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第32話 交わらない人達

5日目の昼過ぎ。


残りハヤト170日。カナ176日。

「あ、あのすみません。」

「君は…人族か?」


声を掛けた兵士は、周りにいる兵士とは少し違う格好をしていた。

新品と言う言葉より、芸術品と言った方がしっくりくる繊細な鎧を見に纏い、一人だけ濃い青色のマントを羽織っている。



『きっとこの人が隊長よ。レオパールさんの事を聞いてみましょう。』

「あぁ。…その、マラジアルの方ですよね?」

「いかにも我々は、誇りあるマラジアル連邦王の近衛騎士団、団長のコンスタツォだ。君は?」

「お、お…私は、あの…レオパールさんの…」



レオパールの何なんだ?

友人?

いや、知り合い?


うまく言葉が出てこなくて、口の中で言葉を濁していると、目の前の隊長が、ハッとして腕を伸ばして来た。


『えっ、急になになに!?』


抱き寄せられたのは俺のはずなのに、剣のカカナが騒ぎ出す。

訳がわからず混乱する俺の頭上で、隊長が声を張り上げる。



「亜人どもよ、勝手に村に入ることを禁止する!ここは、我々マラジアル連邦王国の領土である!…亜人は去れ!!!」


突然の言葉に、頭がついてこない。

領土?去る?


「ちょっと、待って下さい。ここは…」

「君は人族だな?安心したまえ、亜人の言いなりになる必要はない。我々が君を守る。」

「い、いや違っ…」

「近衛隊、突撃陣形!!!」


バタバタ足音を立てながら兵士達が、隊長を中心に三角形の配置についた。


それを見て、ランドルフがすぐさま反応。ケンパーゼ族が合図で槍を構えて迎え撃つ陣形を一瞬で整える。



『ウサギさんが勝つよ。』

「…ちょ、何を悠長に。って、ウサギってケンパーゼ族の事!?」

『この兵士は装備は一流、顔は二流、腕は三流だね。』

「何言ってんだよ!あぁもう…あの、すみません隊長さん!」

「危険だ、君は下がれ!!前列突撃ヨーイ!!」



この戦いを止めなきゃ。

もがくけど、腕力が強い。仕方がない、ここは身体強化を…。


『待ってコバヤシ君。私がやるわ。』

「わ、私がって、銃を使うのか!?」

『違う。ランドルフさんの時と一緒、戦意を挫くの。…コバヤシ君、この人達を降伏させて。』


ランドルフさんと一緒?降伏…あぁ、あれか!

カカナが集中する為に黙ったのを感じる。確かあの時、なんて言ったっけ?


野盗ども…すでに包囲されている、とか?

いや、狙っているとか言った気がする…。



「前列突撃!!」

「…来るぞ!迎え撃て!!」

「「うぉー!!!」」


ヤバイ、兵士達が叫び声を上げながら走り出した!どうしょう!?


『ほらハヤト、良いから取り敢えずなんか喋りなよ〜。』

「そ、そんなこと言ったって。急かされたら思い出せないだろ!」

『コバヤシ君、やるわよ。…鬨の声!!!』


カカナが寿命を1日分魔力に変換して、周囲の空間に拡散。


「あぁーもう!」


頭は真っ白だけど、術が発動して遠くから掛け声が聞こえてくる。

もう迷っている暇はない、何か話さなくちゃ…


「「ぇぃ、ぇい、えい、おぉー!!」」

「な、なんだかの声は!?」

「この声は…まさか」


第3の声が介入して来たことで、双方の足が鈍る。


今しかない!

驚く隊長の腕を振り解いて、目一杯息を吸う。


「き、聞けぃ兵士ども!」


混乱する兵士達の視線が一度に集まる。

思い出せ、思い出せ…あの時、カカナはなんと言わせたんだ!?


「諸君は、すでに包囲されている!無駄な抵抗を辞めて大人しく投降しなさい!!」



い、言えた!!

しかも予想より滑らかに言葉が出て来た。

兵士もランドルフも足を止めているところを見ると、上手くいったんじゃないか!?


褒められると思ってドヤ顔で下を見ると、なんとも言えない顔をした妖精と、表情は無いがどことなく呆れた感じのする大剣が視界に入った。


『犯人じゃないんだから…。』

『…サイレンの方が良かったんじゃない?』


なんだよその言い方!

一生懸命やったのに、その評価はないんじゃないか!?

へそを曲げようとした時、隊長が剣を大きく空に向けた。



「貴様っ…全隊死守せよ!!!」


ししゅ?

死んででも守れってこと?


驚く俺に、さっきとは違う殺気に満ちた目を向けてくる隊長。

どうやら、敵として認識された様だけど、だからと言って剣を向けてくる様子はない。


突撃仕掛けていた兵士達も元にいた場所へ戻り、円状に防御陣形を整えた。

ぱっと見、マラジアルの兵士は10人程。

よく見れば、数人非武装の人間がいる。スーツ姿の男性と、白いエプロンをつけた女性が2人。


それに対峙するケンパーゼとアヴァラスは、全て戦士。

合わせて30人だ。


そこにこの鬨の声まで含まれ、普通に考えれば人数的に勝ち目なんて無い。だと言うのにどうして?


非武装の人間を守っているのかと思ったが…、彼らもまた何かを守るように中心に立っている。


「こ、コンスタツォ騎士団長…!」


円の中心から聞こえたその声は、カカナの鬨の声が響く中でもはっきりと聞き取れた。

ちょっと上ずっていたが、透き通る様な声音でどこか重みのあるしっかりとした声。



『良い声ね。羨ましいわ。』


おもむろにカカナが褒める。

確かに、聞いていて心地良い声だ。


スーツの男を押しどかし兵士達の間から出て来たのは、近衛兵の人達より良い装飾が施された鎧を身に纏った青年。年齢で言えば、雅人と同じくらい…背丈もフェリシアより少し小さい位だ。



「いけません陛下!」

「…陛下!?」


思わずオウム返しをしてしまう。

マラジアルの近衛騎士団が守る陛下と言えば、それはもう一人しかないんじゃ無いか?


流石の俺にも分かる。

目の前で、騎士団長を手で制している青年は、マラジアル連邦王国の王様だ!



「そ、そちらの代表の方と…お話しできませんか?」


聞き惚れる様な声で、彼はそう言った。





□□□





30分後(体感)。


被害が少なかった集会所をとにかく最優先で片付けて、あっちこっちの家から使えそうな家具をかき集め、高さや形の違うテーブルやイスが並ぶ臨時の会議室を作った。


奥側に座るのは、マラジアルの青年…王様。後ろに立って控えるのは騎士団長を含む騎士5人。

無言で圧力をかけてくる感じから、威圧感が強いメンバーを選んできたなと思う。力で交渉を進めようと言う感じすらする。


反対側はランドルフにビアンカ、ミィーアとジーナ。

椅子に座るのは、拒否したのに俺。後ろに控えるのはカカナ。


こちら側はいつものメンバーぽいが、ビアンカ、ジーナを連れて来たあたり、圧力に屈せず交渉を上手く進めたい思惑が強い。



「それでは、まずこちらの要望だが…」


口を開いたのは近衛団長だった。確か名前はコン…なんちゃらさんだったか。


「この村から退去し、我々がここにいる事を他言無用にする事、そして…」

「なんだって!?そもそもここはアタイらの…」

「ミィーア、落ち着いて。」


すかさずミィーアが異論を唱えるが、ジーナに止められる。

小声で、分かりますけどまだです。と囁いている。



「失礼しました、続きをどうぞ。」

「…ふむ。そして、食料、武器、騎馬の提供だ。」


騎馬?

それってもしかして…


「我々の大鹿を提供しろと?」

「そうだ。あの鹿はこの山岳地帯の山鹿とは種類が違うな。平地の鹿だな?」

「だから?」

「我々は騎兵だ。体格も馬に近く、大きさから突撃力もそれなりだろ。それも提供してもらう。」


提供って…そんな強制的な意味だったっけ?

もっと前向きな、支援的な意味だった気がするけど。



「断る。」


ランドルフが一言。そりゃそうだ。

団長も含めた騎士団メンバーの顔が険しくなるが、隣のミィーアも、腕を組んで不満顔を隠そうともしない。


居心地の悪さに、お尻がむず痒くなる。

息苦しい室内の空気にお尻をムズムズさせていると、後ろのジーナが口を開いた。



「そちらの要望は分かりました。…ではこちらからは、一点のみ。そちらが私達の村から退去する事です。」

「…断る。ここはマラジアルの領土である。」

「えぇ、その点は認めますが、そのマラジアルから認可された亜人の村です。そちらが決めた納税の義務も果たし、徴兵にも応じています。自治権が認められている私達に、出て行く道理がありません。この村に駐留したいのなら、そう願い出るべきです。村に泊めて下さいと。」

「王様がそう言うなら、アタイらも考えてやるよ。」


ミィーアがニヤニヤしながら挑発的に言葉を載せる。

売り言葉に買い言葉。控えていた騎士団員達が前のめりに。



「なんだと!?…貴様ら亜人の癖に!!」

「一方的にやって来て、自分たちで法を押し付けておきながら、自分たちで破るんですか人族は?」

「獣風情が、法を語るんじゃ無い!!」

「法も守れない奴が獣を語るのか!?」




バン!!!



騎士団長の拳がテーブルに叩きつけられた衝撃で、木製の机は少し地面を離れた。

騎士団員はビクッと身体を震わせると、すぐさま直立不動に戻る。



「主張は分かった。確かにそちらの意見も道理だが、今は非常時。王の言葉に従うのだ亜人。」

「王の言葉?さっきから話しているのは、腰巻の方々じゃ無いですか。」


ビアンカも薄目で火に油を注ぐような事を言う。

あっちもあっただが、こっちもこっちじゃ無いか?



「…猫族の村は確か記録されているが、君達兎族は我が国土の民ではない筈だ。口を挟まないでもらおうか。」

「そうだそうだ!」

「貴様らこそ、まずさっさと村から出て行け!」

「えぇ、私も勝手に人の村に上がり込んで、焼き払う非道な人族と一時だって一緒にいたくないですから。ただ出ていくのは貴方達です。」

「なんだと!?亜人が我々貴族と口を聞くのだって、ありえない事なんだぞ!」

「それはありがたい事です。でしたら、私達の言葉にいちいち反応せず、口を閉じてて頂けませんか貴族様?」

「あぁあ!!?」


また腰巻の騎士団員たちが前のめりになり、負けじとミィーアとビアンカだけでなく、ジーナまでも喧嘩腰に凄み始めた。


ランドルフと騎士団長は睨み合ったまま、視線をそらない。

たかが高校生に、異世界の住人とはいえ大人の会話に入れる隙なんてありゃしない。

なんで俺をここに座らせたんだと、恨めしい気持ちさえ湧き上がる。



「はぁ……」

「か、カカナ…!?」


今まで黙っていたカカナから盛大なため息が漏れる。

いや、ため息だけじゃなくて、聞こえるか聞こえないかの小声で、アホらしいとか何とか言ったぞ!?

ずっと黙っていたから、俺と同じように緊張して萎縮していたんだと思ったけど、そうだったカカナはそんな女の子じゃない。


急に口を開いた俺に、場の視線が一気に集まり、居心地が悪すぎる。



「…そうだった少年、君はそもそも何者だ。何故亜人側にいる?」


隊長の視線が俺に刺さり、緊張して身体が強張り手汗が溢れ出て、無性に喉が乾く。

ミィーアたちも含めて、みんなの視線が俺が次に何を話すか待っている。人生でこんなに責任を感じた事はない。



「ぁ…ぉれは…」


肩に優しく手が載せられる。


ハッと首を向けると、今まで見たことが無い優しい顔でカカナがコチラにウィンクをした気がした。


彼女はひと呼吸し、真っ直ぐ視線を俺から騎士団の方へ向ける。

その時には、優しい顔は幻だったのかと思うほど、すでに別人の顔がそこにあった。




「彼は人族のハヤト。アヴァラス族とケンパーゼ族を束ねる王です。」




それは、見惚れるほどカッコいい横顔だった。


最後までご覧くださり、ありがとう御座います。


ほとんど喋ってないけど、このタイミングで王様が出て来ました。

どう絡んでくるの…かな?

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