幼馴染がイメチェンしたのは俺の気を引くためだった。
あの日犯した過ちは、今でも鮮明に覚えている。
友人にからかわれ、本当は好きだった幼馴染のことを嫌いだと口走ってしまった罪。
その発言をたまたま聞いていた彼女が、涙顔で場を立ち去ったのに、跡を追いかけられなかった罪。
この二つの大罪がきっかけで、これ以後彼女との関わりは一切なくなってしまった。
「ごめんなさい」の言葉を伝えることが出来ればどんなに楽になれるのだろうか。
しかし、彼女の前に立つことですら気後れしてしまう臆病な自分に、謝る勇気なんてあるわけがなかった。
時間が解決するなんて詭弁に過ぎないはずなのに、逃げたところで現状が改善するわけがないって分かっているはずなのに。
なぜ身体は思い通りに動いてくれないのだろう。
あの日から全く前進していない俺とは裏腹に、彼女は日々成長していってしまう。
もう俺の手に届く場所に彼女はいない。
だって誰しもが敬い尊ぶ地位を確立してしまったのだから。
きっと、このまま疎遠になって別々の人生を歩むことになるのだろう。
同窓会で左薬指に指輪をした彼女を見て、やるせない気持ちになる未来が見えている。
でも結局、自分には何も出来ない。
あの日から三年が経とうしている今でも、彼女を目で追いかけることしか出来ない。
失恋を罰として受け入れようとしている自分が嫌になる。
この醜い性格と容姿を一新出来ればいいのに……
なんて下らない幻想を思い描く俺を置いてけぼりし、残酷な時間という概念はまた今日という日を迎えるのだ。
◇
俺――菅原蓮は、昼休みになり騒がしくなった教室内を見渡し、目標を目で捕らえようとしていた。
目当ての人物はクラスでも特筆して目立つ才色兼備の少女、霧島麗奈。
彼女のダークブラウンに染まった髪は肩の高さで切り揃えられていて、ふんわりと内側に巻かれたカールが整った目鼻立ちを可愛らしく引き立てている。
ルックスだけでなくスタイルも抜群。
優しくて明るい性格をも持ち合わせている彼女は、外見も中身も完璧だと評されていた。
そんな学園随一のアイドルを今日も今日とて目で追う。
「まーた、霧島さんを見てるのか?」
そう声を掛けてきたのは友人である中島健太。
彼は弁当の入った袋を片手に持ち、俺の前の席に腰を下ろした。
「あぁ……うん」
曖昧な空返事をし、再び目線を麗奈に固定させる。
可愛らしい微笑みを浮かべた彼女は、クラスの友達同士で集まり、オレンジ色の弁当箱を机に出していた。
料理上手な麗奈のことだから、きっと今日も手作り料理を詰めてきたのだろう。
三年前に食べた彼女のお手製弁当の味が今でも忘れられない。
「霧島さん、昨日も告白されたんだってさ。入学して三ヶ月、玉砕人数は三十人を越えたらしい」
中島は俺の机に遠慮なく弁当を広げると、飯を頬張りながら語り始めた。
「そうなんだ。詳しいな」
俺は中島の様子を横目で確認しながら素っ気ない返事をすると、今朝コンビニで購入した惣菜パンをカバンから取り出した。
それを開封し食らいついていると、中島が指し箸をしながら口を開く。
「詳しいって、霧島さんの情報は嫌でも耳に入ってくるだろ。入学試験は過去最高得点で一年生にして生徒会の副会長にまで緊急抜擢される天才。運動神経抜群、厚い人望、モデル顔負けの美貌。これで話題にならないほうがおかしい」
中島の語る話は決して誇張されたものではなく、正当な評価であり事実だった。
その事実を第三者から直接伝えられると、自分という人間がいかに下賤で冴えない人間なのかが実感出来る。
「それもそうだな」
平静を装いながら返答するも、内心は凄くうろたえている。
普段は、意中の人の恋模様なんて知りたくないという一種の自己防衛本能が働いていたおかげで、麗奈についての恋愛話が耳に入ってくることなんて殆どなかった。
でも先程の発言により、思わぬ形で存知してしまった。
この気忙しさを紛らわそうと食に全てをぶつけようとする。
パンを一つ、また一つと平らげていき、口一杯に詰め込んだのを紅茶でググッと流し込む。
それを飲み込むと不意に小さな溜め息が出てきた。
憂愁さを悟られないよう、一応誤魔化しの仕草を交える。
「蓮は同じ中学だったんだろ? 中学時代はどうだったんだ?」
俺と麗奈が同じ中学であったことは入学式の日の自己紹介で皆の共通認識になってはいるが、実は俺たちが同じ病院で生まれた根っからの幼馴染であることは誰も知らない。
もし、それを公言してしまったのなら身を滅ぼすことに繋がってしまうだろう。
不必要に麗奈との関係を問い質され、妬み嫉みを買うのは想像に難くない。
肝心の質問に対する答えを思考しながら、食べ終えたものを片付ける。
中学生になりたての時期に麗奈との関係が悪くなってしまったので語れることなんて殆どない。
今と同様、麗奈を遠目から見ていることしか出来なかった。
なのでここは、当時の外見を述べておくことにしよう。
俺なんかに、真っ当な答えを求めているはずもないだろうし。
俺は万が一に備え、出来る限り丁寧に説明を始めた。
「中学時代は真面目そうな女の子だったよ。今と違って黒髪ロングに眼鏡をかけた見るからに優等生って感じの人だった。でも、その時点から秘めた美しさと奥ゆかしさを醸し出していたよ」
「そうだったんだ。じゃあ、高校デビューに大成功したってわけだ」
「まあ、大成功するのは必然だったと言わざるをえないけどね」
今となっては赤の他人であるにも関わらず、どこか誇らしげに語ってしまう。
現在通っている高校は、中学の時よりも校則が緩いので、これを機にイメチェンをしたのだろう。
中学時代も可愛かったが、今は一段と綺麗になっている。
「でも誰とも付き合わないなんて不思議だよな。女子人気の高いサッカー部のキャプテンですら即座に振られたって話だぜ」
「部活と生徒会で忙しいから恋人なんて作っている暇なんてないんだろ。多分……」
「ああ、そういうことね。じゃあ、高校生活中に彼氏の顔を拝むのは無理そうだなー」
その気ままな口振りを聞き、ソワソワした気持ちになる。
実際、なぜ麗奈が恋人を作らないかなんて分からなかった。
言い寄ってくる男の中にタイプの人がいないだけで、理想の相手がいたら付き合おうと考えているのか。
はたまた、俺の予想という名の願望通り今は恋愛に現を抜かしている時間なんてないと考えているのか。
いくら考えたって答え合わせのしようなんてないけれど、気にかかる。
これだから麗奈の恋愛事情について知るのは嫌なんだ。
そのことで頭の中が一杯になってしまう。
俺は、弁当箱を片付ける中島を強い視線で見つめた後、ゴミを捨てに行くために席を立った。
席に戻り、中島と少し雑談した後、次の授業の準備をする。
その途中で、ふと麗奈の方へ目線を向けると、彼女もこちらを見つめているのが目に入ってきた。
俺はすぐさま目を逸らし、何とはなしに教科書をペラペラとめくる。
最後のページを開き終わると同時に、昼休みの終了を告げる鐘が鳴った。
放課後になり、部活が休みだった俺は教室を出ようとしていた。
すると、中島がすぐ近くにまで駆け寄ってきて俺を引き留める。
「今日、うちでゲームしないか? この間のリベンジをしたいんだ」
「おっけー。いいよ」
中島とはゲーム友達で、よく家に遊びに行っては対戦をする。
負けず嫌いな中島はよくリベンジを図ってくるのだ。
「かーっ! また負けた! 強すぎだろ!」
「まあ、これくらいしか得意なことないしな」
友達の家でゲームをしている時は気が楽になる。
持つべきものは友達だと再確認させられた。
「そろそろ夕飯だし帰るわ」
「おけ。今度は絶対に勝ってやるからな!」
薄暗くなった空の中、一人寂しく帰路につく。
家に着き、キッチンを覗くと、そこにはエプロン姿の麗奈が夕食の準備をしていた。
「おかえりなさい」
「た、ただいま」
突然の出来事過ぎて、思考の整理が追い付かなかった。
反射的に、どもった挨拶を返してしまう。
状況が飲み込めず、その場に立ち尽くしていると後ろからタイヤの回る音がした。
「やっと帰ってきた」
そう言いながら、母がスーツケースを引いて近づいてくる。
「今からどこかに行くの?」
「今日の夜から一週間、お父さんとお母さんは結婚二十周年記念旅行に行くことにしたの」
「え、そんなの聞いてないよ」
「お父さんが急に提案してきたからね。お母さんも準備をするのに大忙しだよ」
それと麗奈が家で夕食の準備をしているのには、なんの関係があるのだろうか。
疑問を抱いていると、母が俺の心を見透かしたかのように、その答えを述べた。
「それでね、蓮を一週間も一人にしたら自堕落な生活を送るでしょ。だから麗奈ちゃんに蓮のお世話を頼んだの」
余計なお世話だと思ったが、麗奈の前で生意気な口を利くわけにはいかなかった。
とりあえず自室にカバンを置いて着替えてこようと、二階へと続く階段に向かっていると、母が俺に耳打ちをしてくる。
「これを機に麗奈ちゃんと仲直りしておきなさい。いつまでも意地を張ってないの」
「え、なんで知って……」
「母親っていうのは、自分の子供ことなら手にとって分かるものよ。特に蓮は顔に出る分、分かりやすいしね」
母は優しく微笑んだ後、俺を鼓舞するように背中を二回叩いた。
正直、今の俺と麗奈の関係を知っているなんて思わなかった。
でも、せっかく与えられたチャンスを活かせそうにないのは口にするまでもない。
制服から部屋着に着替えて下の階に降りると、玄関で麗奈が両親の見送りをしていた。
「じゃあ、行ってくるね。麗奈ちゃん、蓮をよろしく」
「はい。任せてください」
麗奈は笑顔ではっきりとした返事をして、手を振っていた。
これから麗奈と二人きり。
三年間、殆ど口を聞いてこなかったからか、何を話したらいいのかわからない。
二人してキッチンに移動すると、麗奈が完成した料理を皿に盛り付けた。
「夕御飯、一緒に食べよう」
この気まずい沈黙を破るように、麗奈が優しく微笑みながら口を開いた。
二つ返事で、美味しそうな食事をテーブルの上に運ぶ。
食事の準備を終え、二人揃って手を合わせた。
「「いただきます」」
まず最初に、野菜が沢山入ったクリームシチューを口に運ぶ。
一口食べて顔をあげると、麗奈が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「どうかな? 蓮くんの口に合うといいんだけど」
「すごく美味しいよ」
「そっか……よかった」
安心した様子の麗奈は、自分の食事に手をつけた。
それから少しの間、夕食に関するぎこちない会話をしていたが、そう長くは続かなかった。
夕食の後半は、食器のぶつかる音と微かな咀嚼音だけが鳴っていた。
「ごちそうさま」
麗奈より一足早く食事を済ませ、使った食器を洗っていると、彼女も食器を流しに運んでくる。
「洗うよ」
「ありがとう」
夕食を作ってくれたお礼として、洗い物を全て引き受けた。
それを済ませてリビングへ向かうと、麗奈が自分の荷物を整理していた。
その様子を遠目から見ていると、何やら寝巻きのようなものが目に入ってくる。
麗奈は俺の気配に気がつくと「お疲れさま」と労りの言葉を告げた後で衝撃の一言を発した。
「今日、泊まっていくね」
え? 泊まっていく?
驚きの心境が隠しきれない。
俺の家から麗奈の家までは徒歩五分ほどで着く。
それなので、夕食を済ませたらすぐに帰るのだとばかり思っていた。
「え、でも、麗奈の両親が心配するんじゃないかな」
「お母さんの許可はとってあるよ。そもそも今日は、うちのお母さんが提案したことらしいんだ。つまり、お互いの両親公認ってこと」
「そうだったんだ」
「それに蓮くんなら信頼してるから大丈夫だよ」
「信頼してる」その言葉が胸に強く突き刺さった。
俺は曖昧な返事をし、自室へと逃げる。
暗い部屋。電気をつけずに、ベッドへとダイブをした。
もう、何を考えたらいいかわからない。
色々ありすぎて、こんがらがってしまった。
ベッドに仰向けになり、天井を見つめていると、ふと意識が遠退いた。
――――――
「蓮って、いつも霧島と一緒にいるよな。仲良すぎだろ」
「幼馴染だから一緒にいるだけだよ」
「嘘だー! 本当は霧島のこと好きなんだろ?」
「いつも二人一緒でラブラブだもんな」
「告白しちゃえよー! 告白!」
「あ、あんな地味なやつ嫌いだよ。昔からずっと俺の後をくっついてくるだけだし。うっとうしいだけだよ」
――――――
あの日の会話だ。
自分の発言から友人たちの発言まで一言一句忘れずに覚えている。
右腕を目に当て、大きな溜め息をつく。
その数分後にドアをノックする音が聞こえ、返事をすると、一筋の光が部屋に差し込んできた。
「お風呂、先に入ったよ。蓮くんも入っちゃってね」
麗奈の声かけを聞き、すぐに風呂場へと向かう。
シャワーで汗を流せば、この憂鬱な気持ちも少しは晴れてくれるだろう。
風呂から出て、飲み物を取りにキッチンへと向かうと、麗奈がリビングでアルバムを見ていた。
お茶を飲みながらその様子を見ていると、麗奈が声をかけてくる。
「この写真、懐かしいよね」
麗奈がアルバムをこちらに向けて指差したのは、小学生の頃に近所の河川敷で撮った花火大会の日の写真。
浴衣姿でリンゴ飴を片手に持ち笑みを作る麗奈と、不貞腐れた顔でフランクフルトを持つ俺。
お互いの両親に囃し立てられ、二人並んで写った記憶がある。
麗奈と花火が見れて本当は嬉しかったはずなのに、俺の作る表情はそれを一切感じ取らせない。
昔からそうなんだ。
俺はいつも正直になれない。
その後も麗奈は次から次へと写真を指差しては思い出を語る。
俺は、それに相槌をうちながら過去の自分を責めた。
写真を一通り見終わると、麗奈はアルバムを閉じた。
そして彼女は俺の顔をじっと凝視する。
お風呂上がりというのも相俟って、いつも以上に艶っぽく感じた。
「ねぇ、私、可愛くなったかな?」
物憂げな表情を浮かべて問う麗奈。
俺は、それを直視出来なかった。
「なった……と思うよ。学校中の人気者だし。昨日も告白されたって聞いたし」
「告白ね。本当に好きな人にされないと虚しくなるだけだよ。断るのも相手に申し訳ないし」
本当に好きな人。
その言葉が胸を強く締め付けた。
「やっぱり本命がいるのか……」
ボソッと心境を吐露する俺に、麗奈は間髪いれず言葉を口にする。
「ほんと、鈍いよね。蓮くんって……」
「鈍い」この意味が良く分からなかった。
一体、何が鈍いのだろう。
本命が俺の身近にいるのだろうか。
疑問が涌き出る最中、麗奈は透かさず言葉を重ねた。
「今の私は、蓮くん好みの女の子になれているかな?」
この言葉を聞いて、ようやく全てを理解した。
そうか。そうだったんだ。
麗奈は、あの日の言葉をずっと気にして、俺の気を引くためにイメチェンをしたんだ。
それなのに俺は、その言動の意味に気がつけなかった。
彼女の心の奥に隠されていた想いでさえも見落としてしまっていたんだ。
今ここで本当の想いを、懺悔の言葉を伝えなくて一体どこで伝えるのだろう。
俺は、ずっと閉ざしていた想いを、重い口から吐き出した。
「ごめん……本当にごめん。昔からずっと好きだ。今もそしてこれからも、ずっと麗奈が好きなままなんだ。後悔していたんだ。あんな言葉を口にしたことを。何回も謝ろうと思った。でも許してくれないんじゃないかって考えたら怖くて、それを言葉にして言い表されたら頭がおかしくなりそうで。今日の今日まで麗奈から逃げてきた。こんな卑怯な俺は、麗奈に見合う男なんかじゃないんだよ」
違う。こんなことを伝えたかったんじゃない。
でも、ふつふつ沸き上がる罪悪感が本当の気持ちを遮る。
「だから、これで最後だから。もう一度謝らせて欲しい。本当にごめんなさい」
麗奈の幸せを願うのであれば、ここで自分は手を引いた方がいい。
言葉を紡いでいくうちに、段々とそう思えてきてしまったのだ。
きっと麗奈なら、俺なんかよりもっと立派で素敵な人に巡り会えるはずだ。
そのために後押しした方が、彼女のためになるに決まっている。
思いを伝えると、不思議と涙が溢れ出てきた。
今まで傷ついてきたのは彼女のはずなのに、なぜ自分なんかが泣いているのだろう。
惨めなことこの上ない。
涙が止まり麗奈の方を見ると、ぼやけた視界の向こう側に涙顔の彼女が映った。
「最後だなんて言わないでよ。私が恋をする相手はこの世で蓮くんしかいないんだよ。蓮くんだけが、いつも私に新しい景色を見せてくれた。桜の木の上から見た高い景色も、珠玖山の山頂からみた綺麗な夕景も。蓮くんと一緒じゃなきゃ見られなかったんだよ。蓮くんがいるから私は前に進めたんだよ」
麗奈は俺の目を見つめながら、震え混じりの声で言葉を繋ぎ合わせる。
その吸い込まれそうな瞳と本音の言葉が、負の感情を乗り越える手助けをしてくれた。
「だからお願い。ずっと蓮くんの隣にいさせてよ」
麗奈が俺を選んでくれるのなら、もう一度チャンスをくれるというのなら、彼女の願いを全身全霊で叶えたい。
今こそ男を見せるときだ。
ずっと燻っていた想いと勇気をここで麗奈に伝えよう。
かっこつける必要なんてない。
素直に正直にありのままの気持ちを告げるんだ。
「好きです。付き合ってください」
「はい。喜んで」
涙で赤くなった麗奈の眼に笑みが点った瞬間、俺は彼女を力強く抱き寄せた。
長い長い夜が明け、晴れて恋人同士になった俺と麗奈は一つのベッドで寝ていた。
いつもより少し早く目が覚めたので、麗奈の様子を確認する。
彼女の寝顔はあどけなくて庇護欲を掻き立てるようだった。
麗奈も直に目を覚まし、寝ぼけ眼で俺のことを確認する。
「今、私の寝顔に見惚れてた?」
「うん。すごく可愛かった」
「ふふっ……やけに正直だね。どうしたの?」
「もう、麗奈には二度と嘘をつかないって決めたから」
そう告げると、麗奈は可愛らしい笑顔を覗かせなが俺の耳元で囁いた。
「蓮くんのこと、もっと、もーっと私好みの男の子にしてあげるからね」
「お、お手柔らかにお願いします……」
たどたどしい俺の返事を遮るように、麗奈は俺の腰に腕を回し、ぎゅっと抱きついてくる。
温かい体温が共有出来て、心が安らいでいく感覚に襲われた。
◇
麗奈によって行われた菅原蓮イメチェン計画によって、今まで見たこともなかった景色がたくさん見えてきた。
まだ麗奈に見合うような素晴らしい男にはなれていないけれど、いつか、いつの日にか俺が彼女を立派にエスコートできるくらいかっこいい男になれるように頑張るんだ。
失われた三年間を埋め合わせるためにも、もう二度と麗奈を悲しませないためにも。
幼馴染がイメチェンしたのは俺の気を引くためだった。