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森の魔女の後継者  作者: O.T.I


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06 魔獣


SIDE:グレン



 やはり強敵だ。


 前回は不意を突かれたとは言え、手練の騎士や冒険者が撤退を余儀なくされたのだ。

 今回はあの時よりも更に人数が少なく、それだけを見れば状況は良くないのだが……


 彼女は、不意打ちさえなければ対処可能と言った。

 この森のことを熟知しているであろう彼女がそう言うのならば、それは信頼できると思うのだが……果たしてこの人数で乗り切れるのだろうかと言う疑念も湧いてしまう。


 いや、どのみち逃げられないのなら、ここで何とかしなければならないのだ。


 余計な雑念は振り払え!


 お前も騎士の端くれなら、これくらい凌いでみせろ!



 そう、己を鼓舞して剣を振るう。



 一度後衛のメリアまで抜かれてしまったが、その後は何とか前衛としての役割をこなしている。

 レヴィとの連携も少しずつ息が合ってきたように思える。



 だが、俊敏な動きを捉えて決定的な一撃を加えることが出来ていない。

 どうにかして動きを封じられないものか……



 そう、少し焦り始めたとき、それは起きた。








SIDE:メリア



 先程は突破されたが、グレンとレヴィの前衛は少しずつ安定し、私も大きな魔法を放つ余裕が出てきた。


 しかし敵もさるもので、かなりの俊敏性を発揮してまともに攻撃を喰らってくれない。

 あのレヴィの攻撃ですら躱されるのだから相当だ。


 だが、それは向こうも同じ。

 お互いに決め手に欠ける膠着状態ということだ。




 ならば状況を打開するための一手を打たなければならない。

 幸い前衛は安定している。

 切り札を使うなら今のうちだろう。


 これを使えば暫く動けなくなるかもしれないが、今日は結構進むことができたから良しとしよう。



 そして私は精神を集中し、身体中の魔力を根こそぎ掻き集める。


 危険な兆候を野生の勘で察知でもしたのか、キマイラは前衛を無視してこちらに襲いかかろうとするが、そうはさせじとグレンとレヴィが何とか押し留めてくれる。


 そして全ての準備が整う。



「二人とも、離れて!!」



 私が合図をすると、二人はバッ、と離脱した。


 それを見てキマイラもその場を離れようとするが、もう遅い!!



「光よ!!」



 私の願いを込めた魔力が解放され、波動となって周囲に放たれる。


 そして、それを受けた木々に点った光……暗闇を優しく照らしてくれていたそれが一層輝きを増した!


 更にその光は凝集し、無数の光線となってキマイラに降り注ぐ!!



『グギャアーーーーッッッ!!!』



 凄まじい悲鳴が上がる!


 一つ一つが針のように細い光線……例えそれが高熱を帯びていたとしても、それだけでは魔獣たるキマイラには大したダメージを与えることは出来ないだろう。

 しかし、それが数十、数百、数千ともなれば話は別だ。




 夜道を優しく照らし……今はこうして熱線を放って魔獣を攻撃してくれたのは『夜光樹』と言う、この森固有の樹だ。

 その名の通り夜になると葉や花が淡い光を放つのだが、本来はまだその季節ではない上に、こんな殺傷力を持つ光線を放つはずもない。

 だが、私のスキル…『緑の支配者(プラントマスター)』で『お願い』すれば……季節はある程度無視できるし、潜在能力まで引き出すことができるのだ。








 肉や毛が焼け焦げる不快な匂いが辺りに漂う。

 キマイラは所々から煙を上げ、大ダメージを受けた様子。


 しかし、満身創痍の状態ではあるが未だ健在であり、一矢報いようと大きな口を開けてブレスを放とうとしている。



 だが……!



「でりゃあーーーーーっっ!!」


「ウォンッ!!!」


 一時退避していたグレンとレヴィが再びキマイラに肉薄し、同時に攻撃を繰り出す!!



 ザンッ!!


 ザシュッ!!



 今度こそクリーンヒットとなり、キマイラは首筋と脇腹を深く斬り裂かれて血飛沫を上げた!!




『ぐぉーーーん……』


 ズズンッ……



 そして、ついに魔獣は地に倒れ伏すのであった。










SIDE:グレン



 どうにか魔獣を斃すことができた。


 最後のメリアの攻撃が無ければどうなっていたか分からない。

 凄まじい威力だったが、あれも彼女のスキルなのか……



 安堵と披露でその場に座り込みたくなるのを堪えて、メリアの方を見る……!?


「メリア!!大丈夫ですか!?」



 見れば膝をついて肩で息をしているではないか。

 レヴィが心配そうに寄り添っている。



「はぁ……はぁ……大丈夫。少し魔力を使いすぎただけだから。止めを刺してくれてありがとう。レヴィもね」


「くぅん……」


「いえ、そんな……こちらこそ、あの攻撃がなければ斃せませんでした」


「大丈夫……とは言え、申し訳ないけど今日はここまでね。明日の午前中には森を抜けられると思うけど」


「ええ、もちろん無理をしないで休んでください。あなたのスキルのおかげでかなり距離を稼げたと思いますし……」


 そう言いながら俺は荷物から敷布を取り出して、彼女が横になるのを手伝う。


 彼女はかなり汗を掻いているが、むしろ寒そうに細かく震えている。

 とても大丈夫なようには見えないが……


 この症状は知ってる。

 限界まで魔力を使った魔導士が陥ったのを見たことがある。

 こうなったら暫くは安静にしなければならない。

 とにかく今はゆっくり休ませなければ。


 だが、これだけ汗を掻いてると身体が冷えてしまうだろう。

 季節は初夏にさしかかろうとしてるとは言え、夜はまだ冷え込む。

 そう、思うのだが……


「風邪を引いてしまうので、汗を拭いたほうが良いと思うのですが……その……」


「そうね。流石にお願いは出来ないから……暫く向こうを見ててくれる?」


「え、ええ。少し離れてますから、終わったら声をかけてください」


 簡易テントでもあれば良かったのだが……生憎と、大荷物になるのを避けるため持っていない。



 少し離れたが、衣擦れの音が聞こえてきて妙に落ち着かない気分になる。


 俺はそれを振り払うように別の作業を始める。

 取りあえず、キマイラの死体を何とかしなければならない。


 ……とは言っても。

 これほどの巨体をどうすれば良いのやら。


 生憎と魔物素材の知識は無いし、解体する技術もない。

 肉が食べられるとも思えないし、穴を掘って埋めるにも大き過ぎる。


 しかし、これを放置したまま休憩するのもちょっと……



 そんなふうにアレコレ悩んでいると、メリアから声がかかる。


「放っておけば森の動物たちの糧になるだけ……と言っても、確かに寝にくいわよね。あ、もうちょっと向こう向いてて」


「す。すみません!」


 声がかかったので、思わず彼女の方を振り返るところだった。  

 いや、正直に言えば一瞬だけ……闇の中に白い肌が浮かびあがるのが目に入ってしまった。


 い、いや、決してわざとではない!

 それにレヴィが彼女の姿を隠すように座ってるから!


 ……俺は誰に言い訳してるのか。










SIDE:メリア



「ちょっと待ってて。地魔法で穴を掘るわ」


「いけません!そんな状態で魔法なんて!!」


「大丈夫。さっき放出した魔力が余って辺りに滞留してるから……それを使えば負担はないわ」


 先程の攻撃は私の切り札の一つだけど、瞬間的に最大威力を出すため細かな調整が効かなかった。

 だから、攻撃に使われなかった余剰魔力が周囲に残っている。

 元は私の魔力だから私が再利用するのは問題ないし、多少は回収して回復の助けにもなる。


「『我は大地の精に希う。今一度(ひとたび)の眠りより目覚め、地の底へと至る道を開き給え。地精(べフィス)開洞(エクスケイブ)』」


 普段であれば無詠唱で使える魔法だが、消耗しきった今では制御が難しくなるので丁寧に詠唱する。


 魔法が発動すると、キマイラの死体の脇の地面に大きな穴が開いた。


「そこに埋葬してもらえる?」


「ええ、分かりました」


 あれ程の巨体だから動かすのも一苦労だと思うけど、直ぐ横だから引きずれば大丈夫でしよう。





 魔獣を埋葬してようやく一息つく。


 スキルを行使した直後は酷い倦怠感があったが、ある程度魔力を回収したら大分マシになってきた。


「さあ、もう無理しないで休んでください。火起こしと番はしておきますから」


「もうかなり楽になったのだけど……でも、まぁ、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 そう言って横になると、急激な眠気に襲われる。

 どうやら自分で思っている以上に疲れていたらしい。




 明日もまた頑張らなければ。

 そう決意を新たにしながら、私の意識は薄れていくのだった。


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