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第9話 燃える村

2日目の昼前。


残りハヤト178日。カナ180日。


「バレーヌさん!?」


フェリシアの悲鳴が講堂内に響く。

マービンさんが教会へ連れて来たバレーヌさんは、昨夜の汚れた服装のままで、両手には縄が掛けられていた。


私達の間を抜けて行く足取りもどこか心許ない。

祭壇近くまだ行くと、近くの椅子に座る様に指示される。

近くで見るバレーヌさんの顔には眼の下に隈があり、唇が乾いていた。


「フェリシアどこへ行く!?」


神父の静止も聞かずに、彼女は奥の扉からキッチンの方へと走り去る。程なくして、水を汲んだコップを持ってバレーヌさん口元へ持っていく。


「…んぐ、んぐ…ゲフッ」

「ゆっくりお飲みになって下さい。」


「何故です、彼女は貴女に危害を加えようとしたんですよ?」

「…助けてくれたのも、またこの方です。」


困った顔をしたまま、神父様は椅子に腰掛ける。

付き合いきれない…いや、好きにしろと言うことか。


私は立ち上がると、バレーヌさんの近くまで行く。


「バレーヌさん、一つ質問があるのですがお答え頂けませんか?」

「…。」

「何故、フェリシアを助けたんですか?」


神父様が腰を浮かせる。


「待ちなさい、そこはどうして誘拐したのかじゃないのか?」

「いえ、これで良いんです。」


そうこれで良い。

神父様がため息と共に椅子に座り直す。

コバヤシ君を含め、フェリシアもマービンさんも、バレーヌさんですら、眉を寄せて不思議そうな顔でこちらを見ている。


「カカナ、どう言うことだよ?」

「…コバヤシ君、人は口では何とでも言えるの。でも行動はそうは行かない。その人の本質は行動に現れる。」


橋から落ちた時、バレーヌはフェリシアを守る様に抱きしめていたし、追って飛び込んだコバヤシ君に向かってフェリシアを託した。

ただの誘拐とは思えない。


「…良いわカナ。それは彼女が必要だったからよ。」

「魔法が使えるからだろ?」

「ええ。」


ほらなと言わんばかりに、神父様が額に手を当て顔を伏せる。マービンさんも、どこか残念そう。


「どうして必要だったんですか?」

「だから、魔法が使えるからだと彼女は言っている…」

「カナ…どうして貴女は疑問に思うの?」


バレーヌの言葉に目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、落ちるフェリシアを託した後、微笑みながら目を閉じた彼女の顔だ。安堵と死を覚悟した顔。


「貴女が死んでも守ろうとしたからです。たかが誘拐犯がそこまでするとは思えません。」


あの光景が頭から離れないから、私はずっとここで発言し続けている。


本当は、今すぐ下を向きたい。座りたい。

足だって震えているし、手汗も凄い。


異世界で知識もないのに、大人相手に噛み付いているのだ。

神父様の堪忍袋が限界なのも分かるし、マービンさんに迷惑をかけているとも思う。


怖い。

怖くて仕方ないけど、ここで引いてはいけないと私の心が叫んでいる。例え全てが敵でも、私は一人でも立ち続けなければ…



「俺もカカナと同意見です。上手く言えないけど、誘拐犯だけど悪意は感じません。」


唐突に立ち上がったコバヤシ君。

悪意は感じないってそんな主観的な意見…嫌いじゃない。

良かった、私は一人じゃない。



「…は。ははは…!!」



急にバレーヌさんが笑い出す。

縛られた両手で涙を拭きながら、椅子の上でクネクネと身体をよじっている。


「はは…いや、すまない。カナ、降参だよ。」

「こ、降参ですか?」

「私は確かに誘拐をする為に来た。でもそれは聖女を、フェリシア様を助ける為だ。」

「私を助ける?」

「なんじゃって!?」


フェリシアとマービンさんが驚きの声を上げる。


「馬鹿馬鹿しい。カナさんここまでだ。」


まだだ、ここで止めては行けない。


「神父様もう少しお待ち下さい!…バレーヌさん、助ける為に誘拐したと言うんですか?」

「正確には、我々のせいで狙われてしまったと言うのが正しい。本来ならキチンとお話しした上でご同行…いや協力をお願いするつもりだった。」

「賊の戯言ではないか…。」

「賊で結構。ただ、フェリシア様の身に危険が迫っております。…私は」


そう言って、バレーヌは椅子から素早く立ち上がる。

すぐマービンさんと神父様が立ち構えるが、彼女は静かにフェリシアの前に膝跨いだ。


「フェリシア様、私はマラジアル連邦王国から遣わされた兵士です。我が国を救う為に、お力になって頂きたく参上した次第です。今までのご無礼どうかお許し下さい。」


女性騎士!?カッコいい!…と叫びたくなる心を押し殺し、聴き慣れない言葉の海に呑み込まれる。

隣から、連邦王国って何?ってコバヤシ君が聞いてくるが、私だって知らない!


「バレーヌさん。王国からの使者であれば、なおさら何故です?お話し下さればご協力したのに。」

「申し訳ありません。この村には…フェリシア様がマラジアルに協力するのを、良しとしない輩がいる可能性がいたので、正面からお話しする事が出来なかったのです。ご理解下さい。」

「ちょっと待ってくれよ、村人に敵がいるって事か?」

「ハヤト様!」


フェリシアが明らかに動揺する。そりゃそうだろう。

村人は彼女にとって家族なんだから。


「命までは分かりませんが、必要であれば遠くへ連れ去る事もするでしょう…。」

「あぁ…。」

「フェリシア!」


倒れそうになるフェリシアを抱きとめる。か細く大丈夫ですと言ってくれたが、全身から力が抜けていた。


コバヤシ君がこそっとマービンさんの近くへ。


「マービンさん、…マラルル王国ってなんですか?」

「ハートよ、マラジアル連邦王国な。ぬしゃらがいるこの国のこったい。」

「連邦王国という事は、州や領地の集まりという事ですか?」

「せや、カナち。」

「…カカナは分かるの?」

「コバヤシ君、さては社会苦手ね。」


頭を抱えるコバヤシ君。

連邦で王国と言う事は…私達の世界だとあの国かな?と思うが、知らない事だらけだの世界だ。迂闊に決めつけない方がいい。


「それじゃ、バレーヌさんはそのマラジ…」


そこまで話した所で、遠くから「カーン!カーン!」と鉄板を叩く大きな音が聞こえてきた。


「なんの音?」

「やだ、火事です!」

「ここにおんしゃい、見て来るて!!」


怯えるフェリシアをそっと抱き寄せ、走って外へ出るマービンさんを見送る。


「カンカンカン!!」


鉄を叩く音は止まない。

ほんの少しの時間の筈だが、ものすごく長い時間に感じた。


勢いよく扉が開くと、マービンさんが大股で戻ってくる。

長銃を脇に構えたマービンさんは、そのまま祭壇付近にいたバレーヌさんを乱暴に立たせて、扉のところまで連れて行く。


「あれは、おめぇの仲間か!!?」


見た事のない剣幕でマービンさんが叫ぶ。

いてもたってもいられず、私とコバヤシ君も扉の方へ。


「…そんな!?」


外は火事どころではなかった。

家屋が、畑が、道が、空から降ってくる火の雨に、また一つ、また一つと炎に包まれて行く。

逃げ惑う村人の中には、消火作業をしようとする人もいたが…


「…っ!」


そのまま飛んできた火の雨に呑み込まれる。


「私の仲間じゃない。…オークを放っておいてなんだが、国民を傷付ける事はしない。」


それを聞くと、マービンさんはナイフを取り出し彼女の縄を切った。


「…良いのか?」

「フェリシアを頼んだて。ハートとカナちも行きんしゃい。」

「マービンさんは…?」

「森の中ちに何人かおる。火の雨を辞めさせんとあかん。」

「そ、それなら俺たちも手伝うよ!」

「ならん!!…バレーヌ殿には悪いが、まだ信じた訳じゃなか。もしもん時は、2人が力になってやってくれ。」


コバヤシ君と私は力強く頷く。

フェリシアが近くまでやってきて、マービンを抱き締める。


「マービンさん…」

「お前さんに命ば助けて貰って、世話になった村だ。落ち着いたら帰って来いな。」


そう言って、マービンさんは腰のポーチと長銃を私に渡す。

ポーチには、紙に包まれた弾がいくつか入っていた。

戸惑う私に優しく手を乗せ、


「使い方は分かるな?こいは、女子でも戦士を殺す武器じゃ。カナちなら、使うべき時が分かるはずじゃて、持っててくれ。」


そう言ってマービンさんは教会を走り出る。

呼び止めようとした私の肩を、コバヤシ君が止める。


「行こう。俺たちがここから離れれば、多分村を襲う理由がなくなるはずだから。」

「コバヤシ君…。」

「…フェリシアも、さぁ行こう。」


そう言って、彼はフェリシアを優しく手を引く。

裏口から行きましょうと、バレーヌさんが私たちを先導する。


神像の横を抜け、奥へ続く扉を開けて中に入る私たち。

廊下の先にはあのキッチンがあり、教会の裏へ続く扉がある。そこを目指す!


廊下の窓からでは、村の様子は分からなかったが、微かに空に黒い煙が見える。


キッチンの扉を開けると、そこには扉を塞ぐようにして立つ1人の男が立っていた。




「…神父様。」




両手には、あの大振りのナイフを持っていた。

最後までご覧下さりありがとう御座います。


紆余曲折ありましたが、いよいよ旅立つようです。



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