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おっさん聖女と可愛いクマと ~聖女?いえ私はこういう者です~

https://ncode.syosetu.com/n3286gu/

聖女? いいえ、やったのはこっちのくまです! ~可愛いもふもふくまさんと行く異世界浄化旅~


こちらのパロディというか二次創作です。

作者様の許可はとりました。

私がこういう話を書いたら「聖女としておっさんが呼ばれそう」という程度のあらすじですが許可は許可です。

 私の名前は青木 聡(52歳)小さな会社で海外の子供向け商品の輸入などを担当する部署で働いている。

 季節によって忙しさの波もあるが、やりがいのある仕事だ。

 今日も終電が近くなってようやく一つの案件が片付いた。メールの向こうの担当者も大変だろう。


「青木課長、それどうしたんですか?」


 五年ほど一緒に働いている若手の鴻上君が不思議そうな顔で声をかけてきた。

 自席のデスクトップPCの電源を落とし、椅子の背もたれにかけていたコートを羽織った所だ。とくにいつもと変わった様子はないのだが。


 しかし、端末の電源を落としたにもかかわらず、妙に眩しい事を不思議に思い、眼鏡をかけなおす。すると驚くことに私の周囲がライトアップされたいた。

 光で出来たような文字が無数に連なって私の周囲で円を描いている。


「なんだね、これは。まるで魔法陣みたいじゃないかね」

「課長、それ、もしかして異世界の召」


 鴻上君の声はそこまでだった。突然凄い光と共に私は意識を失ったのだ。今年の健康診断は大丈夫だろうか。


 遠くで声が聞こえる。


「召喚成功しました!」

「こんな……え?! どう見ても男性だぞ! まぁいい、早く聖女か確認しろ!」


 そっと目を開けてみると、そこは石造りの床に壁。軽く触れてみると石とは思えない滑らかな触感。

 私は若い頃にあちこちに旅行をしたのだが、城砦跡などを主に訪ねていた。だから城壁や石垣には少々詳しいつもりだ。


 その知識から判断すると、少なくともここは日本では無いし、ドイツなどの有名なヨーロッパでも無い。

 陶器のような手触りでありながら温もりのある建築素材は見たことがない。木やプラスチックでも人造大理石でもない。土の性質の独特なレンガの一種だろうか。


「うぉっほん。失礼、よろしいかな」


 目の前に奇妙な服装をした人々が集まってきた。知っているぞ、どこかの遊園地でこんな服を着て遊ぶイベントがあった。ファンタジー映画のコスチュームのようだが、安物感は無い。かなり年季の入った衣装であるように見える。


 私は急いで立ち上がると体に染みついた動きで名刺を取り出した。


「こちらこそ失礼いたしました。わたくし、こういうものです」



 どうやらここはフェリク王国という場所らしい。

 地球上にその名前の王国は知る限り、無い。

 そして、彼らは魔法で聖女と言われる存在を呼びだそうとしたらしいのだが、やってきたのは私だったというわけだ。


 彼らもわけがわからないだろうが、私もわけがわからない。

 何より、一方的に呼びつけておいて戻る方法が無いというのが理解できない。弁護士を呼んでもらいたい。


 このフェリク王国の方々による鑑定という魔法によって出た情報もかなり問題だ。プライバシーや個人情報という観点については目をつぶろう。


 名前:青木 聡

 年齢:52

 スキル:くま語理解、くまの友愛、鋼の肝臓、課長権限


 聖女として呼んでおいて、私には聖女としての能力が無いらしい。当然だ。そもそも女ではないし、神聖とも言い難い。あえていうなら申請だが、それも却下する方が多い立場だ。


 この鑑定結果を見て、国王を名乗った人物は顔を真っ赤にして私の追放を宣言した。

 トップが権限を持っているのは良い事だが、原因の究明や再発防止の調査は良いのだろうか。私を追放する事は貴重な情報を失う事になる。

 だが、この国王の為になる事をする必要も無い。私はこの国の通貨も持ち合わせていない上に、日本には残してきた妻と子供と多額のローンがあるのだ。何とかして自力で戻らねばならない。


 石造りの城から外に出ると、もう夜も更けていた。長い事話し合いをしていたようだ。

 見上げた空には見覚えの無い星空。ここが日本では無い証拠がまた一つ。宇宙のどこかの惑星だとしたら物理的に地球に戻る為にはNASAの協力でも無ければ不可能だろう。DIYで作るロケットに命を懸ける度胸は無い。


「さて、どうしたものか」


 巻き上げ式の跳ね橋を渡り、城下町へを足を進める。手持ちの物で何か換金性の高いものはあっただろうか。日本の硬貨や肩凝りを軽くしてくれるという健康ネックレスの天然石が売れるといいのだが。


「それにしても。まさかこの年でこんなことになろうとはなぁ」


 もしもここが宇宙のどこかなら。人類で初めてかもしれないな。居住可能な惑星に降り立ったのは。

 ネオンや車のライトの無い、街明かり。やや獣臭い気はするが排気ガスの無い澄んだ空気。

 私だって映画くらいは見る。魔法的な手段で移動したファンタジーの世界という現実に、少年の頃のようなワクワクした気持ちが沸き立ってくる。

 裸一貫。卒業校も、会社の名前も、派閥も。何も無いただの自分で何がやれるか、どこまでやれるか。

 それを不安に思うのではなく、楽しみに感じている事が誇らしかった。


「見つけたくま!」


 そんな時、スーツの裾をチョイチョイと引く感覚があった。視線をおろしてみると、そこにいたのはぬいぐるみのような小さなクマだった。

 CGではない。VRでもない。

 しゃがみこんで視線を合わせると、水色のふわふわとした身体に、黒曜石のような瞳の可愛らしい姿。うちの商品にこんなぬいぐるみがあったかもしれない。


「ぼく、神獣のくまなのくま!」


 理解できない出来事に出会うことは人生で稀に良くある。そんな時に大切なのは対話だ。まずはこのクマ氏と話し合うとしよう。様々な疑問はその後だ。


 深夜まで空いている店はほとんどないのだが、産業革命以前と思われる文明世界でも夜間に働く仕事という物は存在する。

 そんな人々をターゲットにしているらしき店で交渉し、いくばくかの銀貨を得ることができた。売れたのはシルクのネクタイと、財布の中に入っていた金運UPの亀だった。


 城に近いほど、地価は高いようで、遠ざかるように歩くほど、街の家々は小さくなり、路地は細くなっていった。城壁近くの水路脇に出ていた屋台の飲食店ののれんをくぐる。酒と煮物を出す店のようだ。おでん屋だと思えば良い。


「おまたせしました。それで、神獣のくまというのはどう言ったお仕事でしょうか。あ、申し遅れました、わたくしはこういう物です」


 今となっては意味のない名刺を取り出すと、くまは丁寧に受け取って名刺を交換してくれた。


 名前:くまちゃん

 職業:聖獣

 スキル:浄化、物品収納、情報処理2級、普通馬車免許(AT限定)


 どうもツッコミというものは苦手で、どう返して良いのかわからないので、そのまま名刺入れにしまう。


「ぼくはね、神獣なの。魔物とかを聖なる力で浄化できるのくま」

「もしや、この国の方が聖女という人物を呼びたかったようですが、それはくま氏の事でしょうか」


 小さなグラスにジュースを注ぐ。あまりたくさんは飲み食いをしないそうだが、嗜好品の類はたしなむらしい。


「ううん。それはサトシの事なの。浄化できるのはぼくで、ぼくとお話できるのが聖女なのくま」

「そうでしたか」

「だから、一緒に来て欲しいのくま。危ない事からはぼくが守るから、浄化を手伝ってほしいくま」


 ぐびりと、手酌で注いだグラスの酒を飲み干す。サングリアのような度数の低い果実酒だ。これなら、いくら飲んでも酔う事は無いだろう。氷が入っている事から、水が飲める地域な事がわかる。高い建物は城の塔しかないし、交通手段は馬のようだし、服の縫製を見ても大量生産大量消費とは遠い文化に見えるが、安価に氷が作れるというのは凄い事ではないだろうか。


 もう一口飲んで、しばし逃避した思考を元に戻す。


「そもそも性別が男なのですが、それでも聖女なのですか」

「うん。輝く気持ちがあれば、だれだって聖女になれるくま」


 性別は関係ないらしい。おそらく年齢を口にしても同じ答えが返るだろう。


「しかし、輝く気持ちですか。それも……」

「だいじょうぶくま」


 驚いた。おそらく、どんなに逃げ腰の意見を述べてもこのクマは私を全肯定する。そんな予感がした。

 そして先ほどのワクワクした気持ちを思い出す。


 私に何ができるか。答えは一つだ。なんだってできる。


「わかりました。聖女のご提案、お引き受けします。やりましょう!」



 数か月後、私とクマの姿はフェリク王国を遠く離れた地にあった。

 岩に擬態する大型の魔物。それらが積み重なり巨大な城と化した岩山だ。


 巨大な蜘蛛から採取した丈夫な糸で作った組み紐、ドワーフの鍛冶師に依頼して作ったコールマン風のランタン、魔物の革で作った登山用の服。

 冒険者という方たちの組合から協力を得て、一つ一つ買い求め、無いものは作り、旅の装備を整えた。


 地図を描き、水場を浄化し、安全な場所を確保する。そうした積み重ねの末に、とうとう魔王が住まうという魔の山に到達した。クマを背負い崖を登ってたどり着いた漆黒の城。


 勇者ならば光の剣を抜いて突き進むだろう。将軍ならば軍を率いて包囲するだろう。だが私は聖女だ。可愛いクマを抱え、胸にはただ平和を願う気持ちと、これまでに世話になった人達への義理を輝かせて。


 ここからはさらに危険な道行きになるだろう。そう覚悟を決める私の耳に、かわいらしいソプラノボイスが響く。


「おわったのくま~」


 見上げると、くまの手から放たれた不可視の浄化の波が、城そのものを消滅させていく。砂浜に作った城が波にさらわれていくかのようだった。


 この浄化の波動の前には、あらゆる魔物も、瘴気も、魔王すらも溶けるように消えていく。


「クマさん。一つ聞きたいのですが」

「何くま?」

「私は必要だったのでしょうか?」


 そっと目をそらす、クマ氏。


「途中の魔物の群れも、ダンジョンの暴走も、全て視界に入る前に浄化が済んでいましたよね?」

「半径500メートルは全部浄化できるくま! さとしが危険な目にあう事はないのくま!」


 胸を張るくま氏へ、追及を行う。たまには白黒つけたほうが良い事もある。


「最初から、ぜんぶあなた一人でやれたのでは?」

「……それだと……さみしいくま」


 どうやら、私がくま氏にとってのマスコットのようだった。せめて可愛らしい少女を相棒にすればよかったのと思わなくもないが、そんな子供を危険にさらすよりは自分が手を動かすべきだろう。これで良かったのだ。


「さとし、次は超魔王を浄化しに行くくま。着いてきて欲しいくま!」


 彼らの旅はまだ終わらない。

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