第26話 こころの中
5日目の朝。
残りハヤト171日。カナ176日。
ブッ…
鐘が鳴る前触れであるスイッチが入る音が、話を聞かずに後ろの奴と話し込んでいた奴や、机の下で携帯いじっていた奴の耳に届き、ざわついていた空間に緊張感が走る。
気付いていないのは、今も長々と行き帰りの事故がどうのこうの言っている眼鏡の男だけで、すでに全員の意識はスピーカーに向けらていた。
キーンコーンカーンコーン…
古いスピーカーから流れるチャイムの鐘。
まだ担任の話は終わらない。アイツには聞こえていないのかと疑ってしまう。
今日の日直は確か…矢吹だ。
視線を向けると、チラッとこちらを見た長身の男が不敵に笑った。
「…と言う訳で。あー、あと…」
今年定年のお爺ちゃん先生が、何かあったけと斜め上に視線を向けるが天井にメモが貼ってある訳でもない。その隙を見逃さず、サッカー部GKの矢吹が鍛えた瞬発力で立ち上がる!
「起立!礼!!」
「「お疲れ様でした!!」」
矢吹に続いてクラスメイト達も立ち上がり、礼。
担任が、あぁ課題を忘れないようにとか何とか言っているが、すでに誰も聞いていない。
HRが終わった教室内。
一緒に帰ろうとか、またねーとか挨拶しながら出ていく奴もいれば、ダルそうに部活に向かう奴もいる。
「マサ君、今日俺ん家でスマカーやるけど来ない?」
配られた宿題のプリントを鞄に押し込んでいる時、友人の安藤が声をかけて来た。
癖っ毛をワックスでアップにセットしており、毬栗頭の俺と違ってアイドルみたいな顔立ちだけど、中身はゲーマーな小学校の頃からの腐れ縁。
小3の時、俺がゲームの攻略法とかを教えてあげたのがきっかけで仲良くなった。
今流行りのスマカーも勿論好きだし、安藤の誘いなら…
「サキちゃんと、るりっぺも来るからさ、帰りにコンビニ寄ってお菓子買おうよ!」
やっぱり女子も来るんだ。
誰にでも優しくカッコ良いと評判の安藤は、ゲーム会を開けば女子も遊びに来る。
それを目当てで安藤に取り入ろうとする男も多いが、安藤は簡単に心を開いたりしない。俺は何というか特別枠のようで、いつも誘ってくれる。
それに今回は…る、るりっぺが来るんだろ?
小学校の頃と違い女子を意識する様になったせいか、中学に上がってからクラスメイトの女子と話す事すら恥ずかしい。
そんな中、ゲーム会に行けば間違いなく話す機会があるだろうし、仲良くなるチャンスだ、行きたいに決まっている。
「安藤、悪いけど今日は…」
しかし、口から出た言葉は真逆だった。
「あ、そうだった…兄ちゃん入院してるんだっけ?」
「うん、着替えを届けなくちゃいけなくて。」
「大変なんだなぁ。せっかく新しいルートを見つけたから教えようと思ってたのに。」
「マジか、俺も腕を磨いておくよ。また誘って。」
「おっけー。…おーいリョウちゃーん、今日ウチ来ない?」
安藤は、窓際の席で帰る準備をしている亮介の所へ行ってしまう。会話は聞こえないが、二つ返事でYESの様だ。
そのまま視線を教室の入り口側に向けると、…るりっぺが他の女子と喋っているのが見えた。
ショートヘアの黒髪と、笑うとちょっと見える八重歯。
1年の時から気になっていて…2年で同じクラスになれた。
せっかく話す機会が来たのに。
「はぁ…さっさと起きろよ、バカ兄貴。」
俺は乱暴に椅子を机に押し込んだ。
□□□
「ふぁー…くしょんっ!!」
「ちょ、ちょっと手を当てなさいよ!!!」
「うー、ごめん。」
レザール達と野宿した時とは違い、今回は毛布など無いまま眠ったのがいけなかったのか、目覚めた身体は冷え切っていた。
朝日が登る前に目が覚めた俺は、ミィーアやランドルフ達から離れた斜面で、カカナから昨夜聞かなかったレオパールの話を聞いている所だ。
「それで、オウタイシって何?」
「王様の子供!プリンス!」
「それが、猟師の反乱?」
「領主の反乱!!」
どことなく、社会や歴史の勉強な匂いがして、脳みそが拒否反応を起こす。
「…つまり?」
つまり。
最近覚えた便利な単語だ。
神様が俺達によく使うが、結局何が言いたいのか導き出すのに最適な言葉な気がする。
「つまり…王様になる予定の人が、自国の領主達から命を狙われたって事。」
「解決したの?」
「現在進行形!!」
「な…」
「なんでって、私は知らないわよ!」
カカナの目が怒りからか、逆三角形みたいになっている。
「だから、命令でフェリシアを迎えに行ったレザールさん達は、王都で反乱に巻き込まれたて…その後どうなったか分からないって。」
「じゃアイツは、フェリシアを守って逃げて来たのか…」
「うん。そしてレザールさん達を探しに、昨夜のうちにそのまま王都の方へ戻ったわ。皆さん無事だと良いけど…。」
だからレオパールのヤツ、ここに来るのも早かったのか。
きっと夜通し馬を駆けたのだろう。
それに挨拶も無しでまた戻るなんて…。
知らない人たちじゃ無い、俺も無事であって欲しいと思う。
「ねぇコバヤシ君、ちょっと良い。」
「なんだよ?」
「今日は5日目の朝。何回使った?」
「何回って…あぁアレね。初日に2回体を強化して、あとはどうしたっけ。次の日も強化を使って追手を追い払って…4、5回くらい?」
正直記憶はおぼろげだ。
笑って誤魔化そうとすると、アイツの真剣な目を向けられてニヤついてた顔を慌てて引き締める。
「ヘラヘラしない!大事な事なんだから!」
「待って思い出すから!…初日に2回、2日目に1回だろ。それと3日目のペアポルトへ行った日は使ってない。」
多分、その筈。
「…私が覚えているのと同じ。それじゃ、私が拐われてからは?」
「嗅覚強化と走る為に身体強化を使ったから、昨日で2回。」
合計5日使い、今日が5日目だから4日生きた。
つまりあと…
『おーいハヤト君。小さなマジックショーを忘れているよ。』
「マジックショー?」
「そうだった。レザールさん達に捜索の手伝いをお願いする為に、一回だけライターの火を付けたんだった!」
ライターと聞いて、呆れたのかカカナの目が細くなる。
「それって必要だったの?」
「当然。俺一人じゃお前を探せないし、協力して貰うには対価が必要だって言われてさ。」
「それでライター…?」
「ほら、魔法が使える奴は珍しいんだろ?レザールさん達が王都のお偉いさんに許可を貰うために、俺達を助けると良いことがありますよって。」
上手く説明できたか分からないが、だいたいこんな感じだったはず。身振りも交えてその時の状況を伝えるが、カカナは疑心暗鬼だ。
そんな俺達を見て、神様がカカナの肩に腰を下ろす。
『まぁまぁ。これでもコイツは頑張ったんだよ。カ、ナ、の為に』
「…私の為?」
眉間に寄っていた眉が、少し緩んだ気がした。
ふふーんと言う横顔を見ながら、俺は自信満々に言った。
「ほら、いないと困るじゃん。変身できないし、剣がないとこの先戦えないし!」
俺より賢くよく考えているし、この世界の事を理解するのも早い。戦いでは細かく指示を出してくれるし、俺の腕が悪くても攻撃力と防御力でサポート。もしカカナと一緒に来なかったら、俺は今頃どうなっているんだとも思う。
だから俺に出来る事は、寿命を削ってでも身体を動かす事だ。
「何、…私は道具なの?」
「道具っていうか、凄い武器だよ!」
カカナの眉間にシワが復活し、彼女の横で神様が無言で飛び立った。
褒めたつもりだったんだが、この反応は予想外だ。
デジャブの様にベクトール村から逃げる時の事を思い出す。
目で助けを探そうとするが、話を聞かれないように離れたここには、すぐ声をかけられそうな人もいないし、頼みの綱のフェリシアも見当たらない。
「おーいハヤト!」
「はい!今行きます!!」
遠くから聞こえるミィーアの声に、俺は飛び付くように返事をする。
苦笑いを浮かべながら腰を上げると、そのまま服を引っ張られ、怒られるのかと思って身体を硬直させるが、聞こえてきたのは深いため息だった。
「はぁ…他に手があったんじゃ無い?私達の寿命は限られてるんだから、もっと慎重に使ってよね。」
そんな事は分かっている。
でもカカナみたいに考えつかない俺は、あの時はそうするしか無かったんだ。
頑張ったのに小言を言われているみたいで、ちょっとだけ胸がチクリとした。
「だから、お前の為に使ったんだって。」
俺はそう言うと、カカナの手を振り解いて逃げる様にミィーアの元へ走った。
最後までご覧くださり、ありがとう御座います。




