお茶を入れ直してくれるが、侍女達にお茶を淹れてもらった後は付き添いを断わり屋敷の手伝いに向かってもらった。


『お嬢様本当にお一人で大丈夫ですか?』


『ええ、大丈夫よ。』


『分かりました。絶っ対に!!ここから動かないで下さいね。』


1人でいる事を何故か心配されたがここから動かない事を条件に出され、ポットにおかわり用のお茶を準備した後は颯爽と東屋から出ていった。


(渋々といった表情だったけれど、あの急ぎ方は準備が間に合うのか皆も気にしていたのよね…それにしてもどうしたらあんなに早く移動出来るのかしらね?……謎だったわ。)


侍女達に戻ってもらう様に告げたのは、明日に控えた学院の卒業式後に屋敷でも開かれる身内のみの祝宴準備とその確認に家令達が表にこそ出していなかったが此処に来る途中で見た素早い速度で働いている従者達の姿を目撃したからだった。


『おや、お嬢様お出かけですか?』


『ええ、もう直ぐで昼を迎えるから東屋でお茶をしようかと思って。プロムスはお父様に資料整理を頼まれたの?』


『ええそうです。でも、もうそんな時間ですか……。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ。』


『ありがとう。』


そうプロムスと別れ侍女達と一緒に玄関へと向かうと…


『其処!少し枝が飛び出てます!直ぐに庭師に伝えて下さい!!』


『え?!プロムス?!』


(先程3階で話しをしていなかったかしら?!)


玄関ホールを抜けて扉を開けてもらい外に出た先では3階の書斎で話しをした筈の執事のプロムスが屋敷近くの庭園の植物の確認をしていた事に驚き思わず何度も見返してしまった。


そしてそれ以外でも屋敷の保管庫に居たはずのルドーモは新人に屋敷の清掃をやり直させていたり、庭に先程迄上に居た筈の執事や侍女が下に、下に居た筈の執事や侍女声が上から聞こえだし此処に到着する迄の間頭が混乱し続けた。


(少しでも早く終わせられればいいのだけれどね…。)


そんな屋敷を心配しつつポットからもう湯気の出ないお茶をカップに注ぎ始めるとスッキリとした薄荷の香りのする茶色い液体がカップを満たし始める。


(これは…ふふ、リヤンたらあの頃良く淹れてくれた茶葉で用意して行ったのね。)


注ぎ終わりポットをテーブルに置くと久々に鼻腔を擽る懐かしい香りに顔が緩み、お茶を用意した侍女の顔が浮かんだ。


(当時はこんな気持ちでこのお茶を飲んでは居なかったわね…。)


紅茶の表面に歪んで映る柔らかな瞳の自分と視線が合い気持ちが安らぐからと出されていた頃とは随分変わったその表情に眉を寄せ顰めていた当時を思い出させる。


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