4.開戦
「よし、直りましたね」
少女が2人を抱きしめた後、テフは少女の部屋を綺麗に元通りに直し、ルアは自分の服とテフの服、それぞれ魔法で綺麗に直した。それは、30秒とかかっていない時間内の事である。
だが、部屋は元通りに直ったのだが、
「どうして、服の色を変えたんですか?」
「えー、こっちの方が似合いますよー?」
ルアが勝手にテフの服の色を黒から青に変えていた。まあ、テフはどっちの色でも似合っているので、あまり問題はない。それに、また面倒事になるのはごめんだと思った少女は本音半分で
「テフ……似合って……る」
「ほ、本当ですか?まあ、それなら」
少し照れながら少女に言葉を返すテフ。そんなテフをジト目で見ていたルアが、ふと
「あー、そう言えば2時間予定が速くなったんでしたねー。もう少し時間がありますが、もう行きますか?それとも一緒に寝ます?それとも、ヤります?」
最後の方は上目遣いで、そんな事を口走ったルアを少女は無視すると、虚空から杖を取り出し……
「行こう……テフ」
「あー、どうしてこんな事をするんですか?何が気に食わなかったんです?ねえ、ねえってばー」
少女はルアの焦った声を聞きながら、テフの手を引いて、駆け出した――
✤(* ̄∇ ̄*)✤
家を出た後。ルアが、すごい勢いで追いついて来た為に結局3人で、何度目になるか分からないある場所に向かった。
その場所というのは、戦争にいく前の魔女達が集まる所であり、魔女なら1回は行ったことがあるはずの場所。
ここからそこまでは、約10分。魔法で行けば1分とかからない場所にある。こういう時、魔法を使えと思うだろうが、疲れるので嫌なのだ。歩いた方が、少しではあるが楽であり、時間がつぶせる。
「ど、どうして逃げたんですか?私、変な事言ってないのに。さっきの、結構傷つきましたよ?ほんとに、色んな意味で」
なぜ、ヤりますか?なんて事を急に言っておいて、変な事を言っていないと言えるのだろうか?本当に、やめて頂きたい。ルアとか言う変人。いや、変態。
まあ、それは置いといて少女は、ルアに縛る魔法を使いテフと逃げたのだが、その時どうやら少し締めすぎたようだ。なんか、胸とか言うところを特に……だからルアが少し気にしている。む、胸?みたい名前の所を。
それが何故かイラッと来て、そんな自分に悲しみを覚える。そしてポツリと少女の口から
「貧乳……は……全部……が……小さい……」
「えっ、あ、あー、あれはですね違いますよ?」
「器……背……声……心……」
「後は顔、ですね!」
少し少女が落ち込んでいると、テフがそんなフォローを入れてくれる。けど、ルアも小顔の方であるし……これは、全部負けている?
「ルア……は……小顔……な……方……テフ……も」
「えっと……急にどうしたんですかー?あっ、もしかして少し落ち込んでます、よね?」
「ルアさんが、あんな事言うからですよ?私だって、あれは傷つきました」
どうやら、テフも傷ついてはいたらしい。というか、なんなんだろうか?この敗北感?劣等感?みたいな嫌な感覚。
少女は、初めてルアを下から上までまじまじと眺めて見た。一言で言うなら、巨乳美少女。付け加えると、背が高くスタイル抜群。文句の1つも出ない体……
「ルアの……バカ」
「何怒ってるんですかー?可愛いですねー。あっ、どうして胸触ってくるんですか?痛い、どうしてそんな無理やり引っ張るんですか?」
「これは、処罰ですか?なら、私も、えいや」
「痛い。テフさんどうして胸叩くんですか?初めてですよ?叩かれたの」
少女の行動を見て何か勘違いしたらしいテフが、思っいきりルアの胸を叩いた。それに、涙目で痛がるルア。
少女はただ大きい胸、もとい、本物のおっぱいというものを、感じてみたかっただけなのだが……?いやーこの話、エロいね。
ま、まあ、そんな感じで3人仲良く歩き、目的の場所に到着である。
「やっと着きましたねー」
3人の目の前に建っている建物は5階建てであり、何で出来ているのかは、正直分からない。それに5階建てなのかも、本当は分からない。ただ、その建物を一言で表すのならそれは、カオスである。
魔法で色々な物を浮かしているのは分かるのだが、それがなんの物なのか、意味があるのかも分からない。
家、石、なんかの像、砂、氷、炎、木、花、人…いや魔女まで……だからこれは建物とはあまり言われないのだ。変な場所って方がしっくり来るから。
「楽しいですかー?おーい」
ルアが1人で浮いている魔女にそう問いかけると、その魔女は気が付いたようで、こちらに視線を向けて少し微笑みながら
「1分ですぐ飽きますからー、やらない方が良いですよー」
なんて、親切な回答を返してくれた。時々いるのだ、こんな魔女が。優しい。とても、優しい。いらない、情報なのだが……。
「あまり楽しくなさそうですねー。今回の魔女さんも。あれは楽しめるものなんでしょうか?」
「そんな事はどうでもいいので、早く中に入りましょう」
あまり興味がなさそうに浮いている魔女を一瞥したテフが、目の前の扉に手をかけて、開いた。
扉を開いた先には、赤い絨毯が敷かれ魔法で広げているのだろう。とても広々とした空間に魔女達がちらほら確認できる。
外から見れば、窓はあまり無かったのに、内側からだと均等に並んだたくさんの窓があるのが分かる。そして最奥。そこには綺麗なステンドグラスから光がさしておりとても幻想的だ。
ちなみに、ステンドグラスには、知らない魔女、杖、何かの花の3枚が、それぞれ色々な色で表されている。
この場所の正式な名前は「魔女宴家」。戦争に行く前、ここに集まり魔女達はそれぞれの担当を決め任務を与えられる。と、言っても、その任務は強制では無く、任意だ。だが、戦争には、絶対の参加が約束であるのが前提。まあ、少し例外もあるがそれは、また今度。
「後、もう少しですかねー?今回は、少ないです」
そうルアは言葉を零しながら、魔女1人1人に視線を送る。
まあ、別に追い込まれているという訳では無く、勝負を決めに行くわけでもないのであれば、この数は妥当だろう。
そんな事を考えながらこの階の最奥に目をやる。すると、空間が一瞬歪んだかと思うと、そこから右目はオレンジ、左目は青の双眸をした綺麗な少女が現れた。その少女は紫色の髪を靡かせながら綺麗に一礼して皆に視線を送った。その仕草はとても優雅で大人びており、淑女そのものだ。
それに気が付いた魔女達は、その少女の方を向き話を聞く体勢に入る。その途端、この階の広さが狭くなり、一気に最奥へと近づいた。もちろん、ルアやテフ、少女も例外では無い。
そして、片方がオレンジ、片方が青の瞳をした少女は、虚空から杖を取り出すと静かに口を開いた。
「皆様、ごきげんよう。今回、第三軍の魔女幻長に任命されました、アッシュマイです。どうぞ、以後お見知りおきを」
抑揚が無い低く透き通った、氷塊の様に揺らぐことの無い意思が乗った声色。そして、とても綺麗な一礼。それに皆が、視線だけで応えると
「では、早速。担当を決めさせていただきます」
そう言葉を発しながら、杖を光らせ振った。すると、目の前の何もない空間に地図が投影され、説明を始める。
「それぞれ、西、東、南に分れていただきます。任務の内容は、変わりませんのでご安心を。ではまず、好きな所へ目印を」
そうアッシュマイが言い終わると同時、魔女達は虚空から杖を取り出しそれぞれ西、東、南のどれかに光の粒子を飛ばしていく。その粒子が地図に触れると名前が明記され、魔女達が好きな所へと分かれていく。
今回は、揉めずに済みそうなので少女も早く決めようと思い、虚空から杖を取り出しテフに視線でどこにするか問うてみると
「どうしましょうか?どこでもいいのですが……あれっ、ルアさんは?」
ルアがいない事に気づいたテフが、辺りを見回すがやはりルアがいない。少女もなんとなく、辺りを見回すとアッシュマイの方へと移動していたようで、何やらルアが耳打ちしている。
アッシュマイがルアの話を聞き、一瞬目を見開くがルアに向き直り、一言交わすとルアが微笑んだ。どうやら、肯定されたらしい。なんの話をしていたのか少し気になるが、あえてあそこで話をしたのは、自分達に聞かれたくなかった話だったからであろう。それなら、問い詰めるというのも失礼な話である。
テフも、少女が見つけた数秒後にはルアを見つけたらしかったが、ルアについては何も言わずに
「どこにしましょうか?1番少ないのはどうやら、西のようですが?」
少女に向き直り問いかける。まあ、1番少ないところが無難だろう。そう思い少女が杖を地図に向けた時、後ろから肩を叩かれ
「あなたは、私個人が全輝守に任命致します。それと、テフさんがよろしければ、西をお願いできますか?」
「そうですね。ええ、分かりました。西にします」
「ありがとうございます」
テフが苦笑いで西を選ぶと、アッシュマイは礼を言い元の位置にふわりと飛び、戻った。
また、ですか。そんな視線をテフが向けて来る。それに少女は苦笑いで答える。
全輝守。この仕事は、戦場で相手が優勢になり魔女達が劣勢になった時、そこに向かい助ける。そんな仕事。これをよく言えば、魔女達全員を守る守護者。悪く言えば、死ぬ確率が1番大きい所に常に向かう自殺者であり捨て駒だ。
この仕事を任される条件は、魔女の中でも上位に入る強さがあると言うこと。故に、いくら相手が強かろうが魔女を逃がすまたは、敵の殲滅を優先させなければならない。逃げたくても逃げれない呪いだ。
少女は、実の所アッシュマイよりも強い。だが、今回の魔女幻長はアッシュマイである。そのため、あまり拒否権が少女にはない。
実力行使で、拒否出来なくもないがそんな事をやらないと分かっての任命だろう。疲れるから、やった事がないのだ……。実力行使。
少女は、ため息を吐きながらアッシュマイに向き直る。ちょうどその頃、魔女達全員の担当が決まったのだろう。
アッシュマイはニッコリと笑みを浮かべ魔女、1人1人に視線を送り、綺麗で淑やかな一礼をする。そうして、美しく綺麗過ぎて底冷えしてしまう声色、いや怖色で、
「では、10分後。第二軍と入れ替わり、第三軍。戦いの開始でございます。皆様、くれぐれもお体ご自愛くださいまし」