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《次はファーレ様のお話よ。》
《この方を見れなくなるのは淋しいわね。》
《何でも光家のお姫様と婚約なさったそうよ。》
《やっぱり、前々から噂はありましたものね。》
《お席からにお立ちになったわ。》
名を呼ばれ卒業生側の席から立ち上がり1人壇上に向かって歩く姿はスラッとした長身に燃えるような赤い髪を靡かせて整った小さな輪郭に高い鼻梁、印象に残るだろう金色の瞳は証明を浴び輝いていた。
(卒業式じゃなければ今頃耳を塞いでも数分何も聞こえなくなるところよ…。久々に見ると叫んでいた人達の理由だけは分かるわね、行動と言動は兎も角顔だけは整ってはいるものね…。)
光家の次に影響力のある3公将家の1つであるスヘスティー公将家の子息で見た目も整っているファーレ・テン・スヘスティーが自分の席から立ち上がり壇上に上がる迄の短い距離にも関わらず何度も息を呑む音が講堂に響き渡る。
(初めて参加した報告会は何も知らなくて事前準備をしていなかったから、報告会が終わっても数十分は何も聞こえなかったのよね…それすら懐かしいわ。)
少し遠い目になり初めて参加したアカデミーの報告会でアカデミー代表者の名前が呼ばれようとした瞬間突然講堂を埋め尽くす大きな黄色い悲鳴が上がり急いで両手で耳を塞いだが既に手遅れだった。
(あの日以来毎回厳重に耳に栓を着けて参加したけど、もう2度と耳が聞こえなくなるのでは無いかと心配したわね…。)
今日も卒業式でなければいつものように黄色い悲鳴で埋め尽くされている講堂を想像しげんなりした気持で壇上に視線を向けると、演台の前に立った答辞の読み手がこちらに向けて蕩けるような微笑みを浮かべていた。
(うわぁ……最後迄▓▓▓▓だわ。)
講堂は先程より大きな息……いや空気を呑む音が響き渡ったが誰にも見られていないのをいい事に1人冷やかな視線を演台に向けた。
(あの時助けずに無視していたら学院生活は最後まで平和だったのに……。)
「この空が晴れ渡る良き日に学院を…………
彼と顔見知りになったのは1年程前の授業中、実習の時間に突然現れた毒蛇に噛まれた彼を助けた所から始まり、それ以来命の恩人だと必要以上に付き纏われ、ある理由から身分があまりにも違うボイティがファーレを毛嫌いする様になっていた。