7.天地
魔女と精霊がどうして戦争をしているのか?そう問われたならば、精霊が喧嘩を売って来たから、魔女が買った、そんな答えが帰って来る。
では、誰が喧嘩を売って来たのか?そんな問いには、『異精霊』、こんな簡潔的な答えが即座に返ってくることだろう。
ここで少し余談だが、精霊の上位『異精霊』の1つ上であり、最上位であるたった1人の……いや、1匹……いや、精霊の中で1体しかいない女王がいる。その女王の呼ばれ方は、『月虹華姫』は昔の言い方で、今は『聖霊』である。
最上位なのだからもちろん、『異精霊』よりも全然強い。だが、その『聖霊』は戦争に参加していない。
その理由は分かっていないのだが、一般的な説に『異精霊』と『聖霊』との対立、実は『聖霊』も裏では戦争に参加している、という2つの説がある。まあ、この他にも諸説あるのでどれが正解かなんて分からないが、後者が有力なんだとか……。
そんな新聞の記事を読みながら、ニマニマと可愛く微笑む魔女がいた。その魔女は、堂々と座りながらない胸を張り、杖を持ち食堂の中だと言うのにとんがり帽子を被りながら、少しかっこいい男前な声色で
「ついぞ、我の出番がやって来たようだな。はっはっはっ!」
そんな、痛い事を言って周りの魔女達に、引きつった笑みを作らし、ドン引かれ距離を置かれた、痛い魔女。だがそんな、いつもの日常が音を立てて崩れ去る。そんな予感が胸から溢れ出す。
杖を片手にとんがり帽子を被った魔女は、微笑み立ち上がると今、食堂に入って来たある魔女の所へと歩みを進め、一言お礼を言う為にニッコリと笑みを浮かべて口を開いた。
★(_ _*)☆
『異精霊』に殴られた少女は、一瞬で後ろへと吹き飛ぶ。それと同時に、「稲妻」を支えていた少女の電撃がなくなり一気に、「稲妻」の天井が空から降って来た。
少女の予想以上に威力のあった攻撃だったが、これぐらいなら、痛いという訳ではない。もっと言えば避けれたのだが、殴られた方が楽だったからそうしただけなのだ。だから少女は今、微笑んでいる。
「あははは、死ね、虫けら」
そんな中、『異精霊』が少女よりもなお速く、移動し回り込む。そして、『異精霊』は少女の顔目がけて蹴り上げのだが、蹴りが少女の顔ギリギリで空を切り、何も無い空中を蹴った。
少女は蹴りが来る寸前で空中で身をひねり、蹴りを躱した。そして、杖を地面から空に向かって動かす。
その瞬間、『異精霊』は少し嫌そうに顔を歪めながら雷を地面に向かって雷を放ち、下から来た青色の無数の雷のうちの1本と衝突させ両者の雷が辺りに散って行った。
なんとか直撃だけは免れた『異精霊』。
だが、身動きが取れなくなりそこに留まる。それでも、その原因を作った少女を睨みつけて、雷を纏い出す。
少女は地面から無数の綺麗な青い雷を空へと落とし、その雷で「稲妻」を支えた。その雷の柱を維持し続けているために、下手に動くと当たってしまい、少なからずダメージを食らってしまうのだ。だから『異精霊』は静止している。
だが、それは少女も同じだった。「稲妻」から雷を落とされるかもしれないから……。
それにどうやら、今の魔法でいよいよ『異精霊』は結構本気になったらしい。目がガチだ。それに上にある「稲妻」の色が変わり初めたのだ。
さっきまでは単なる遊び。ただの茶番だ。だが、もう違う。そう視線が吠えているようだった。
まあ、いくら精神が子供だろうと怒る時は怒るし、本気になる時は本気になる。
「やってくれたね?もう、遊びは終わり」
「なら……こっち……も」
『異精霊』は殺意を、少女は敵意を出しながら言葉を発する。そして数秒間、互いに動かない様子見の時間が続き、ぶつかり合った。
最初に動いたのは『異精霊』であり、指を空から地面へと這うように少しいやらしく動かした。その瞬間、「稲妻」から幾千本の雷が少女の雷を縫うように落ちていき、地面を砕き気化させそれが地面を這い雷の床を創る。
そうして、『異精霊』は一瞬で雷を華麗に避け少女に肉薄した。
それに少女は反応し、後方へと下がり少女は杖を振って青い雷から電撃を一斉に放った。その瞬間、少女の視界に入っていた色全てが赤くなり、『異精霊』を見失った。どうやら、薄紫色だった『異精霊』の「稲妻」が赤色に変化しそれが突然光った。おそらくは、目くらましだろう。
少女は心の中で舌打ちをしながらも、辺りを見渡し次を警戒する。と、上から雷が落ちて来た。それを躱そうと体を捻る。その瞬間、少女の視界――地面から来た――『異精霊』の拳が入り込み、反応が間に合わなかった少女の頬にめり込み、上へと吹き飛ばされた。
少女は飛ばされながらも、なんとかバランスを保とうとして、上からの雷と衝突し少女の白いワンピースが焼け穴が空く。
だが、そんな事はお構い無しに赤い雷は『異精霊』によってまた、少女の青い雷を、『異精霊』の赤色の雷を砕く。それは、先程と同じループに入る事を意味し……
「これでお終い。さようなら、無能の魔女、あはははは」
空間を裂くように両手を動かし、少女を飲み込まんとする「稲妻」を創ろうとしている、歪んだ笑顔に笑い声を貼り付け、狂った声色で少女を見下す『異精霊』。
そんな少し頭がおかしくなりそうな音を聞きながら、少女は奥歯をギリッと噛み、杖を振る。そうしてその場から離れる準備をして
「双極……『迷』」
そう少女が初めてこの戦いで魔法を少し本気で使い、杖を後ろから前へ振り抜くと、一瞬で赤色の「稲妻」が紫色に戻り青色の雷を侵食し蝕み、破壊し始める。
少女が使った魔法は、電撃以上の全ての攻撃の属性の無効化。言い換えると電撃以上の魔法は、少女の魔法、『異精霊』の魔法ではなくなり誰の魔法でもなくなった……。主がいなくなったのだ。
それを瞬時に理解した『異精霊』は、逃げる少女を追いかけ戦っていた場所から両者共に一瞬で移動する。
その瞬間「稲妻」が、雷が、力の制御が出来なくなり暴れ出す。天と地が共に崩れ、空を地面をただただ破壊する爆発を、暴発を起こし出す。
少女はそれを『異精霊』を尻目に一瞥して、微笑みながら雷を避け逃げて行く。
少女が使った魔法は振り出しに戻すものであり、時々使われる魔法。だが、この魔法意外と好まれない。まあ、今みたいに大変な事になるのもそうだが、誰のものでもないのなら自分のものに全てできる。なので、使い所を間違え自分よりも強い相手に使うと自分の魔法も相手に操られて、殺されてしまうかもしれない。
だから、魔女の中でも強い部類に入る者しか好んでは使わない。
そして、自慢ではないが少女は強い部類に入る。
だが、それは相手も同じであり精霊の中でも上位にあたる『異精霊』。それは精霊の中でも強い部類に入るのだがまあ、『異精霊』は少女の相手ではない。
それは、弱いから。だから、問題はない。
「くそ、お前なんてぶっ殺してやる。死ね、死ね、死ねッ」
少し怒っている、強くておかしい精霊から逃げ続ける事約40秒。やっと両者の魔法が届いていない場所までやって来た。
少女は「稲妻」の天井を抜け、雷をバチバチと纏っている『異精霊』と対峙する。
「やったな、よくもやったな。雑魚が死ね」
「死ぬ……のは……君」
今度は少女が先に動き『異精霊』の顔に1発蹴りを入れ「稲妻」の天井がある場所に蹴り飛ばし爆発に巻き込ませた。
そして少女は、追い打ちに青い光の玉を3つ創りそれを『異精霊』目がけて放った。その瞬間、少女の目の前で大爆発が起きる。少女はシールドを展開して無傷だが、『異精霊』は違う。まあまあのダメージを負っているらしく煙が出ている。
「ぶっ殺してやる。『雷霆・銀』」
『異精霊』が両腕を広げて雷を纏う。その雷は『異精霊』の体を、服を、這うように伝って行き、包み込む。さっきまでの雷とは違う。そして、綺麗な紺色の雷はやがて、ヒビが入り割れる。
その中から出て来たのは、この世界の美しさを優雅さをかき集め、一つにしたようなそんな、そんな美しい精霊がいた。綺麗な青いドレスには、赤色の稲妻が走り、透き通るような白い肌。髪は見る角度から青、赤そして紫色に変わる綺麗な色。そんな光景に思わず少女は息を飲んだ。だが……
「はは、本気で相手してやる。死ね、魔女」
さっきまでの雰囲気とは異なり、真面目な敵意と純粋な殺意がそこにはある。だが、歪んだ笑顔は相変わらずだった。
少女は『異精霊』と向き合い、視線を逸らす事無く感心と、少しばかりの賛称を視線に込めて、睨む。それに『異精霊』は、冷酷なこちらを見下している無垢な哀れみをもって返して来る。
そしてお互い同時に動き出す。
「天成……『雷雹…・…電雷』」
「『電悠雨・五月雨』」
少女、『異精霊』、それぞれの魔法が空中を蹂躙し、大地を、天を、そして両者を、飲み込みながら、魔法どうしが悲鳴をあげて衝突する。
それは、雲一つない空に、液体と気体になりながらも空中で戦う両者を見上げる地面に、そして両者の味方に……理不尽で悪戯な破壊の雷を落として行く事を意味し――