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そんなある日の定期的なお茶会に何処か浮かない顔で来たオクラドヴァニアにサロンの参加について尋ねられた。
「疲れたりはしておりません。皆様色々教えて下さる優しい方達ばかりですので……。」
(今の質問はそのままの意味だったのかしら?もしかしたらこれが例の派閥の何とかって話しかも知れないわ…。)
「そうか、ならいいが……。」
個人宛であった為ヴィルカーチ侯将家には連絡を入れずに参加していたが、関わり合いになってはいけない将家があったのかと不安に駆られた。
「オクラドヴァニア様…私今まで社交の場には出ていなかったのでよく分からないのですが、もしかしてサロンに伺うのはご迷惑だったのでしょうか?」
(きっとこれからは只々話しが楽しいだけじゃ駄目なのよね。)
「いや…言い方が悪かった。母は社交が苦手な俺の代わりにまだ学院生の身である君が無理をして付き合っているのでは無いかと心配しているだけだ。」
「ご心配をお掛けして申し訳ございません。無理はしておりませんのでお義母様にもお伝え下さい。」
年に数度顔を合わせるほわほわとしているが押しの強い、未来の義母であるヴィルカーチ侯将家家長夫人を思い浮かべる。
「ああ、伝えておく。只余りの手紙の量に母も困惑していたので、君からも直接伝え欲しい。来週のお茶会は我が家で開いても構わないか?」
「構いませんが、手紙の量とは?」
「まだ学院生の君をサロンに呼んでも良いか毎回其々の将家が尋ねてくる手紙だ。君の家にも届いていると思うが?」
「!?……初めて知りました。」
(そんな制度があったなんて…、やはり楽しいだけじゃ駄目なのだわ……。)
「……クックック!君は面白いな。」
「面白いと言うより、疎い事がまだまだ多いのですわ。」
「そうか、これから知っていけば良い事だ。それと君の家も、我が家も特に仲が悪い将家はいない安心してくれ。」
「はい…。」
「あぁ、そう言えばこの間領地に行った時君にも持ってきたフルクの変種の量産を始めて……
落ち込んだ雰囲気を感じ取ったのか、この間持ってきた黄色く長細い柔らかな果物のフルクとよく似た桃色の果物に話しを変えてきた。
(気を使わせてしまったみたいだわ。)
君も気に入っていただろう?上手く出来上がる頃には一緒に見に行かないか?」
「ええ、楽しみにしております。」
(その頃には嫁いでいるかもしれないわね…。)
「そうか、良かった。」
笑顔で返事をすると、何処となく安心したように見えたオクラドヴァニアはその後黙ってお茶を飲んでいた。
(分からない事が多いけど、こうして彼とお茶を飲みながら偶に話しをする生活が続いていくのも良いかもしれないわね。)
そして、いつの頃からか彼との婚姻式を迎える日が待ち通しくなっていた。