08 再会
SIDE:メリア
ブルームの街の外壁を遠目に確認し、そこを目指して私達は道を進んでいく。
次第に壁が近付き、やがて道の先には大きな門も見えてきた。
今は大きく開け放たれているそれは、有事の際には閉じられるはずだが、メンテナンスの時を除いて長らく閉じたことは無いらしい。
門番の兵は立っているが基本的に街への出入りは自由だ。
夜間の出入りはチェックしてるらしいが。
更に街に近付くと人の往来も増えてきて、あともう少しで門に辿り着くと言う頃……門前に居た旅装の一団がこちらに気付いて、その中の一人が慌てた様子で走ってくるのが見えた。
「グレン様!!ご無事でしたか!!」
「イェニー。心配をかけました。私はこの通り無事です。皆は?」
「あぁ…!良かった……私達も皆無事です!」
イェニーと呼ばれた黒髪のショートボブの女性……おそらくはグレンの同僚の騎士だろう……は、涙を浮かべながらグレンの無事を喜ぶ。
なかなかの美人さん。
歳は20歳前後だろうか?
グレンの例もあるからもっと若いかもしれない。
……ははぁ〜、なるほど。
彼女のグレンに対する態度を見れば、直ぐにどういう感情を抱いているのかが分かった。
やっぱり罪作りな男だったみたいね、グレンは。
っと、そこでようやく一緒にいた私にも気が付いたらしい。
「……そちらの少女は?」
何だか少し警戒されているみたいね。
「ああ、彼女はメリアと言いまして……森で私を助けてくれた命の恩人ですよ」
「どうも。メリアと言います。まぁ、助けたのはたまたまの成り行きですね」
ぺこり、と挨拶しておく。
「そうですか……グレン様を助けていただいて感謝します」
そう言って頭を下げるイェニーさん。
ふむ……この人も、真面目で礼儀正しい感じね。
二人のやり取りから察するに、上司と部下の関係なのだろう。
そして、イェニーさんの後ろから他のメンバーもこちらにやって来た。
「「グレン様!!」」
「どうやら全員揃ったようですね。皆無事で何よりです」
グレンとイェニーさん、そしてその他のメンバー合わせ総勢8名の……おそらく全員が騎士と思われる集団。
みんな揃ったところで改めて自己紹介をしてくれた。
この集団のリーダーは、やはりグレン。
そしてメンバーは、魔境たる『魔女の森』を探索する為に騎士団でも指折りの精鋭が集められているとのこと。
そして、私のこともグレンから紹介される。
彼らの目的である伝説の『森の魔女』本人ではないが、その技の全てを受け継いだ義孫である、と。
「「「……」」」
それを聞いた面々は一様に、それはもう胡散臭げな表情を浮かべる。
……まぁね。
数百年の時を生きたと言われる伝説の魔女の後継者が、こんな小娘だなんて……俄には信じられないのでしょうね。
「皆、どうしたのですか?」
「私の事を疑ってるのでしょう。グレン、あなたは私に騙されてる……そう思われてるのよ」
「え…?」
キョトン、とした表情で不思議そうに呟く。
全く思いもよらない事だったみたい。
……確かにこれは皆が心配になる気持ちも分かるわね。
何だか私の事をお人好しだとか心配してたけど、自分の方がよっぽど……
「貴様!!平民の分際でグレン様を呼び捨てにするばかりか、愚弄するか!!」
と、私の言葉と態度が気に障ったのか、メンバーの一人が激昂して怒鳴りつけてくる。
この人は確か……
「カール!!やめなさい!!あなたの方こそ失礼ですよ!!」
そうそう。
カールだったわ。
探索隊のメンバーは皆かなり若く見えるが、その中でもとりわけ若く、まだあどけなさの残る少年だ。
なので凄んできてもキャンキャン子犬が吠えてるくらいにしか感じず、寧ろ微笑ましくすら思ってしまう。
まぁ、年若いと言ったら私の方がそうなんだけども。
「しかし!!」
「この方は、姫様を救ってくれるかもしれないお方なんですよ!!いえ、それ以前に『平民の分際』などと……あなたこそ民を愚弄するような発言は慎みなさい!!」
「ぐっ……分かりました……」
……グレンはいつも穏やかで、怒鳴ることなどなさそうだと思ってたけど、言うときは言うわね。
まぁ、貴族としては彼のようなタイプの方が多いわね、残念ながら。
だけど、彼が平民云々と言った時……他のメンバーは顔を顰めていたので、彼とグレン以外は貴族ではないのかも。
騎士階級は貴族の子弟が多いと思うのだけど……実戦経験のある叩き上げを抜擢するなら、そうなるのは当たり前かもしれない。
「なるほど……皆、メリアの実力を疑っていると言うことですか……私自身は既にこの目で確かめたのですがね」
戦闘能力は見せたけど、薬師としての実力はまだ見せてないわよ。
あ、薬湯は飲ませたっけ。
「別に私がどう思われようが、やるべきことは変わらないわ。それとも……素性の知れない娘は、『姫様』に近付けられないかしらね?」
彼らの立場からすれば、目的の人物は見つからず、年端もいかない自称義理の孫娘を連れて行くなど、下手をすれば責任問題になるかもしれないのだから、理解は出来る。
ただ、だからといって私が引き下がる理由はない。
幼い命が失われるかも知れないと聞いて、それを見過ごすことなど私には出来ないのだから。
「「「……」」」
隊長であるグレンが認めていると言うのもあって表立って反論はしないが、納得はいっておらず不満そうに黙り込む面々。
だが、そこで沈黙を破る者がいた。
「あの……すみません。さっきから気になってたのですが、その狼って…もしかして、ルナ・ウルフですか?」
突然、イェニーさんがそんな事を聞いてきたのだ。
「ええ、そうよ。レヴィって言うの」
「わうっ!」
自分の話をされているのを察して、嬉しそうに尻尾を振るレヴィ。
この場の険悪な雰囲気も、この子には全く関係ないみたいね。
「ご覧の通り人懐こいし、従魔の首輪もしているから……別に問題は無いわよ?」
「え、ええ……それは分かってます」
「何だ、イェニー?ルナ・ウルフと言うのは?」
メンバーの一人がイェニーさんに問いかける。
「ルナ・ウルフと言うのはAランクの魔物ですよ、ライノスさん。孤高の獣と言われ、人に懐くのはもちろん、調教師がテイム出来たと言う話も聞いたことも無いのですが……長い時を生きたルナ・ウルフは『神狼』と呼ばれ、最終的にはSランクにも達する事があると言われています」
イェニーさんの説明にざわつく一同。
「レヴィは賢い上に、とても頼りになりますよ。森の中の戦闘ではかなり助けられました」
グレンがそうフォロー(?)してくれる。
すると、イェニーさんが少し言いにくそうに……だが意を決して言う。
「その、触らせてもらっても良いですか?」
「本人に聞いてみて?」
と、私が言うと、彼女はレヴィに近付いて、おずおずと訪ねた。
「……触らせてくれる?」
「わぅっ!」
「いいって」
「で、では失礼して…………ふわ〜、なんて柔らかな手触り……サラサラのふわふわでモフモフです………」
ふふふ……そうでしょうそうでしょう。
グレンに続いて、あなたもレヴィの毛並みの虜になったようね。
どうやら彼女は良い人のようね。
モフモフ好きに悪い人はいないのだから!
そして、一頻り手触りを堪能したあと、彼女は少し 遠慮がちな小さな声で言う。
「……私は、メリアさんの事信じます。グレン様を助けていただきましたし……ルナ・ウルフを手懐けられるほどの方なら実力も確かでしょうし……グレン様も認めてらっしゃいますし……疑うような真似をして申し訳ありません。どうか姫様をお救いください」
大体グレンのお陰なのね。
あとレヴィも。
まぁ私もさっきはああ言ったけど、信じて貰える方が嬉しいに決まってる。
だから、約束は出来ないけど……
「もちろんそのつもり。力は尽くすわ」
そう宣言する。
グレンにしたのと同じように。
「お願いします」
そう言って彼女は深々と頭を下げた。
そしてそれを皮切りに、他のメンバーも口々に謝罪と礼を言い、『姫様』の命を救ってくれと懇願してくる。
先程私に食って掛かってきたカールですらも。
もしかしたら、彼も職務に忠実であろうとするあまりのことだったのかも知れない……なんて思う私はお人好しなのかも。
そしてグレンは、ほっとしたように言う。
「分かってもらえたようで何よりです。何れにせよ、全責任は私が持ちますから。さぁ、こんなところでいつまでも立ち話しているのもなんですから、街に入りましょう」
そんな風にその場をまとめるのだった。




