死相が出てます 前編
久しぶりに小説を書きました。宜しくお願いします。
設定資料だけなら10年物なのですが(笑)
「死相が出ている」
入学式が終わり、各々が教室に誘導されている最中に言われたのは、なんとも縁起の悪い言葉だった。
相手は誰だか知らない。
そもそも、留学してきたのだ。知人は一人も居ないはず。
制服の赤いラインが同級生であることを教えてくれる。
身長はそこそこ。
赤い髪をした男だ。顔はかなり整っている。
目が大きい。
「教室はこっち?」
「…ああ、そうみたい」
後ろから続々と人が来るので、歩みを止める訳にもいかない。
「君、名前は?」
「えっと、副武。滝谷副武」
「滝谷ね。俺は霧谷紡だ。放課後、少し話をしないかい?」
「あ〜、ちょっと待って」
突然すぎる霧谷の申し出に、僕は反応が鈍る。
今日の予定を確認するため、スケジュール帳を開いた。
「今日は……」
今日の予定は無いみたいだ。
付き合ってみるか。
「死相が薄まった」
「え?」
「あ、これでも魔導士なんだ」
「……学校、間違えたの?」
思わず言ってしまった。
しかし、それほどまでに魔導士は数が限られているからだ。
だが、死相の話は合点がいった。
むしろ、現実味を帯びてくる。
僕、本当に死ぬのか?
後で必ず、話を聞かなければいけないくなった。
「別に学校を間違えたとか、そう言うわけじゃ無いんだけど、どう? 事情が事情なだけに、ね」
「え? ああ。今日は予定が無いから、僕で良ければ」
「なら決まり。さて、教室に着いたね」
どうやら、同じクラスの様だ。
「あら、姫さんが居る」
「姫さん?」
霧谷の声に疑問を持ちながら教室に入る。
教室にはひとだかりができていた。
その中心人物は、とびっきりの美人だ。
「有名人なの?」
「第七王女だよ」
「へー。あれが。ええっ?!」
なるほど。お姫様ってそう言うことか!
平静すぎる霧谷もだけど、正真正銘のお姫様とクラスメートってことも衝撃だよ。
金髪碧眼でお人形さんみたいだ。
まあ、僕とは縁がないだろう。
「知らないの?」
「俺は留学で来たから」
「サラトフか? 扶桑か? それともファショナタか?」
いや、ファショナタは流石に。
ビスケーニャの方が近いはず。
いや、近くは無いか。
「肌の色的には扶桑だが、訛りが無いしサラトフか?」
「よく分かったね」
「俺も一時期、サラトフに居たからね」
「へー。奇遇だね」
そんなこともあるか。
「席が隣同士なんて」
「そっち?!」
偶然にしちゃ、出来すぎてるが、まあいいや。
「僕は金剛府だったけど、霧谷は?」
「本府は都府だった。あと、大州は南戸県と…」
そこからしばらく、故郷の話で盛り上がった。
尤も、霧谷がサラトフに居たのは幼少期のようだったが。
ーーー◇
昼食。
聖刻学園は大きな食堂が北と南にある。
アルゴストリオン王国聖刻自治州きっての学校であり、その規模は世界一位を誇っている。
「リゲル・ロゾーニだ。スクープはあるかい?」
「滝谷副武だ。えと、死相が出てるって言われた」
「……言ったの、俺じゃん」
霧谷紡に連れられ、食堂に来たのだが、リゲル・ロゾーニが食堂で合流した。
厚い丸メガネをかけており、髪はモジャモジャしている。
長身痩躯である。190センチはあるか? 羨ましい。
「リゲルは副武と会う少し前に知り合ったんだ。ここの新聞部は規模が大きいけど、彼はそこに入るんだってさ」
「霧谷は俺が目を付けた。これからは密着取材をさせてもらうことが確定している」
「本人の了承は無しでかい?!」
リゲルは面白い奴だ。
まるで、昔から友達であったかの様に話している。
「で、死相ってなんだ?」
「あー内密で頼む。俺はこれでも魔導士なんだ」
「なんですと?! 益々興味深い!」
霧谷が小声で話すと、リゲルが大声で叫び視線を集める。
声が大きすぎるよ。
「あ、食券番号が呼ばれた。行ってくる」
「マイペースだなおい」
「…大物かもしれない」
リゲルは、どこ吹く風で窓口に行ってしまった。
その後、霧谷も俺も食券番号が呼ばれたので取りに行く。
おお。美味そうだ。
和洋折衷で良き。
「ここの食堂、安くて美味しいし、ボリュームも選べるから良いね」
「ん? 霧谷? 別院はそうじゃないのか?」
「リゲル? 別院って?」
「聖刻学院の魔導士育成学校のことだよ」
へー。そんなのもあるんだ。
いや、サラトフにも似た様なのがあった気がする。
「他校に行ってたなんて一言も言ってないぞ?」
「お前、俺らより1つ年上だろ?」
「な、なんで知ってる?!」
「新聞部を舐めるな…」
「リゲルは、まだ入ってないだろ?!」
霧谷って一つ年上なんだ。
同級生だから同い年かと思った。
「……別院の食事は無料だからな」
「「行ってたの?!」」
「……秘密だぞ」
なるほど。だから一つ年上なのか。
俺たちは着席して食べ始めた。
「で、死相って?」
「魔法にも色々なものがあるけど、占いとかに近いかな。所謂古典魔法。だから、外れる時もあるんだけど。女性には特に人気の魔法だな」
「……僕、死ぬのか?」
そうだ。大事な話だ。
リゲルが言うまで、少し忘れてた。
「いや、かなり薄くなってきている。多分放課後に事故でも遭う可能性があったんだろう」
なにそれ怖い。
と言うか、魔法ってそんなことも分かるんだ。
「魔法の事は秘密にしようと思ってたのに、死相が出てる人に遭うなんて思っても見なかったよ」
「秘密を知れた俺にとっては朗報だ。ん? おっと。今のは失言だ。済まない」
リゲルは相変わらずと言う感じだったが、急に謝りはじめた。
「そうだな。死ぬ可能性がある滝谷にとっては、悲報以外の何物でも無いからな。リゲル不謹慎」
ああ。なるほど。
あまり実感が無いのが正直なところなんだけど。
「とにかく、俺の見立てでは、死相に関しては、帰宅時間をずらせば大丈夫なはずだ」
「なるほど」
それは安心だ。
友達と放課後に話をしてから帰る。
如何にも学生らしい。
ーーー◇
凛とした雰囲気の彼女は、第七王女ソフィア・アルゴストリオンである。
端整な顔立ちで、澄んだ青い瞳が印象的である。流れる様な金の長髪は絹の様に輝いている。
「ソフィアさんって身長高いよね」
「168センチ」
「霧谷はなんで知ってるの?」
「思うことは皆同じって訳だ。滝谷はより深刻だろうが」
「皆まで言わないで」
そう。僕、滝谷副武の身長は161センチなのである。
悲しいわ。 霧谷は……170は超えてるのに……
「ところで霧谷。放課後の話になんでお姫様が居るんだ?」
「生徒会のことだからね」
え? 今、なんて?
「生徒会の説明会だ。聞いて損は無いから、安心してくれ。なんなら入っても良い」
「話が急だな」
「死相の時間潰しだから、何でも良いんだよ」
「チョイスが変わってると思う」
「俺は選んだんじゃなくて、選ばれたんだ」
霧谷は生徒会に呼ばれたみたいだ。
それにしても、ここの生徒会って選挙とか無いんだね。
しばらくは霧谷から生徒会について質問をした。
「失礼。遅れて申し訳ないわ」
入室してきたのは四人の先輩だった。
現生徒会のメンバーである。
「さて、よく来てくれました。まずは自己紹介から。私が総書記を務めます、ハンナ・アクセル・フォン・ビョルケンヘイムよ。気軽にハンナって呼んで下さいね」
ハンナ先輩は4年生。聖刻独立海軍が支援する軍幹部科に所属している。軍幹部科などの一部の科は、企業などと提携しており、5年制となっている。
総書記とは、書記長が生徒会長を兼任する場合につくものであり、常設では無い。去年の不祥事で生徒会の成り手が居ない為の措置らしい。
そんなハンナ先輩は、すごく美人だ。
紫がかった銀髪は妖艶さがあり、豊満な胸はかなり育っており、目のやり場に困る。
ぷるん。
身長は170㎝と長身であり、クールな美人である。
「ラニス=ラニア。会計監査補よ」
「……ハンナを手伝ってるだけ。生徒会関係者でははない」
「がっつり関わってるのに?」
「……必要だから。手伝ってるだけ」
気怠そうな雰囲気のラニア先輩は5年生。ハンナと同じく、聖刻独立海軍が支援する軍幹部科に所属している。彼女は聖刻学院別院の卒業生であり、独立海軍の支援で4年次に編入されたそう。
生徒会に入るタチではないそうだが、ハンナ先輩を助けるために慣れないことをしているのだそう。
霧谷はよく知っているなー。
ちなみに、別院の知り合いでは無いそうだ。
ラニア先輩は黒髪ぱっつんおかっぱにポニーテールである。低身長で可愛い。
ぺたん。
「ヨルングス・フランコ。書記補佐だが、最近は会計の手伝いばかりしている。部活はラグビー部だ」
「主将なのよ〜」
フランコ先輩は普通科の三年生。
ガタイが良く、如何にもラグビーをしてますと言う様相だ。
ムキムキ。
「以上が今の生徒会よ。とても回せる人数じゃ無いわ。生徒会は貴方達を歓迎するわ」
ハンナ先輩はそう言うと、早速書類を取り出した。
「ソフィアさんと紡はこちらから招待したのだから、入るのはほぼ確定よ。後は本人次第」
「「問題ありません」」
「助かるわ。じゃあ、ここに名前だけ書いといてね。紡は会計長。ソフィアさんは会計監査長よ」
そういうと、二人は仕方が無いと言う感じで書類に名前を書いた。どうやら二人とも、前から面識があるみたい。
霧谷なんて呼び捨てだしね。
「知り合いに良い人がいれば、勧誘してきてね」
美人と知り合いで少し嫉妬心が出てきてしまう。
だめだ。邪念は退散。
「ラニスはソフィアさんに仕事を教えてあげて」
「分かったわ。ソフィアさんはこちらへ」
「ヨルングスは紡と続きを頼むわ」
「宜しく頼む」
「宜しく先輩」
あれ? 二人とも居なくなった?
「さて、生徒会は人が足りて無いわ。君も入ってくれると助かるのだけれど、まずは生徒会について説明しましょう」
ハンナ先輩は僕の対応をする様だ。
凄い美人だ。彼氏くらい、居るんだろう。
じゃなくて。
「滝谷君ね。紡からは話を聞いてるわ。死相が出てるって。これも何かの縁かも知れないわ」
「確かに、妙な縁かもしれませんね」
そうして、ハンナ先輩からあれこれを教わった。
部活に入る予定は無いし、霧谷の手伝いくらいならと思って入ることにしたのだ。
この時は、それほど深く考えなかったが、後々考えると凄い縁だったと思た。
生徒会に入ったのも、その一つだ。
ーーー◇
聖刻学園生徒会 聖歴1937年度
総書記:ハンナ・ビョルケンヘイム
会計長:霧谷紡
会計補佐:滝谷副武
会計監査:ソフィア・アルゴストリオン
監査補:ラニス=ラニア
書記補:ヨルングス・フランコ
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