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突然射抜くような眼差しで今まで聞かれた事が無かった問い掛けに顔に出しはしなかったがこのタイミングで何故?と内心非常に驚き、そして彼の纏っている空気がどことなく重いものに変化した事に気づいた。


「…オクラドヴァニア様は私に何かご不満がおありなのでしょうか?」


「いや、そのような事は無いのだが…。」


婚約当初ならば前のめりになる話題だったが既に一切の不満を感じるも無くなった今の状況で聞かれた問いかけに、もしかしたらオクラドヴァニアの方に言えなかった不満があるのかもしれないと聞き返してみれば彼も特に無いらしい。


「では何故そのように思ったのでしょうか?」


「それは……。」


その一言を呟くとオクラドヴァニアは黙り込み、何か頭の中で纏めようとしているのかお茶に手を掛けた。


(聞いてきた彼の意図が掴めないけど、彼の回答を待っていい話しでは無さそうね。)


彼が纏い始めた唯ならない雰囲気にこのままではいけないと先に婚姻への本心を少し伝えておかなければとオクラドヴァニアに真っ直ぐ視線を向け微笑んだ。


「私はオクラドヴァニア様とならお互いを補い合える良き夫婦になれると思っております、ですからこの婚姻に不満等ございませんわ。」


数多くある子将家の一つではあるが母の領地経営手腕のお陰で潤沢な資産を持ち、嫁ぐ際には多額の持参金を用意できる我が家と、5侯将家の一つだが多分内情が苦しい相手の家とはお互いに補い合える関係を築けると心配事が無くなったあの日からずっと心の中にある本心を告げる。


「そんな事は…俺は粗野な部分も多く既に様々な人と繋がりのある君に苦労をかけている…。」


お茶の入ったカップを戻し眉を顰めるとその視線は何も無い自分の腕に向けられた。


(何を見て?…あぁ、気にしなくて良いとお伝えしているのに困ったわね。)


剛腕で剣の腕が高くあまり話すのが得意でないオクラドヴァニアは社交場では調度品のように壁際で固まっているが、ご夫人達の輪の中で困り始めると直ぐに腕を引き輪の外に助け出してくれた。


(誤魔化していたけれどオクラドヴァニア様に何か伝えて来る方達はいたものね。)


近くに居ればうっかりバルコニーから落ちかけても軽々と助け出してくれるだろうと思える程の力強さにとても頼り甲斐を感じていたが、引かれた腕に数日残る赤黒い跡に周囲から何か言われていたようで、最近は赤くなるだけで跡が残らない日もあった。


「ご心配には及びません何の苦労もございませんし、以前もお伝えしたようにその力強さにとても頼りがいを感じています。」


「そう言ってくれるのは有り難いが……。」


(全く雰囲気は変わらないのね……。)


この手の本心では彼の心を晴らす事は出来ないらしい、だからといってラヴーシュカの事を告げればこのまま良くない方向に話しが流れていくのが目に見えた。


(ならいっその事こちらを先に話しておくのもありかしら…。)


婚姻後にと思っていた今話す予定になかった本音を彼に少し伝わる様に踏み込んだ質問で投げ掛けてみようと思った。


「それにサロンでお知り合いになれた様々なご夫人との話しで色々と見聞が広がり、婚姻後に少し経ってからご相談してみたい夢ができましたし。」


「夢?」


訝しげな視線をこちらに向けてくると彼の雰囲気が少し変化した。


「はい。もし、婚姻後私が何かやりたい事があったとしてオクラドヴァニア様はお止めになりますか?」


「…何かやりたい事があるのか?」


「いいえ、今の所はございません。例え話として考えて頂きたいのですがどうでしょうか?」


「確かに君ならありえるのか……そうだな止めたりはしないな。ただ俺が力になれるかは内容次第だな。」


顎に手を当てると少し悩んではいたが、想定通りの答えに心の中で頷き、次に彼はどこまで許してくれるのかを確認してみる。


「では長期…数年単位で屋敷を開けたいと申し上げたらどうなさいますか?」


(本当は数十年だけど…流石に長すぎて難しいわよね。数年でも長すぎたかも知れないけれどどうかしらね?)


「……それも止めはしないだろうな。但し安否確認の為に日々の連絡は求める事になると思う。」


(最高すぎるわ!)


今回はそれ程悩む事なく出したその答えに感動し、やはり婚姻を結ぶのはこの人しかいないのだと実感した。


(ご婦人達が集まるサロンでもそう言った内容でお困りになる方々ばかりで、婚姻を結ぶと自由が無くなる方が多いのに…。)


恋や愛が無くても体裁があるこの国でどんな理由があるにせよ婚姻後に夫人が1日でも家を開ける事を許す夫君の数は少なく、それを年単位の長期間家を開けたいと言って許してくれる夫君等知る限り父を含め片手で数える程度しか居なかったが、その中の1人と巡り会えた喜びを隠す事が出来ず口角が上がるのを我慢できなかった。


「ふふ素晴らしいです。1ヶ月後にはそれだけ心の広いオクラドヴァニア様の妻として嫁げる私は幸せ者だと思います。」


「そうか、………君の気持ちは良く分かった。ボイティ、君が何かを考えているようならでき得る限り侯将家として力になろう。」


分かりやすく話した事もあるが意図に気づき何処か納得した表情になったオクラドヴァニアは固かった表情を崩すと、個人では無く婚姻後彼に譲られるヴェルトロース侯将家の名を使う事を容認してくれた。


(どうやら嫁いだ私が、隣で寄り添う生活を望んでいる訳では無い事が伝わったみたいね。)


言いたい事が伝わったようで安心を感じたが今詮索されて父や兄に知られ、こちらの不利になる状況に追い込まれるのを避ける為に濁しておく。


「まだわかりませんが、未来の侯将家家長様(旦那様)が味方に付いて下さってとても心強いですわ。」


「ああ、そうなれるように努力しよう。」


そう言って柔らかく笑う彼の気掛かりは本当に解消されたのだろう雰囲気がいつも通りに戻り、時間が経ち温くなったお茶を飲み干すと、準備に忙しいだろうからと早々に茶会を切り上げ馬車に乗り帰って行った。


(何だか慌ただしかったわね…それに。)


「アンキラ、オクラドヴァニア様から頂いたその装飾品を明日の卒業式に身につけて行くことにしたわ。後は宜しくお願いね。」


見送りが終わると後ろに控えていた侍女に贈られた化粧箱の装飾品を任せその場を後にした。


「かしこまりました。お嬢様ーーー。」


「ええ、分かったわ。」


後ろで何か伝えてきたアンキラに振り向き空返事をして、出来るだけ優雅に見える速度で足早に自分の部屋に戻ると寝室の扉を開け中に入り鍵をかけてベットに倒れ込む。


(何あの質問は!驚くじゃない!ここまで2人の関係を見守ってきて婚姻迄後1ヶ月だと言うのに今更婚約を解消をされても困るのよ。それにオクラドヴァニアだって私が嫁ぐ時に納められる持参金が必要な筈なのに何故今になってあんな事を聞いて……そう言えばあの石を贈る程の財力があるのだったわ、もうお借りしていた分はお父様に返済してラヴーシュカと婚姻を結びたいとかかしら?う〜んそれは出来ないこともないけど色々と現実的じゃないわよね……それに2人の件は婚姻後に私から伝える予定だから今告白されるても非常に困るし……。それに私が婚姻後に夢見る生活に憧れている訳ではないことが分かって安心していたようだし、婚姻はこれで安泰よね?いやでも今日はラヴーシュカは休みだったわよね……)


「ボイティ、何百面相してるんだ?」

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