繰り返し見る夢
私の愛しい人が、淡く微笑んでいる。
私も微笑み返そうとして、戸惑う。愛しい人は、急に顔を曇らせた。
「──して」
何と言ったのだろうか。鈴を転がすような、あなたの声がはっきり聞こえないなんて、珍しい。
聞き返そうと、あなたに近づくと、あなたは私から距離をとった。
そして、もっと大きな声で囁いた。
「どうして、」
それに続く言葉は何だろう。
「どうして、信じてくれないの」
「?」
私たちは、信頼しあっている関係のはずだ。私があなたを信じないなんておかしい。
弁解しようと、距離を詰めようとすると、あなたはますます離れていく。
「だったら、『あれ』はなに?」
悲しそうな顔で、あなたは呟くと、急に視界が切り替わった。真っ暗な闇に、あなたの顔が浮かぶ。そして、そんなあなたに私が投げ掛けたのは、不安を取り除く言葉ではなく、罵詈雑言の嵐だった。
ちがう。ちがう、そんなはずはない。私が、あなたを傷つける言葉を使うなんて。これは、私のはずじゃない。
──じゃあ、これは、誰だ?
体が思うように動かない。あなたのそばに行きたいのに、あなたからますます遠ざかっていく。代わりに口を開けば、あなたを傷つけるような言葉ばかりだ。
そして──。
視界が再び切り替わる。
ここは、どこだ。辺りを見回すと、民衆が罵声を上げていた。中には、石を投げつける者もいる。その中心にいるのは──。
顔に布がかけられているが、その背格好でわかる。あれは、あなたただ。
なんで、あなたが、そんな場所に。そこは、あなたがいていい場所じゃない。そう思うのと、体が動いたのは同時だった。
今まで、あれほど思うように動かない体だったはずなのに、手遅れになりそうな、今は、笑えそうなくらい自由に動く。
「やめろ! やめてくれ、そのひとは、」
私の──。
こんなに、全力で走ったのは初めてだった。けれど、もう間に合わない。鈍く光る刃が、あなたの首に落とされる。
ぱっと飛び散った赤はあなたの、
「────!」
声にならない悲鳴をあげる。
「っ、はぁ、はぁ」
鮮やかな赤が、もうなにも見えないはずの左目に焼き付いて離れない。いつも、同じ夢を見る。
そう、これは夢だ。
夢、になったはずだ。
もし、もう一度同じことが起きたら?
それなら、今度は、右目を使えばいい。
両目が見えなくなっても構わない。
あなたを、もう二度と失わずにすむのなら。
今度こそ、あなたの幸せな夢を見られるよう祈りながら、目を閉じた。




