第29話 作戦会議
5日目の昼過ぎ。
残りハヤト171日。カナ176日。
一晩過ごした斜面のある岩場から森の中へ入り、南東に半日。
ペアポルトが西にある事を考えると、さらに王都側から離れて…下手するとレクトール村より東に来てしまったのかもしれない。
日が傾き始めてきた頃見えて来たのは、森の中にぽっかり開いた空間。湖の周りに作られた家々が、ミィーアたちが住んでいたアヴァラス族の村だ。
「…ゴブリンがかなりの数侵入しており、目測だけで30以上。さらにオークも2体ほど確認出来ました。」
村が見渡せる茂みに隠れ待っていると、ランドルフの部下の1人、ニクラウスが偵察の結果を持ち帰って来てくれた。
頭に巻いた布がバンダナみたいでカッコいいが、そこから上に伸びるうさ耳が可愛さを引き揚げ、何とも言えない気持ちにさせる。
報告を聞くメンバーは、それぞれの代表者であるランドルフとミィーア。補佐に猫族側はジーナ、兎族はビアンカと呼ばれている女性戦士。そこに俺とカカナの6人だ。
このメンバーで突入方法を決めて、後ろで控える仲間達に作戦を伝える手筈になっている。
ニクラウスはミィーア達を一瞥した後、少し言いにくそうに続けた。
「多分、家屋の中にもかなり隠れているのでは無いかと。」
「アイツらアタイらの家を勝手に…絶対に許さない!」
ミィーアが苛立ちながら短剣を抜き差しする。
補佐としてついて来た白耳のジーナが、まあまあと落ち着かせているが、自宅を荒らされて気持ちの良い人なんていないだろう。ジーナはメンタルが強いんだな。
「それで、隠れているにしてもゴブリンの物量は油断出来ません。ミィーアどうしますか?」
「数が分からない以上、無理に突入するより村から誘き出すしかないかな。」
「狭い室内での戦闘は、我々ケンパーゼの苦手分野でもありますから、それが良いかと。」
「それとランドルフ様、オークとマロウを確認しました。」
「オークにマロウか。一緒にいるって事は、たまたまじゃなさそうだな。…これは少し手がかかりそうですねミィーア殿。」
「アイツら流れゴブリンじゃ無いって事!?」
なんだかミィーア達の様子がおかしい。
リクルート村で出会ったオークは分かる。
しかし、先程から会話に出てくるマロウとは…どんな奴なんだろう?
カカナも首を傾げているところを見ると、アイツも知らないのか。それじゃ…分からないなら考える必要はない、ここは聞くしかない。
「あの、マロウって何ですか?」
「ハヤト様は、マロウをご存知ないんですか。」
意外そうな顔をしながら、ビアンカが口を開いた。
ボブカットの茶髪に、黄金色の耳。中でも1番目を引くのは、後ろに見える湖よりキラキラ光を反射する青い瞳だ。
今でこそ、ケンパーゼ族の武具を身につけているが、きっとバレーヌと同じタイプに違いない。私服姿は…
『…おい思春期。』
「うわぁ!?」
目の前に覗き込む栗毛の小さな顔。
俺があげた悲鳴のせいで、他の人の視線も集めてしまった…。現実に引き戻すにしても、もう少し方法があるだろ!
脳内の邪念を払いながら、何事もなかった顔をする。
「…お、俺たちの国にはいなかった。」
「そんな国もあるんですね。マロウとは、狼の魔物です。」
「…コバヤシ君、狼の音読みがロウなの。マ、ロウ。」
「なんだよ、カカナは分かってたのかよ!?」
ゴブリンと言われて、マロウなんて続けて言われたら、そりゃ何かカタカナモンスターだと思うじゃないか!
恥ずかしさで顔が火照ってくる。
「魔狼も知らないなんて、カナ達の国は一体どこにあるんだい?」
「極東。」
「東のさらに東って事かい!?そこは魔物が出ないのか?」
「河童とか天狗とかかな。」
「かっぱ?てんぐ?」
ミィーアの質問にさらっとカカナが返答。
なんだか俺だけ馬鹿みたいじゃないか。
ムカッとした俺は、ちょっとだけ嫌味っぽく口を開いた。
「…そんな簡単に言って、大丈夫なのか?」
「私達の出身については今関係ない話。それに確認しようとしても出来ないんだから良いの。」
今は関係ないと言われたら、確かに大事なのは村を取り戻す事だ。
それはそれ、これはこれってヤツだとしても、なんだか釈然としない…。悶々とする俺を置いて、話は先へ進む。
「しかし、ゴブリンの正確な数も不明な上、魔狼とオークとは…」
ランドルフが顎に手を当てて思案を始める。
戦い方なんて学校じゃ教えてくれないし、ゲームみたいに取り敢えず挑戦する訳にも行かない。
俺は作戦が決まるなのを待ち口を閉じたが、カカナは違った。
「ランドルフさん、何が問題なんですか?」
「カナ様、それぞれ別々に相手をするならいくつか戦い方もあるのですが…他種族の混合となると簡単にはいきません。」
「ゴブリンは数が多くて、魔狼は素早いんです。」
「オークは素早くありませんが、奴の怪力も侮れません。一対一は避けるべきかと。」
ジーナとニクラウスが捕捉説明してくれる。
それぞれ特徴があるのか…オークとは戦ったことがあるけど、他は何と無くの想像しかできない。
考えてもしょうがない、でもカカナに任せっきりで指示を待つだけなんてカッコ悪いから、ここは聞いてみるか。
「なぁカナ、俺たちでオークをやろうか?」
「ハヤト殿!?」
「そうね、私もそう思ってた。」
「いくらなんでも、勇者様にそんな危険な事を…。」
ん?
守られるのはむしろお姫様ポジションであって、勇者って進んで危険な敵を引き受けるんじゃないのか。
「私達は以前、オークと戦った経験があります。それに火筒もありますし。」
「しかし、流石にお2人だけでは…ウチのニクラウスとビアンカをお供させて下さい。お2人に何かあれば、彼らが命を懸けてお守り致します。」
ランドルフに名前を呼ばれた2人が、無言でこちらをまっすぐ見つめてくる。
覚悟がある人の目とはこんなにも眼力があるのかと、むしろこっちがビビってしまう。
「ありがとう御座います。しかし、総数が分かっていないゴブリンの方が潜在的驚異が高いと思います。そちらに戦力を回した方が良いんじゃないでしょうか?」
「確かにそうですが…いやしかし…」
「数の多いゴブリンも、素早い魔狼にもケンパーゼの戦士が1人でも多く必要な筈です。私達ならそう簡単にはやられないって事は、皆さんの方がご存知でしょう?」
そこまで言われてしまうと、流石のランドルフも黙るしかない。
「それじゃオークはカナ達に任せて、アタイらは残りの奴らをどうするか決めよう。」
話は村の配置を熟知しているミィーアとジーナ主導で、具体的に攻め入る場所を土の上に描いて行く。
勇者がどうのこうのって言うのは置いておいて、相手の好意を断るなんて…カカナは何を考えているんだ?
「なぁ、どうして申し出を断るんだ?」
「私達の秘密を教える訳にはいかないでしょ。護衛がつくと、2人はキミと私を守ろうとするわ。つまり?」
でた、つまり。
「…つまり、その…一つになれない?」
「言葉のチョイス!まぁ、そうなんだけど。…私達の変身については、あんまり話さない方が良いかなって。」
「手を繋ぐやつ?確かに今まで隠してきたけど、この人達になら良いんじゃない。」
秘密を隠す隠さないの前に、初めの頃は変身するのに精一杯だったし、誰が敵か味方か分からない状況ってのもあった。
でも今は違う。協力し合う仲だし、別に言っても…俺はそう思うけどカカナ表情は硬い。
「勿論、私も彼等が敵になるなんて思ってないけど…」
「それじゃさ、神様に聞いてみよう。」
分からないなら聞けばいいんだし。
俺の意図を察したのか、フラフラどこかを散歩?していた妖精が戻ってくる。
「あの、さ…」
『話は聞いてたよ。』
「それじゃ…」
『話は聞いてたよ。』
「…え?」
同じ言葉を繰り返し、ただニコニコしている妖精の姿をした神様。
『ハヤト君、意味が分からないなんて顔をしない。聞かなきゃ分からない事は聞けと言ったけど、この選択は君達が好きに選ぶべきだ。』
「いや、だって…話すにしても話さないにしても困るのは…」
『困るのは私じゃない。』
困るのは私じゃない。
頭の中でその言葉がグルグルするけど、つまりどう言う事だ?
「神様は、どっちでも構わないって事ですよね?」
『うん。カナの言う通り、万が一のリスクを考えるのも良し。ハヤトの様に信頼の証として言っても良い。私は決める立場にいないんだ。』
「なんだよどっちでも良いって事?」
『どっちでも良い。ただ…』
満面の笑顔だった少女が、一瞬で真顔になる。
『2人が納得する結論なら。』
「納得って、そんな難しい事…」
『難しいのは知ってるさ。お互い納得なんて簡単じゃないけど、歩み寄る努力はするべきだ。』
歩み寄るって…どうやってやるんだよ。
俺は別にどうしても秘密を言いたい訳じゃないし、カカナが言わないって言うなら俺はそれで構わない…お互い納得した事にはならないのか?
「お、俺はカカナがそう言うな…」
『その先は言わない方が良い。考えや思いを簡単に放棄しては相手に失礼だぞ。』
「そんな事言われても…」
「ねぇ、コバヤシ君。キミの言う通り私もランドルフさんやミィーアを、敵だとは思わないわ。敵対もしたくない。」
「それは俺も同じだよ。」
「秘密を打ち明けたい気持ちは私にもあるんだけど、この世界の事をもう少し知ってからでも良いかな?」
「この世界の事…」
異世界とは一言で片付けられない別の世界。
よく知るファンタジーかと思えば、少しイメージとズレている気がするこの違和感。
「俺もカカナが言う通り、今じゃなくても良いと思う。それに…」
「それに?」
「知らない人と連携とか、俺にはまだ出来ないし!」
大剣を振り回している方が、俺には合っていると思う。
護衛の人を傷付けちゃ、元も子もないし。
なんだか難しく考えていた自分が馬鹿らしくなった。
お互い歩み寄る努力をするか。うまく出来たんじゃないかと思うと沸き起こる充実感も嬉しい。
爽やかな笑顔で2人の方に顔を向けると、神様とカナは俺を見ながら硬直していた。
『…まぁ、いっか。』
神様はそう言いながら、何故か放心状態のカナの頭をナデナデ…いや、よしよし?した。
最後までご覧下さりありがとう御座います。
Win-Winの関係でいたいですね。




