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第30話 食事と出会い

5日目の昼過ぎ。


残りハヤト171日。カナ176日。

「はい、ここを山折します。」


コバヤシ君の説明に合わせて、一斉に子供達の手が動く。

紙同士を合わせるのに慎重な子に、大胆に折り込み先を急かす子。


十人十色の折り方で、机の上に置かれた正方形の紙は、見る見るうちに何かのパーツになっていく。



「それじゃもう一個、同じ物を作るよ。」


子供達に混ざって一緒に作っていた私は、言われた通り机に置かれた紙に手を伸ばしながら、両隣を見る。


左側では、フェリシアが器用に2つ目のパーツをさっさと折り込んでいる。飲み込みが早く、手先も器用なんだな。


右側では、まだ1つ目のパーツを一生懸命作っている少年。

慎重な性格もあるんだろうが、身体に似合わない少し大きめの上着が、彼の手元を邪魔している。

少し迷った私は、意を決して彼の袖をまくって上げることにした。



「…!」

「!?」

「じっとしてて、袖を折るだけよ。」


背後で鞘に手を当てる兵士を無視しながら、緊張し硬っている彼に一声かけ、袖を3回ほどクルクルとやってあげる。


「はい、これでよし。」

「…りがと。」


背後の兵士が何事も無かったかのように、直立に戻る。

心なしか作業が早くなった隣の少年を見ながら、どうしてこうなったのか思い返す。




■■■




昼過ぎに行われた作戦会議後、森へ戻った私たちはそこで簡単な昼食を取った。

…簡単と言っても、手持ちの食料のほとんどを使った最後の晩餐。この食事が終われば、私達は村を奪還する為に戦いに出るのだ。


「カナ様、これをどうぞ。」


猫族の女性から麦粥と一緒に渡されたのは、拳大の小さな肉。見た感じ鶏肉っぽい。


ありがとう御座いますと、礼を言って受け取るが…何やら視線を感じた。周囲を見ても、皆んな静かに粥をすすっている。

気のせいかと思い、フェリシアの隣の地面に腰を下ろす。


フェリシアは先に食べ始めており、あと少しの粥を器を傾けながらすくっていた。


「フェリシア、お肉美味しかった?」

「…!?」


何気なく聞いた食事時の質問に、フェリシアが驚いたようにこちらを向いた。これはもしかして…


「…美味しくなかった?」

「いえ、そう言う訳じゃ!…お姉ちゃんの口に合うと良いですね。」


フェリシアはそう言うと、残りのスープを飲み干して立ち上がった。


お皿を返しに行く彼女を見送りながら、何気なく頭が木の下へ向くと、スプーンを口に咥えたリヤとスープをすするアーデと目が合う。

アーデは慌てて視線を下に落とすが、リヤだけはジッとこっちを見ている。



「リヤ、足りないの?…私の分食べる?」


リヤの目が無言で輝く。

しかしそれをすかさずアーデが服を引っ張って止める。


「ダメだよリヤ。あ、あれはカナ様の!」

「わ、分かってるって!」


スプーンをガジガジしながらリヤはそう言うが…あ、もしかしてお肉の方が嬉しいかな?


「ねぇ、これを2人で…」


2人の猫耳がピンっと真っ直ぐ立つ。

スプーンでお肉をすくい上げた時、横から大柄な女性がやって来て、私の腕を優しく押さえた。



「カナ様。…そいつは戦士のみだ。」

「ライラさん?戦士のみって…それじゃこのお肉は皆さん食べている訳じゃ…」

「仲間が私達の為に狩ってきてくれたんだ。魔物のせいで獲物が少なくて全員には振る舞えない。貴女が食べてくれ。」


ライラにそう言われて、私はすくい上げたお肉を器の中にぽちゃりと落とす。

リヤだけでなく、アーデもしゅんとしてしまう。

それはライラに遠回しに窘められたからか、または貰えそうで貰えなかったから落胆しているのか。


このお粥も水と塩でなんとか量を誤魔化しており、可食料はとてもお腹を満足出来る量じゃない。ケンパーゼ族が合流した事で、アヴァラスの食料が底をついたのだ。


あげたいけど、そう言われたら食べるしかないじゃないか。

もしかして皆んなが静かに食事しているのは、その為なの?


この後の戦いで負ける気はしないが、もしかしたら命を落とす者もいるかもしれない。だから最後の食事くらい良い物を…って、まるで戦時中みたい。


一気に食欲が失われる中、残すのも悪いので無理やりスプーンに口をつけると、隣にコバヤシ君が腰を下ろした。

特に言葉もなく、2人で受け取った器を眺める。


どちらの音か分からないが、ぐぐーっとお腹の虫が鳴った。


「…悪い。」

「え、ごめん、私かもしれない。」


昨夜からお粥ばかりだったから、当たり前なのかもしれないが、そろそろちゃんとしたものが食べたいな。

それが贅沢な欲求だとしても、食べなければ生きる活力も生まれない。



「…なんか申し訳ないよね。お肉まで付けてくれて。」

「あぁ。今夜は、皆んなで腹いっぱいご飯を食べよう。」

「うん。食べよう。その為には、早く村を取り返さなきゃ。私達に出来る事はそのくらいしか無いんだから。」

「その位か…そうだな。」


私達に出来る事をする。

この先どうなるか分からないけど、今できる事をするんだ。

意を決してスプーンを握った私の横で、彼が手を合わせた。

慌てて、私も手を合わせる。



「「いただきます。」」




□□□




ケンパーゼ族の戦士22名。

アヴァラス族の戦士5名。


そこに俺とカカナが加わって、総勢29名がゴブリン達が巣食う村へと向かった。



「それでは、手筈通り頼む!」

「道案内は任せな。行くよ!」


ランドルフとミィーアの掛け声で、戦士達は大きく2つに別れた。

ミィーアとライラ、他2人の猫族と素早さに自慢のある兎族10名が、風上から香を焚いて魔狼達を村からおびき寄せる。


オーガを担当する俺達は、ミィーア達と一緒に風上に来ていた。



「…確認。数は15、群れを率いる首領種無し。」


頭上からニクラウスが報告してくれる。

木の影から村を盗み見るが、俺達にはハッキリと見えない。

必死に目を凝らしていると、隣に控えていたビアンカが声をかけて来た。


「彼はケンパーゼ族いち…いや、鳥族にも負けない視力の良さです。彼から逃れられる獲物はいません。」


彼女の誇らしげな声を聞きながら、亜人にも色んな人種がいるんだなぁと感心してしまう。


(…飛べるのかな?)


機会があれば、鳥族にも会ってみたいと思う。

他にどんな種族がいるのか、まだ見ぬ亜人達に想いを馳せていると、背後から立ち上がる気配が。



「それじゃカナ、あとは頼んだよ!」

「えぇ、ミィーア達も気を付けて。」


カカナに別れを告げたミィーア達が香を持つと、ケンパーゼの歩兵と共に魔狼を迎え撃つポイントへ移動を始める。

村の反対側では、大鹿に騎乗したランドルフ達と茂みに身を隠すジーナ達が、突撃のタイミングを図っている頃だ。


いよいよ。

木の上からニクラウスは飛び降り一礼した後、ミィーア達を追いかけ、俺達を見て心配そうな顔をしていたビアンカも後に続いて走り去る。


最後の2人を見送った俺は、カカナに手を差し出す。



「さっさと片付けて…」

「早めのディナーにしましょう!」


手に彼女の温もりを感じ、嬉しいような恥ずかしいような感情が湧き上がった瞬間、目の前が目蓋を閉じたとは違う意味で真っ暗になった。



突如、スイッチを入れたかの様に目映い光が降り注ぎ、思わず手で光を防ごうと思うが身体は動かない。

目が慣れると、光は一定の場所で線を引かれたかの様に明暗を分け、一線を越えるとその先は闇。


強烈な光が自分に降り注ぎ、目の前の闇は…完全な黒ではなく、沢山の視線を感じた。



『行くわよ!』



カカナの声がして、急に我に帰る。

いつのまにか視界は元に戻り、遠くに猫属の民家が見える森の中。

指を動かしてみると、思い通りに動く。



「あぁ、行こう。」


…さっきのは何だったんだ?





□□□




腰を最大限屈め地面が急接近。

間髪入れずに頭上を重たい風音が通り過ぎる。


「こんのぉー!!」


そのまま全身をバネのように弾かせて、渾身の切り上げ。

大剣が天を突く時、苦悶に顔を歪める巨人が見える。


急上昇、急旋回、急停止、急落下。

この感じ、レールの見えないジェットコースターの様だ。


ハヤトの胸元にしがみ付いた私は、顔に叩きつけてくる風圧を全力で楽しむ。



『これで二体目!まだ動ける?』

「あぁ、俺は大丈夫。カカナは?」

『私も大丈夫。コバヤシ君が避けてくれるから。』

「カカナの指示が良いんだよ。それで次は…」

『まずい、三体目がまだ村に!アイツ、仲間がやられてもお構いなしね!』

「ランドルフ達の乱戦に入られると厄介だ…使うよ。」

『…そうね、分かったわ。そのままゴブリンも蹴散らしちゃって!』

「任せろって!…身体強化!!」


ハヤトの寿命が1日消費され、彼が思い描く超人的身体能力が付与される。

初日に比べればイメージはより具体的になり、能力を効率的に使えているんじゃないか。


ハヤトが大剣を肩に担ぎ上げ、足に力を入れる。

強化魔法を受けた両足が、人外の力で一気にハヤトを村へ突っ込ませる。



たった数日でここまで成長するものか。


神の理不尽に付き合わされ、寿命を人質に異界で大雑把な力を振るいながら生活。

そんな中、2人は自分達で考えながら道を探している。


ハヤトの剣さばきはまだまだ我流だが、反射神経は良く回避や防御に優れており、カナの指示も場をこなす毎に的確だ。

2人は、お互い足りない部分を補い合いながら戦っている。


とても喜ばしい事だが…しかし、彼らはまだ本当の目的を知らない。


その時が来るまで私は助言をすることしか出来ない。

甲冑の中にずり落ち掛けていた私は、身をよじりながら顔を出した。


眼前に迫ったオークは、こちらに気がついていないのか明後日の方向に鉄塊を振り下ろそうと…



『ハヤト!』


思わず声が出てしまった。

カナは周囲を警戒しており、オーク自体を見ていなかったのだろう、私が気が付かなければハヤトはオークに切り掛かっていた。


ハヤトは目の前のオークから意識を外し、振り下ろされようとしている鉄塊の下に体を滑り込ませる!


ギャンッ!!!


鉄塊を鉄板が受け止める音。

無理な防御姿勢を、強化魔法が無理やり成立させた。


それでも、オークの攻撃を真正面から受けたことに変わりはない。

不安定な姿勢のハヤトが、耐えきれず片膝をつく。



最後までご覧くださり、ありがとう御座います。


この回は、書き直すたびに新しい真実が出てきて…二転三転。

ようやく、モンスターと戦うぞ!って言う回にしようと思っていたのに、どうしてこうなったのかな…。

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