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薔薇の迷路

トイレの場所はわかりづらくなっており、私は道に迷ってしまった。


 「困ったわ……」

と呟いては見たものの、実はあまり困ってない。道に迷ったことにして、適当に辺りをふらついてパーティが終わるまで時間をつぶせばいいと考えたからだ。


 道に迷ってしまったのは、本当なのだし。


 ──そんなことを考えながら、歩いていると、すすり泣く声が聞こえた。


 「……ひっく」


 その声は幼い。おそらく、私と同じ迷子だろう。私は、その泣き声の大きくなる方に進んでみることにした。


 すると、本日の目玉であるバラの迷路を歩くことになった。泣き声は確かに聞こえるのに、なかなか声の主の場所までたどり着けない。もしかして、子供ではなく、亡霊の類いの声だったのだろうか、と私が疑い始めたとき、ようやく、声の主の元にたどり着いた。


 地面に座り込み、うつむいているあの子は──。

「マリウス殿下?」


 私が名前を呼ぶと、ぱっと、顔をあげた。王族特有の、黒い髪に青の瞳──ではなく、赤の瞳と目が合った。やっぱりマリウス殿下だ。涙で顔がくしゃくしゃになっている。


 「失礼しますね」

 私は、しゃがみこみ、ハンカチでマリウス殿下の涙をぬぐった。


 「どうして……、どうして、ぼくの名前を知ってるの?」

「それは……」


 しまった。まだマリウス殿下はお披露目されていない。確か、今回のガーデンパーティでお披露目される予定だった。


 「確か、マリウス殿下は、赤い瞳をお持ちであると、伺ったことがあったので」

実際のところは、私は、過去──というか未来だろうか──にマリウス殿下を何度も見たことがあるからなのだけど。嘘は言っていない。


 私がそう言うと、マリウス殿下は、更に泣き出した。

「どっ、どうされました!?」


 「ぼくの赤い目、み、みんなこわがる。心が読めるから」

そうなのだ。王族の特徴は、黒髪に青の瞳なのだけれど、希に赤の瞳を持った子供が生まれる。その赤の瞳を持った子供は、触れると触れた人の心が読めるのだ。


 「とうさまも、かあさまもなかなかぼくに触ってくれない。にいさまの頭はなでるのに、ぼくはなでてくれない」

「それは……」


 誰だって、秘密にしたい心の声のひとつやふたつあるだろう。例えそれが、実の子供の前であっても。


 「もしかして、それで、隠れていらっしゃったのですか?」

「……うん」


 今日お披露目ということは、たくさんの人の好奇や恐怖の目にさらされるということで。怖がるのも無理はない。


 私は、驚かせないように、そっと、マリウス殿下の隣に座った。


「実は、私も今日のパーティが憂鬱なのです。よろしければ、一緒に過ごさせていただけませんか?」

「ぼくが、こわく、ないの?」

「ええ。試して、見ますか?」


 そういって、マリウス殿下の手をそっと握る。暖かい。お母様に抱き締められたときのような、気持ち悪さは感じなかった。


 私にとって、怖いのは、死ぬことだ。死ぬこと以外、怖くない。


 「……ほんとだ」

私の心を読んだマリウス殿下は、嬉しそうに柔らかく、笑った。


 「マリウス殿下が思うより、私のようにマリウス殿下を怖がらない方はたくさんいます。だから、もし、パーティに戻りたくなったら、一緒に戻りましょう。陛下と王妃様もマリウス殿下をきっと、待ってる」


 「……わかった」



 その後、他愛ない話をしながら、過ごしていると、マリウス殿下を呼ぶ、声が聞こえた。


 「! とうさまと、かあさまの声だ」

その声は、だんだん近づき、ついにマリウス殿下の前にたどり着くと、王妃様は躊躇うことなく、マリウス殿下を抱きしめた。


 「よかった! マリウス、ここにいたのね」


 王妃様に抱き締められたマリウス殿下は、本当に嬉しそうな顔をしていた。


 使用人任せではなく、ずっと探していたのだろう。そこに確かに愛情が感じられた。だから、マリウス殿下は、大丈夫だろう。


 私は、親子の感動の再会を邪魔しないように、そっと、その場から離れようとして、腕を掴まれた。


 「──ようやく、見つけた」

「……ルーカス殿下?」


 そこにいたのは、ルーカス殿下だった。

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