第27話 子供交流
5日目の朝。
残りハヤト171日。カナ176日。
本当は、助けに来てくれてありがとうって言いたかった。
「はぁ…他に手があったんじゃ無い?私達の寿命は限られてるんだから、もっと慎重に魔法は使ってよね。」
でも口から出たのは、相手を責める言葉だった。
道具のように言われた事がショックで、つい嫌味を言わなければ気が済まなかったのだ。
分かって来ていたはずだ。
彼がそう言う人で、悪意があって私の事をそう言った訳じゃないと。
「だから、お前の為に使ったんだって。」
視線をそらし離れていく彼に、私はもう何も言えなかった。
離れていく背中を見送りながら、汗とホコリでベタベタする髪の毛を無意味に触る。
「はぁ…なーにやってんだか、私。」
『良いね、若いね。』
先程まで肩の上にいた神様が、白い羽をパタパタしながら舞い降りて来た。
顔は少女みたいに可愛いクセに、発言は年長者ぶっているギャップが変な感じ…なんて、どうでも良い事を考えてみるが、心のもやもやは消えない。
こんな時は。
…パンッ!!
森の中に乾いた音が一瞬生まれ、気持ちをリセットする。
叩き合わせた手のひらが少し痛いが、深呼吸を数回繰り返すうちに痛みは消えていく。
ちゃんとお礼を言おう。
決心して、朝露に濡れた地面を踏み出した時、金髪の少女がこちらに走り寄って来た。
「お姉ちゃん助けて!!」
「どうしたのフェリシア?」
その問いかけに彼女は答えず、私の後ろに隠れて服にしがみついた。
何かに追われているのかと走って来た方をチェックすると…茂みの中から長い耳がはみ出ており、よく見ると隣の木からは長い尻尾がSの字で生えている。
「…えー、フェリシアどうしたの?何もないじゃない。」
そう言いながら私はちょっと視線を上に向けたりして、気付いていないアピールをしながら近づき、両手を大きく広げ茂みに差し込む。
肌に感じる枝葉の感触の後、布越しに感じる小さな肋骨。
そのまま手を脇の下に入れ込み、指を高速で動かす。
「あはははは、む、りぃいふふ!!!」
茂みから生えた長いウサギ耳が暴れ、中から青い髪の女の子が出て来た。
女の子を解放すると、すぐさま鍛えたすり足で木の裏に回り込み、こちらもコチョコチョ。
「ぐふっ、や、やめ…あははは!!」
木の裏に隠れていたのは、茶黒の毛色をした猫耳を持つアヴァラス族の男の子。女の子と違い暴れ方が激しいが、高校生と小学生じゃ力比べで負けはしない。
腕の中でもがく少年の頭から生える、キジトラ模様の耳と顔には見覚えがある。確か、私が拐われた時荷台にいた子供の1人だ。
「や、やめろよ!!」
「おっと、ごめんね。」
ちょっとやり過ぎた。
私の手から逃れた男の子は、距離をとって息を整える。
「さて、君たちはえーと?」
「私はケンパーゼ族長の娘、フィーネよ!」
青い髪の女の子は、長い耳をピンと立てながら自己紹介をして来た。胸を張り自信満々に名乗る姿勢は、偉ぶっているつもりなのか分からないが、ただ可愛いだけ。
続いて、暴れ馬…いや暴れ猫の男の子が走り寄って来て、私を蹴る。
「アヴァラスのリヤだ!勇者の女だからって良い気になるなよ!」
「ゆ、勇者の女?」
蹴られた私の足はびくともしないが、かけられた言葉に一歩引いてしまう。
勇者とは、きっとはコバヤシ君のことだろう。その女となれば…彼女と言う意味か?
「ちょ、ちょっと君達…」
「おい隠れるなよ!お前も勇者の女なら出てこい!」
少年が私の後ろに回り込もうとするが、フェリシアは私を盾にしながらぐるぐる回る。
お前もと言う事は…フェリシア貴女、もしかして!?
「わ、私だって、お兄…ハヤト様の!!」
モゴモゴ何か言いながら、彼女は恥ずかしさのあまり顔を私の背中に擦り付ける。
え、何?フェリシアそうだったの?
「ご冗談を、亜人の勇者ですよ!側に仕えるべきは、ケンパーゼ族長の娘、私フィーネが相応しい。」
まだ発達途上の胸を張りながら、フィーネが一歩前に出る。
つまり、2人でコバヤシ君を取り合っているのか!?
『おやカナ。脈拍が高いようだが?』
「ちょっと何で今出て来るのよ!…いや違うって、動揺して、いや動揺してないから!!」
テンパる私を他所に、神様は空から高みの見物だ。
ヒートアップする女の子の間を、待て待てと今度はリヤが負けじと前に出てくる。
いや、君は男の子だろ!?
「良いかお前ら、必要なのは強さだ!男の俺が一番に決まってる!」
細い腕をブンブン振り上げながら力説するが、つまりどう言うことだ!?
私を中心に3人がぐるぐる回り始める。
「わ、私がハヤト様の!」
「そんな小さな耳では、勇者様の声を聞くのも大変でしょうに。」
「ちゃんと聞こえますから!小さくて聞こえないって言うなら、そちらの猫族の…」
「俺は男だし、山育ちだ。獲物は逃さない!」
「私だって山育ちです!!」
「山なんてどうでも良いのよ。大事なのは血筋です。その点、私は族長の…」
「血筋血筋って、だったら…アーデ!いつまで隠れてるんだ!」
リヤが木に向かって呼ぶと、同じくらいの女の子が顔を出して来た。
茶トラ模様の耳を持った猫族の子だ。彼女も確か荷台で見た記憶がある。
「ねぇリヤ、怒られちゃうよ…」
「そんなんじゃダメだろ!勇者の女になるんだろ!」
リヤはそう言ってアーデと呼んだ女の子を連れて来て、輪に入れた。
4人の子供が私の周りで、あーでもない、こーでもないと言いながらぐるぐる回る。
「ちょっと、どう言うことよ…ねぇ、フェリシア。」
「わ、私、お姉ちゃんに負けませんから!!」
もう意味がわからない。
理解できない事に対して、不満と苛々が積もって来るのがわかる。堪忍袋の蓋がぐらつき出した時…。
「何やってるんだ?」
先程のモヤモヤしていた感情はすでに吹っ飛んでおり、私は彼に助けを求めた。
「コバヤシ君!この子達、聞いても答えてくれなくて、訳わかんなくて…」
私だって好きでここに突っ立っている訳じゃない。
苛立つ私を横に、彼は子供達に声を掛けた。
「それじゃ、俺にタッチ出来たら勝ちな。」
そう言って背中を向けて走り出す。
一方的で急な宣言。それにいったいどう言う意味が…なんて考えていると、子供達は向きを変えると一目散に追いかけた。
「いったい何なの…。」
ようやく静かになった私は、一息つく為に腰を下ろした。
□□□
朝からこんなに走ったのは、中1の部活以来だ。
伸びて来る手をギリギリまで引き寄せて、瞬発力で避ける。走って緩めてまた走って、時には横飛びを交えながら。
途中から、人数の差を生かして挟み撃ちを始めて来るあたり、やっぱり妹達より大きい事はある。
最後は、4人の中で駆けっこが苦手そうな猫耳の少女の方へ誘導されるフリをして、全員に捕まる。
そのまま、やられたーとか言いながら、俺は地面に転がった。
「俺が、俺が一番に触ったぞ!」
「いいえ、私です!」
「はーはー、いやぁ皆んな速いな…タッチ出来たから、皆んな勝ちだよ。」
ちょっと予想外だったのは、フェリシアも手を伸ばして来た事だ。一番必死さを感じたが、同じ様に地面に寝そべる彼女の表情は、疲労と満足感が溢れ出ていた。
「もう一回、なぁもう一回やろう!」
「そうです勇者様、次こそは私1人で捕まえてみせます!」
「いや、ちょっと休憩しようよ…。」
「次は私がお兄ちゃんを1番に捕まえます!」
「…フェリシアまで。」
どこの世界でも、子供の体力は無限なのか?
唯一1人だけ、アヴァラスの少女だけ別方向を見ている。
その視線の先を見ると…
「フィーネ!!!」
フィーネと呼ばれた青髪の少女が姿勢を正す。
兎族ではなく、本当は猪なんじゃないかと思うほどの突進力で、ランドルフが走って来る。
フィーネの隣に立つと、そのままの勢いで彼女の頭を後ろから前に倒してお辞儀させる。
「ハヤト殿、姪が大変失礼致しました!!」
「い、痛いですわ伯父様!!」
ランドルフの太い腕の下で、白い長耳が暴れるがびくともしない。
姪と伯父様と言う事は、親族なのか。
「あはは、怒られてやんの!」
頭を下げさせられるフィーネを指差しながら、少年リヤが笑うが、俺はその後ろで腕を組んで立っているミィーアが怖くて顔を背ける。
程なくして彼の頭上には、雷の如き鉄拳が落ちるのであった。
最後までご覧くださりありがとう御座います。




