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侵入者が出来上がった商品を持って部屋にやってきたのは絨毯の血痕で心配した父が叫んで部屋に飛び込んできた日からまだ半月を過ぎていない深夜のことだった。


「………え?」


「ここに置いていいか?。」


「えぇと…、」


「早く確認してくれ。」


「………。」


あまりにも早い仕上がりに懐疑的な目を向けながら商品を確認すると、いつも仕立てて貰っている店より使用されている素材の良さと丁寧な仕事に驚いた。


「それで?」


「………手を結びましょう。」


「よし!じゃあ話しを纏めるぞ。」


届けてくれたその日に何故か全て決めようとするモイヒェルに計画書を煮詰め自分はオーナーにモイヒェルが社長として店を開くことにした。


「本当に店舗運営全部任せて平気なの?」


「平気も何も、お前動けないだろ?」


「それは、確かにそうね。」


「オーナー様の仕事は黙って売り上げの連絡を待っていればいいさ。」


「そう…いうものなのかしらね?……では宜しくね。社長様。」


「ああ、取敢えず店舗を作ってまた次の月の初め頃には来るから。」


そう言うとモイヒェルは部屋から出て行った。

しかし勝手が良くわからない私達は最初から1等地に店を構えてしまい、そんなフリーデンを面白く思わない同業者に何度か難癖を付けられたと腹を立てたモイヒェルから店を出した最初の数ヶ月は毎月の報告のついでに愚痴を聞かされていたが、他の店より出来上がる期間が短く高品質の商品が届くと評判になり、クンブに住む貴族達からの注文が増えるようになると同業者からの難癖は無くなりフリーデンはゆっくりと順調に成長していたある日の深夜いきなり鬼の形相をしたモイヒェルが現れた。


「お前何をした!!」


「…モイヒェル、連絡も無く来ていきなり何よ。」


アミの夜会にオクラドヴァニアと一緒に参加して数日後、報告の日でも無いのにやって来たモイヒェルに責められたが訳が分からず眉を寄せてしまう。


「口々にお前の家の名前を伝える客が来て注文がいきなり増えてんだよ!!」


「あぁ…、この間お試しで作ってもらったドレスで招宴に行ったのよ。その時お会いした数名にお店の名前を伝えたけど…?」


思い当たる節があり説明すればモイヒェルは表情を無くし頭を抱えだした。


「……お前がオーナーとしての仕事をするのは構わないが、今後はどんな事でも連絡しろ、対応出来ないだろ。」


「そんな事言われて……」


「用意した素材が全て無くなったから取りに行かなきゃならないが、生憎注文の多さに出られる人員が居ないから増やさなければならないが、取りに行って帰って来られる程の腕がある奴じゃなきゃならない、そんな奴らは中々居ないし、居たとしても訳ありだから、きっちり上下関係を分からせる……


「分かった!分かったから!今後はどんな些細な事でもお店の名前を出した時は連絡を入れるわ!!」


多くの人に話しをした訳でも無かったので連絡を入れ無かったがどうやら大事になっているらしく、言い返そうとする私の話しを遮り、淡々と冷え込むような声で話しをするモイヒェルに何かが切れてしまっているのを感じ慌てて約束を口にした。


「分かってくれて良かった。俺はこれから足りない素材取りに行かなきゃならないから、何かあったらこいつで連絡入れろ。後、来月の売り上げの連絡は遅れるだろうからそのつもりでいろよ!!オーナー様?」


良く見れば目の下に大きな隈が出来ているモイヒェルに掌に乗る小さく不思議な色をした伝書バトを渡されると初めて会った時のような綺麗な笑顔を作り直ぐに部屋から消えて行った。


(これは確かに大変な事になったみたいね……。)


モイヒェルが不満を口にしたのが分かる程自分が着用したドレスはビッタウ国内で瞬く間に流行り出し、それを着て外交に向かったディプロマティア公将家夫人のお陰で、フリーデンの名が諸外国でも知られるようになると売上は見る見る上がっていった。


(後で何故あの時に助けたのか落ち着いて理由を考えたけど、少しずれた覆面の隙間から覗いた顔が好みだったからだと言うどうしようもない結論に自分の呑気さを少し反省したけど、今となっては呑気な私に感謝しかないわね。)


資料が残り僅かになりそろそろ毎月楽しみな資料を確認するために意識を戻し集中して紙を捲る。


(この状態が永遠に続くことは無いだろうし早く違うタイプの店舗を増やしたいのよね。)


ここ1、2年は月を追うごとに増えているが、ずっとこの状態が続くことは無いだろうと前々から話していた服や小物、装飾品を買い取る店と多数同じ品を作り安価な価格帯の既製服の店を起ち上げるべくオクラドヴァニアとの婚姻後は隣国や他国に新たな店舗を作る計画を練っていた。


(店舗を増やす為にも資金は必要よね~。)


ページを捲り最後の2枚になった所で現れた毎月銀行から発行してもらっているのだろう確実に増えていく会社と個人の貯金額が書かれた資料を交互に眺めると今月も顔がうにゃりと緩みきる。


「相変わらず締まりの無い顔だな、何の資料見てるかすぐに分かる。」


「毎月これが楽しみなんだから邪魔しないで頂戴。」


貯金額を見ている人の顔に毎回とやかく言ってくるが増える数字にどんな店舗にしようかと夢が広がるのだから仕方が無い。


(それに店舗が増えるのはモイヒェルにも関係がある事なのだから、もう少し興味を持っても良いと思うのだけれどね……。)


最初の話し合いの時も金銭の割合はどうでも良いと言い放ったようにどうやらその辺は全く興味が無いらしい。


「……それよりそろそろ起き上がらないか?」


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