表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/41

第37話 認められないもの

5日目の夜。


残りハヤト169日。カナ176日。

■■■



「…ってのはどうかな?」


親友からのとびきりの笑顔。

この笑顔に騙される男子も多いが、付き合いの長い私に言わせれば、この顔をされる時はロクな事にならない。


「え、本当に覚えなきゃダメ?」

「絶対面白いじゃん!」


うん。

でもね、覚えるのは私なんだよ?


「それじゃヨロシク!」


そう言って私の親友は、部屋の端に置かれた長机へと戻り、

傾いたパイプ椅子に腰かけると、大きな声で。


「休憩終わりー!次はさっきの続きからやるよぉ!」


部屋に散らばっていた仲間達が、部屋の真ん中にノソノソと集まって来る。

ほらやるよー!と急かされているのを横目に、私は先程受けたオーダーをこなす事に。


どうせしばらく私の出番は無いし、覚えるだけ覚えるか…。




■■■




『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ』



呪文のように長いが、これが芸術家ピカソの本名。

出だしさえ口にできれば、筋肉が覚えているものだ。


「長いのでパブロ国で構いません…。」


私を握るコバヤシ君の左手から、不安と戸惑いの感情が流れて来るが、大丈夫だと思う。

人は予想外の行動に弱いのだから、これだけ長い名前なら…。



「パブロ国ですか…失礼ながら聞いたことはありません。」

「し、島国なもので…あまりこの辺りと交流がなくて。」


コバヤシ君が何とか話を合わせようと必死だ。


思ったよりショックは受けなかったか。

それとも、顔に出さないだけか?

どちらにしても、やはり若くても王様を名乗る人物は違う。


王様…?



『ねぇコバヤシ君。』

『カカナ、どうしようこれで大丈夫なのかよ!?』

『落ち着いて、知らない国の一つや二つあっても構わないでしょう。』

『そ、そうだよね!?』


「…それでパブロの方が、なぜマラジアルに?」



なぜマラジアルに。

…何と答えるべきか。


正直に答えるべきか?

いやそもそも何を求めて、私達に質問をして来ているのか考えるんだ。


もし聞いたことのある国の名前だったらどう反応したんだろう。

例えば、マラジアルの国民ですと言ったら?

同じ国民、同盟国、…もしかして国の名前はそんなに重要じゃないんじゃないかな。


そう、この人は……なんだから。


つまりどこ出身かと言うより、私達が敵か味方かを見分けに来たのだ。



『カカナ、何て答える!?』

『マラジアル王と同盟を結ぶ為!王に対して友好的な立場をとって!』


「ま、マラジアル王と同盟を、結ぶ為です。」

「私と同盟を?」

「なかなかこちら側に来ることが出来なくて、と、友達を作ろうと思って…」


『友達って何よ、もっと他に言葉はないの!?』

『トモダチは友好的だろ!?』


マラジアル王は、ふむと少し顔を下にさげて思案を始める。

表情は、コバヤシ君越しと言う事もあって、読むことは出来ない。


ならばと、私は意識を王に集中させると、フワリと視界がそちらへと吸い込まれるように動く。



この剣状態の時、私の意識はコバヤシ君を中心に、少しの距離だが周囲へ動かす事が出来る。

自分を俯瞰する、幽体離脱…表現の仕方は色々あるが、この手段を使っていつもコバヤシ君の戦闘をサポートして来た。


『カカナ、友達はヤバかったかな!?』

『ちょっと待って!』


ギリギリの距離だが、薪が燃える明かりの下に、フードで隠れていた表情が…地面ではなく、別の場所を真っ直ぐ見つめている事に気がついた。


その視線の先には、双子の少女がいる。

羽織でわかりにくいが、下の服装は…メイド服?

この子達は、王の従者か。


その片方、コバヤシ君の少し左後ろに控えたメイドが、何か手をゴニョゴニョ動かしていた。

不安を隠すためのモジモジではなく、意志のある手指の動き。

野球のサインみたいなこれは、もしかして…?





『防御姿勢!!!』





どこからか聞こえて来た鋭く低い女性の声。

コバヤシ君が反射で私を地面に突き刺し、フェリシアを庇うようにしゃがむ。



驚くマラジアル王と、慌てるメイド2人がスローで見える…。



刹那。



ヒュンと一直線に、先程までコバヤシ君が立っていた場所へ矢が飛んで来た。

そのうち2本は私に当たり、小さな火花を散らして明後日の方向に弾かれる。

もう1本は、誰にも当たる事なく手前の地面に刺さった。



『第二射!!!』



森全体から聞こえて来る様な大声が、私達だけにまた聞こえる。

剣の柄から、コバヤシ君がまだ地面に立ったままのマラジアル王に意識を向けるのが分かった。


「王様!」

『ダメ、左後ろの2人を守って!!』


私の声に、彼は迷わず反応してくれる。

フェリシアの前に私を突き立てたまま、横っ飛びでメイドの2人を押し倒すように地面に飛び込んだ。


…大丈夫。

剣化は、意識しない限りすぐには解けたりしない。

魔法が解けるまで少しタイムラグがあるとは言え、剣状態なのに私は身を硬くした。



ヒュン…!!!



ほぼ同時に3本の矢が夜闇の中から飛来し、1本は奥の地面に刺さり、1本は燃える薪の中に飛び込み、最後の1本は…



「ぐっ…!!」



コバヤシ君の左肩に刺さった。





■■■



少し前。




「くそがっ、何なんだあの女は!!!」


3度目の蹴りを入れられた家屋の壁が、耐えきれずボロボロと崩れ穴が開く。


ムシャクシャする。

家財を蹴り飛ばそうが、壁を壊そうが、この感情は鎮まることはない。


「亜人に守られるだと!?ましてや、あんな下等人種に報酬を支払うなど!!」

「ウルバーノ殿。我々も同じ気持ちです。」


横で腕組みをしている騎士は、近衛の1人で私の優秀な部下のブレズだ。


「あぁ、そうだともブレズ。我が盟友よ。覚えているか、あの恥知らずの女が何と言ったか。」

「…我々人間と亜人が、平等だと。」

「そうだとも!そんな笑い話、初めて聞いたわ!!刺せば死ぬと?そんなこと知るか!出自が違うんだよ出自が!!…我々はただの人間では無い。伝統ある貴族だぞ!!」

「しかしウルバーノ様、奴等の王は…」


横から口を出して来たのはもう1人の部下、リコだ。

貴族ではあるが我々とは天地程差のある、下等貴族。

先ほどの戦いでは、オークにビビって逃が出し、死んだと思っていたが、悪運強く生き残った小心者だ。


「…王だと。あの若造が?」

「失礼致しました。あのハヤトとか言う小僧は、竜炎を使うと」

「私はあの場にいたのだから、知っておるわ!それが何だと言うのだ!?」

「いえ…」


マラジアルの初代王が使ったと言われる、竜の火炎と同じ青い炎。

次代のマラジアル王達にも引き継がれず、ヴァステイトの賢者達さえ再現出来なかった特殊な魔法だ。


そんな御伽噺のような魔法を、どこの馬とも知れない小僧が…この目で見たとは言え、いまだに信じられない。


「なぜ、あんな小僧が使えるのだ!?」

「ウルバーノ殿、あのジュウシカナはともかく、…ハヤトと呼ばれたあの少年は、その様な力がある者には見えませんでした。もしや、何か小細工があるのでは?」

「小細工…だと?」


そうか、そうだな。

あんな小僧がそんな伝説級の魔法を使うなんて、あり得るわけない。


我々を貶める為のハッタリだったんだ。


「…ブレズの言う通りだな。我らマラジアル人が、青い炎に対してどれだけ畏敬の念を持っているか知った上で、あの者達はアレを見せたのだ。」


胸が熱くなり、両の足に力が漲ってくる。

拳は、先ほどとは違う熱い怒りの力ではなく、冷たく透き通る様な痛みで握り拳を作っていた。


「我らが王は、まだ若く未熟。亜人に我々人間を守る力などあるはずもない。…詐欺師の様な真似を!」

「…あ、あの、ウルバーノ様?」

「我々が証明せねばならん!亜人どもと、あの詐欺師達の口が偽りであると。」

「どうなさるおつもりで?」


アイツら、いやあの自称亜人の王が、口先だけの実力は無い詐欺師だと証明出来れば良いのだ。


「ブレズ、何か案はないか?」

「外から魔物を誘い入れるのは如何でしょう?先ほどの戦いは、我々の助力があったからかその勝利。奴らだけでは総崩れでしょう。」

「うむ…いやしかし、王を危険に晒すわけにはいかない。目的はあの詐欺師だけだ。大事にする必要はない。」


それに火筒を使うと言うジュウシカナは無視できない。

噂程度しか知らないが、弓より早く、礫でいとも容易く人を射抜くと聞く。


「ならば…闇から。」

「黙れブレズ。我々は誇り高き近衛騎士だぞ。万が一、闇討ちの事実が露見する様な事があれば…」


最悪、亜人どもを全て相手にしなければならなくなる。

質はともかく、数では圧倒的に向こうが多いのだ。

正面からぶつかり合うのは避けねばならない。


さて、どうしたものか…。



「ウルバーノ様、アレを使ってみては?」


リコが指を刺した先には、まだ片付けられていないゴブリンの死骸が何体か転がっていた。



「…リコ、お前。」



私は、口元を歪めた。



■■■




一瞬何が起こったのか分からなかった。


聞いた事もないとてつも無く長い国名にも驚いたし、なにより連邦国じゃなくて、マラジアル王と同盟!?

これはもしかしたら、願ってもないタイミングなのかもしれない?いや待って、まだ真意は分からないからと早る気持ちを抑える。


混乱している事を悟られない様に、澄まし顔をしていたが…内心は吹き荒れる嵐の様だった。



そこへ、いきなり前触れもなく…亜人の王が肉を焼いていた鉄板を振り上げたのだ。


21個。

つい目が、空中に投げ出された肉の数を目で追ってしまう。

滲み出た脂と焼き目の色から、ちょうど良い食べ頃だと判断する。


(…クウィリ!!)


反射で王を守ろうと身体が動こうとした瞬間、亜人の王が地面に突き刺した鉄板が、実は剣だった事にさらに驚く。


「ぶ、武器で焼いてたの!?」


つい、どうでも良い事を口走ってしまう。


一拍おいて、3本の矢が飛来。


剣に弾かれ、地面に刺さり、殺意ある攻撃だと判断。

発射地点に目を向ける…木々の影、暗闇の中から弓を引く人間の姿が…ふたり、いや3人?


顔が見えるかどうかの瞬間、目の前に白いエプロンが覆い被される様に迫り押し倒される。

ゆっくりと後ろに倒されていく中、私と隣の彼女の後頭部に手が回されるのが分かった。


全身に力を入れて身を固くする亜人の王と、地面に向かって倒れていく中、私は森の奥から視線を外さずにいた。



…当たる。



放たれた第2射の一本が私たちの方へ向かって来るが、このままだと隣の彼女に当たる弾道。


地面に背中が当たる瞬間、私は身体を少し動かして覆いかぶさる亜人王の身体を、右にずらした…。



「んっ…!!」



そして、痛みで身体を硬くした彼の体重に押し潰されて、私も呻いた。


最後までご覧くださり、ありがとうございます。


それは本当に誰の為、何の為なのか。

大義名分を振りかざして、つまらないプライドを守る為に自己満足していないだろうか。


権力や立場を考えながら、相手に対して誠実に生きていきたいです。



ピカソの名前は…昔はちゃんと言えたんですが、今はうろ覚えです(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ