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第5話 追跡者と吊り橋

1日目の昼過ぎ。


残りハヤト181日。カナ181日。

手を取り合う2人。


今度はさっきと違う。お互いの気持ちが流れ込んできて、血が沸騰するように熱く力が湧いて来る。


光の粒子に包まれた2人は次の瞬間、1人になった。


そこには、身体の各部分を鉄の鎧で身を固めたハヤトの姿が。

そして、彼が持つ一振りの剣。

ハヤトの身長と同じくらいの長さを誇る両手持ちの剣だ。


いや、剣と呼ぶには問題がある。

剣身の横幅が、普通の剣の3倍以上広い。剣先が無ければ、ただの長鉄板だと思えてしまう。


距離を詰めたオークが、岩の棍棒を振り上げる。


ハヤトは避けない。

人が持つには大きすぎる鉄の塊を持ち上げ、まるで試すかの様にその攻撃を剣で受ける。


ギャンッ!!!


森に響く金属音。驚いた野鳥が飛び立つ。

いや驚いたのは野鳥だけでなく、反動でひっくり返るオークもそうだった。


オークが地面で数度バウンドする。追撃するように振り下ろされる大剣。

何が起こったか理解出来ないまま、避ける事も防ぐ事も出来ず、オークは倒れて動かなくなる。



「や、やったのか?」

『…多分。』


剣から声がする気がする。


「うわっ!ウソ、本当に剣になったの!?」

『そうみたい。キミもかなり変わってるよ』


そう言われて自分の格好を見てみる。

シルバーのプレートアーマーに、革の服…めっちゃゲームのキャラ見たいじゃん!!

マントこそ無いが、これが勇者?カッコいい…。


『ヘラヘラしてないで』

「してないよ!…見えるの?」

『…変な感じだけど見えるよ。それより早く追わないと!』

「でも、かなり離されたぞ…」


こんな装備の割に身体は不思議と軽いが、走ってどうこうなる距離とは思えない…勿論諦めるつもりも無いが。


走り出そうとした時、またさっきの声が聞こえてくる。


『身体強化を使うと良い。今の君なら使えるだろう。』


(どう使うんだよ!?…身体強化!!)


詳しい説明は相変わらず無い。取り敢えず念じてみた。

すると、身体の隅々まで感覚が冴え渡り、身体がさっき以上の軽さになる。

おぉ、凄い!スーパーマンになった気分だ。大剣も棒切れの様にブンブン振り回せる。


『ただ、寿命を1日消費する。』


「ちょっ、早く言えよ!!!」


使った後に言うなよ!!

そう言えば天使が技を使うと…とかそんな事を言っていた気がする。

しかし、使っちまったもんはしょうがない。こうなれば一気に走って…!


『ねぇ、誰かさんちょっと良い?まだフェリシアの場所は分かるの?』

『当然だ。』

『よしコバヤシ君、せっかく強化したんだからショートカットしない?』

「ショートカット?」


カカナの話を聞いた俺は、森へ飛び込んだ。




□□□





こんな田舎に派遣されて2週間。


治癒魔法が使える聖女の噂を聞きつけて3ヶ月。別班が確保に向かったが、何故か村人にすぐ発見されことごとく失敗。


主人の命令により、私の班が直接現場へ赴く事になった。


当然村の警戒は強くなっており、部外者の潜入は難しいと判断。そこで私は村に魔物を放った。選んだのはオーク。

知力も弱く昼間に弱いオークなら、被害も少ないだろうと言う判断だ。

どうせ戦える者など神父くらいだろう。事態に気づくまで時間を稼げる。


目印にしていた岩の横を走り抜ける。

間も無く後方に待機させていた部下と合流ポイントだ。そこから先にある渓谷の吊り橋を渡ってしまえば、村から追跡があっても間に合わないだろう。


万が一に備えて橋を壊す案もあるが、生活に直結しているライフラインへの攻撃は最終手段としている。



「…隊長、追手っす。」


後ろを走る部下の1人からの報告。


「思ったより速いな。」

「数は2。若い男女。」

「合流を急ぐ。」

「「了解」」


走る速さを上げるがこれが限界だ。村人の格好で偽装しているが、その下に着た武具が速度を鈍らせている。


「距離、縮められています。やりますか?」

「このままだ。足止めはアレを使おう。」


そう言って私は空いている方の手を大きく空に向かって回す。

符丁の意味は『解き放て』だ。

森の中で動きが起こる。程なくして待機させていた2人の部下が合流。


「奴を起こしました。」

「よし。このまま渓谷へ向かう。」


後方で森から出て来たオークが、追跡者の2人を足止めするのが見えた。倒すにしても、迂回するにももう追いつかないだろう。



5人になった一団は獣道をさらに進み、開けた場所までやって来る。

眼前に見えるのは、渓谷にかけられた年季の入った一本の吊り橋。


「ここまで来れば…」

「隊長、後方追って無し」

「はぁー走った走った」


ここまで来てようやく走るのをやめる。歩く部下達に少し緊張の緩みが見える。


何か一言注意でもしようかと考えた時、最年長の男が口を開いた。


「気が緩んで橋から落ちても助けませんよ。」

「セロスの旦那こそギックリ腰になっても、おぶってあげませんよ。」


せっかくの忠告も、コイツには効果無しの様だ。

斥候の腕は確かなんだが、少し規律に弱い点が問題だ。


「レオパール、どうやら少し躾が必要なようですな。」

「へへ、受けて立ちますよ!」

「2人とも作戦中です!」


部下で唯一の女性バレーヌが、2人をたしなめる。

慌てて黙るセロスとレオパール。


私は知っている。この部隊で一番怖いのは誰か。

だが、隊長は私だ。閉めるところは閉めなければいけない。


「バレーヌの言う通りまだ気を抜くな。関所を抜けるまでは…」

「隊長、何か来ます。」


私が話きる前に、部下の中で一番体格の良い男、ルーが警告してきた。

レオパールがすぐさま森側へ展開。しかし奴は何を見つけたのか戸惑った表情をこちらに向けて来た。


「た、隊長…何かが突進して来ます。」

「大魔猪か?」


思わず口に出してしまう程異様な光景だった。

見えない巨人が森の中を走っているかの様な違和感。

土煙が上がり、木々がなぎ倒され、何かが一直線にこっちへ向かっている。


「服は脱ぐな!我々の事は悟られてはいけない。ルーも杖を禁止。」

「…了解しました。」

「隊長、距離…やべぇ!!」


大魔猪か…いや付近での報告は聞いていない。

遭遇戦だとしてもこの感じ、迷わずここを目指して一目散に向かって来る!

気を失っている聖女を少し離れた後方に寝かせ、号令をかける。


「防御陣形、全員抜刀!!!」


菱形陣形が形成される。


前衛に素早いレオパール。

後列に私を中心に、左は古参のセロス。右は大柄なルーが固める。

私の後ろには、折り畳み式の小弓を構えたバレーヌ。


「隊長来ます!」

「かき回せ!!」

「了解!」


掛け声と共にレオパールが走り出す。奴ような目と反射神経に恵まれた者は、なかなかいない。未確認の魔物相手でも遅れを取るような事は…。


「無茶苦茶だ!!」


レオパールが何か叫んでサイドへ飛んで避ける。


森の中から木々を吹き飛ばしながら出て来たのは、一振りの剣だった。いや、アレは剣なのか!?

剣士の後ろには、鮮やかに切り倒された木々が一直線の道を作っている。

まさか森を切り開いて追いかけて来たと言うのか!?


剣士は魔人でもなく人間だ。それも若い。

そもそも人が持てるサイズでは無い。…マジックアイテムの一種か?



セロスとルーが走り出して接敵。

挟撃に対して少年はルーに背を向け、セロスへ剣を振るう。


「早…っぐぉ!?」


尋常じゃない速度で大剣が振るわれ、セロスが吹き飛ぶ。

しかしガラ空きの背中へ、ルーの剣が迫る!!




□□□




森を抜けると、視界の隅に飛び跳ねる男が見えた。

何か叫んでいたが、今はそれどころではない。

両脇から別の男達が剣を振り上げて迫って来ていた。


『右のおじさんからフルスイング!』

「おっし!」


剣を左下に構え渾身の力で振るう!

刃ではなく、刀身の面部分で打ち飛ばす。飛んでいくのは一塁打だか…。気にしない。


身体は右へ回転しているので、背中にもう1人の大男が迫る。


『君を軸に回せー!!!』

「うぉぉお!!!」


カカナの言う通り、剣の質量任せに回し続ける!

身体は180度回転し、視界に大男の表情が目に入るが、気にせずそのまま振り抜いて…ピッチャーゴロ!


「…うっし、2人目!」


「テメェー!!」


左から飛び跳ね男が迫って来る。早い!


『前!!』


カカナの声に反射でガード。間髪入れずに蹴りと斬撃が繰り出さられる。手甲で受け、身体を捻ってさばききる。

コイツがフェリシアを運んでた奴だ!


「今のを反応するとは、視野が広いな。」

「へへ、残念だったな!」

『話しかけられても気にしちゃダメ!カエル男が背後から来る!』


剣を地面に振り回しながら、反動で立ち位置を入れ替える。

身体がフワフワ舞って楽しい。

半回転したところで視界に、振り回される剣を避ける為に、飛び上がったカエル男と目が合う。


「何だよコイツ!?素人くさいのに、デタラメ…!」


そのままカエル男を刀身の面で打ち上げる。軽いのか、思ったより飛ぶが…サードフライだな。


『まだ2人いる!』

「フェリシアは!?」

「よそ見している暇はないぞ!!」


胴を狙った払いを、剣を縦にして防御する。弾かれリーダーの男が仰け反る。


「まだだ!!」

「しつこいんだよ!」


力任せに振るう大剣は、リーダーの男には届かない。

しかしリーダーの男も、攻撃してもびくともしないハヤトに手を焼いているようだった。


「隊長!」


奥からそんな声がした。

ハヤトは見る暇がなかったが、目の前のリーダーには伝わったのか、目線を外さずに指示を飛ばす。


「追え!!」


後方にいた1人が橋へ向かって走る出す。その先を追うと…


『いた、橋の上にフェリシアが!』


カカナの声を聞いて視線を動かす。

吊り橋をフェリシアが半分程渡っており、その後ろをもう1人が追い掛けている。


「来ないでよ!!」

「ちょっと落ち着きなさい!傷付けたりしないから!」


フェリシアは足を止めさせる為に橋を揺らす。

追跡者はバランスを崩し、ロープに捕まる。


(今だ!)


フェリシアは向きを変え走り出し…


ミキッ!!


「うわっ…っ!!!」


腐っていた床板が抜けたのだ。揺れる吊り橋にバランスを崩し、フェリシアの身体は右に沈む。

修道着から足をバタつかせながら、スルッと橋の外へ身体が落ちる。

手はロープにすら触れられず、空をかく。




「…っ!!」




飛び込んで来た追跡者が、右手を伸ばしてフェリシアの手を掴む。左手でロープを掴んでいるが、感触がまずい…板だけじゃなく、ロープ自体も相当摩耗しており細い。


2人の体重がかかった事で吊り橋が大きく右に傾く。


「…下を見るな!!」


そう言われて、フェリシアはつい下を見てしまう。

足元には霧がかかったもう一つの森が広がっている。山の上から垂直に地上へ降りるような高さだ。


必死に手にしがみ付くフェリシアの顔は蒼白。

助けてあげたいが…



(…もうダメ)



それは自分のことではなく、橋が保たない。

目の端でロープがほつれて行くのが分かる。


覚悟を決める。



重量バランスを崩した吊り橋は、木片と2人を谷底へと落とした…。




最後までありがとうございます。


今回は特に長くて申し訳ないです。

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