入学式
馬車に揺られること二日。ついに、魔法学園にたどり着いた。余裕をもって出発したので、入学式まで時間はまだある。
少し、学園内を見て回ろうと、散策していると、見知った姿を見つけた。
ルーカス殿下だった。ルーカス殿下は、大きな木を見上げている。木はゆったりと枝葉を広げていた。葉がきらきらと光って見える。もしかしたら、何か特別な木なのかもしれない。
そんなことを考えていると、ルーカス殿下が振り返った。
ルーカス殿下と目が合う。
「……?」
そのとき、私はなぜか違和感を感じたが、ルーカス殿下の言葉によって、その違和感は消え去った。
「なぜ、貴女がここに──いや、制服を着ているから、学園に入学するのか」
その言葉に頷く。
「救護科か、植物科あたりか? 貴女なら似合いそうだ」
誉めてくれたのに、申し訳ないが、私の学科は、魔獣科だ。隠していても、同じ学科なので、すぐにばれてしまうだろうと、自分から言う。
「いえ、魔獣科です」
「魔獣科、だと!? そんな女性には危険すぎるだろう! そもそもウィルシュタイン侯爵が許すはず──まさか、言わずに来たのか」
嘘を言うわけにもいかないので、頷く。
「私は貴女に──」
ルーカス殿下は、何かをいいかけ、口を閉じた。
「とにかく、転科をした方がいい。入学して3ヶ月以内ならできるはずだ。では、私は失礼する」
そう言って、ルーカス殿下は去っていってしまった。魔獣科は、男性ばかりだと聞く。男性の領分を犯してしまったと思われただろうか。
でも。それでも。諦めるわけにはいかない。私を絶対に裏切らない人が欲しいから。
入学式は、講堂で全学科共通で行われ、そのあと、学科ごとに場所を移動し、説明を受けるらしい。
案内されるままついていくと、どうやら、ここが魔獣科の一年生の教室のようだ。プレートに名前がかかれた席に座ると好奇の目にさらされた。周りを見渡したが、私と同じ女子生徒は見当たらない。
それどころか、見知った顔があまりない。どうやら、この学科は魔力を持って生まれた平民に人気の学科のようだった。
それもそのはず。魔法騎士になり城仕えになれば、給金も普通に働くのとでは桁違いだ。
と、そんなことを考えていると教師らしき人が入ってきた。そして、服を配られる。
支給された学生服とは違うものだ。
「魔獣科は、時に危険を伴うので、通常の学生服とは違い、魔獣の牙に強い素材を使ったものを着用してもらいます。通常の授業は今渡したものを着用してください。ただし、始業式や、終業式は、通常の学生服でお願いします」
その後、今後の予定など簡単な説明を受けて、書類が回収され、今日は解散となった