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第24話 野盗のリーダー

4日目の夜。


残りハヤト172日。カナ178日。

薄暗い部屋。

縁側から入る太陽の明かりは、この大部屋の奥に設置されたテレビの所までは届かない。


昼間から電気をつけるなんて贅沢だ。

いつもそう言って、誰から注意を受けても部屋の電気をつけようとはしなかった。


敷きっぱなしの布団の上で、下着姿のままテレビの前であぐらをかいて、選ぶ番組はいつも一緒。何度も再放送されている地デジ未対応の色あせた古い時代劇。


私も遊びに行くと、いつも隣にちょこんと正座して、長方形の画面が正方形になった映像を一緒に見ていた。


身分を隠したお忍びものから、お殿様にお奉行様…人情と善悪、人とのコミュニケーションの基礎は、そこから学んだと言っても良いくらい、私の基礎を作った作品達。

学校で木刀を振るうのも、もしかしたらそれが原因かもしれない。



『聞け盗賊達よ!!』

「き、聞け盗賊達よ!!」


私が言った言葉をそのまま彼が真似をする。

上ずった声を聞きながら、日頃声を張ることはない彼が一生懸命大声を出しているのが感じられた。

腹式呼吸の仕方や、滑舌はまた今度指導しようかと心に留めておく。今はそれどころじゃない。


思い出すのは、祖父と観たある時代劇シリーズの中でも、大きな見せ場となった場面。



『すでにお前達は、我が隊によって百の火筒が狙っている。命惜しくば、武器を置き投降せよ!!』


攻め込んで来た敵の大名を迎え撃つ田舎殿様が、倍以上の敵軍に向かって仁王立ちするシーンだ。

当然攻め込まれれば、すぐ降伏すると思っていた敵の将兵達は、思い掛けない発言に驚きの声を上げるのだった。

尻込みする部下達を叩きながら、そんな兵力など持っているわけなかろう!さっさと討ち取れ!と。



『残念だ、もう少し賢い奴だと思ったぞ。…我が精鋭達よ、その存在を此奴らに示せ!!』


田舎殿様は、本当に百の軍勢を出現させて敵兵と戦わずして撃退したのだ。それと同じ状況を作り出す。

足りない軍勢を殿様は、殿を慕う農民や町の人たちが兵士に化けて貰って、鬨の声を上げて貰ったのだ。


記憶力と想像力を総動員する。

行ける!!



『…鬨の声!!』


私の寿命が1日減る。

それと同時に森の中がざわめき出し、瞬間兵士達の声が爆発する!


「「えい、えい、えい、おー!!」」

「「えい!えい!えい!おぉー!!」」


野盗達が武器を手放し腰を抜かす。鹿は声に興奮し暴れ始めた。

ちなみに事情を知らないミィーアさん達も、身を寄せ合って見えない大群に恐怖している。

…申し訳ないけど、種明かしはもう少し後だ。



『ははは!コイツは面白いね!私も混ざって来ようかな。えいえいえい!』

「な、何これ、応援団でも召喚したの?」

『応援団じゃなくて…まぁそんな感じ。でもこれは声だけだから、相手が全員降伏するまで気を付けて。』

「あ、あぁ。」


これは姿形のない幻の軍勢が、声を張り上げて鼓舞しているだけ。

見た感じ、相手はかなり戦意を喪失しているけど、まだ武器を構えている人もいる…最後までどうなるか分からない。



「…カカナ、奴が来る。」


コバヤシ君が言う通り、リーダーが暴れる鹿から降りて武器を構えた。


『もうちょいなのに…バレる前にアイツを倒して!』

「任せて!」


そう言って彼は私を地面から引き抜き、一振りして刃についた土を飛ばす。



「ははは、騙されるところだったぜ!ほら、火筒を撃ってみろよ!!!」


ここで嘘だとバレたら次の手は無い。

相手が人だと言うこともあって、蹴ったり武器を壊したりしたが…次からはミィーア達を逃す為に殺さねばならない。




…ヒュン!!



あと数歩で槍が届く!その瞬間、野盗リーダーの足元に一本の矢が飛んできた。

リーダーはすぐさま跳び下がり、勢いを殺して距離を取る。


「誰だ!?」


その問いに私達も答えられない。

野盗に弓を使う奴はいなかったし、猫属の人で弓を持っていた人は、夕方の戦いで怪我をして参加していない。

この戦場に弓兵はいないはずだ…。


第三者の存在を感じ、声だけが響く森の奥を見ると、森から何かが駆けて来る。


気の影から月明かりの下に飛び出して来たのは、一頭の馬と2人の人間。

1人は弓を片手に手綱を握る、見覚えのある男。



「大丈夫か、ハヤト!?」


「レオパール!?どうしてここに!?」

「あんだけデカイ声を出せば、王都にいたって聞こえるさ!」


私達の前に現れたのは、チェーンメイルに胸鎧姿のレオパール。そして、その背中にしがみつくのは。



「お兄ちゃん!」


「フェリシア!?」

『ちょっと、王都に行ったんじゃなかったの!?』

「そのはずだけど…フェリシア、王都に行ったんじゃ?」


実は…と言いながら、フェリシアが馬から降りて来ようとする。



「…けるな、ふざけるなよ人間!!!」


距離を取っていたリーダーが雄叫びと共に駆け出した。

レオパールが反射で矢を放つが、左肩の鎧に突き刺さったまま勢いを落とさない。


避けようと馬を進めたレオパールの後ろで、降りようとしていたフェリシアが落ちる。


「きゃっ…!」

「…しまった!」


「うぉーお!!!」


振り上げられた槍は、フェリシアを捕らえ振り下ろされる!



…ガキンッ!!!



「なにぃ!?」



距離感を見間違う程有り得ないサイズの大剣が、鉄の壁として現れる。降り下ろした槍が、弾き返えされずその場でへし折れ、矛先が夜空に舞う。 


リーダーの前に立ち塞がるのは、先程森の中を飛び回っていた男ではなく、分厚い甲冑に身を包んだ不動の大剣持ち。


「お、お前はいったい何者だ…!?」


聞こえないのは十分わかっているが、言わない訳にはいかない!


『フェリシアに手出しはさせない!!』




今度こそ膝が崩れ落ちるリーダー。

いまだ、今しかない!


『コバヤシ君!』

「あぁ。…もう一度言う!武器を捨てて投降しろ!!」



その一言で、今度こそ野盗達は武器を捨てた。

森の中に、未だ響き渡る鬨の声に混ざって猫族の、女性達の雄叫びが小さく追加された…。





□□□





「それで、レオパールどうしたんだ。王都に行ったんじゃ?」

「王都には行ったよ。なぁ、聖女様。」

「えぇ、行きました…。」


行くのに1日。

早馬を使って戻って来るのに半日じゃなかったのか?

予定通りなら明日の昼に合流だと思ってたんだが。

それに、歯切れの悪い返事をするフェリシアも気になる。


詳しい話を聞こうと2人に近づいた俺に、後ろからミィーアが声をかけて来た。


「ハヤト、良いか?…あ、すまない話中だったか。」

「ミィーアさん、ちょっと待ってて下さい…」

「いやハヤト、俺らは後でいいから先に行ってやれよ。」

「でも。」

「お兄ちゃん、私は大丈夫ですから。」



そう?と言い残し、俺は先にミィーアさん達猫属の人達が集まる、斜面側へと移動した。


そこには、先程降伏した野盗のリーダーとカカナ、ハンマーを持って他の野盗に睨みを効かせるライラの姿が。

近寄ったカカナの困り眉をみて、何か問題でも起きたのかと心配になる。



「何かあったの?」

「ごめんね話中に。」

「いや、それで。」


戦う手伝いをしたが、ミィーアさん達との事はあまり知らない。そんな俺より、カカナの方が適任だと思って、野盗のその後について任せていたのだが…。

手を縛られ地面に座る野盗達は、俺が近づくとビクビクしながら視線を下に落とした。



「俺、めちゃくちゃ怖がられている気がするけど。」

「一応、私達はマラジアル連邦とは関係ないって言ってるんだけど、レオパールさんもいるから怯えちゃって。」

「兵士が怖いって事?」

「まぁそんな所…。それとこの人達、野盗じゃなかったの。」

「でも武器と食料を!って言ってたじゃん。」

「そうなんだけど、元々はミィーアさん達と同じで、王都の兵に徴兵されて…」

「カナ殿、俺…私から説明させて貰っても良いですか。」

「えぇ、ランドルフさんどうぞ。」


ではと言って、手を縛られたまま野盗リーダーは立ち上がった。

改めて見ると、背丈は2メートル近く肩幅もガッチリとしたラグビー部体型。兜の間から見えた両眼が、俺を見据えているが射殺すような視線ではない。

とはいえ、さっきまで殺すつもりで襲いかかって来た人物を前にして、ちょっとだけ足が竦む感じがする。



「先程は…失礼致しました。私はケンパーゼ族で自警団長をしているランドルフと申します。」

「…スズキ ハヤトです。」

「人族のハヤト殿、先程の暴挙改めて謝罪を。アヴァラス族の方々にもご迷惑をかけてしまい…」

「アンタもさしつこいんだよ。アタシらも、もう良いって言ってんだろ?」

「し、しかし、そちらの事情も知らず…」

「アタシじゃなくて、コイツらと話せって言ってるだろ!」


どうしても頭を下げたい巨漢と、頭を下げさせない小柄な猫娘のやり取りが始まり、蚊帳の外になった俺はすすっとカカナの横へ行き、どう言う事?と聞いてみる。



「さっきからずっとこんな感じで話が中々進まなくて。ランドルフさんは、境遇が同じだったミィーア達を襲った事に、負い目を感じてるみたいなの。」

「境遇って事は、徴兵の事?」


確かミィーア達は、一族の男性達が徴兵されてしまったと。

質問にカカナは、そうなんだけどと同意しつつ言葉を続ける。



「ランドルフさん達は、徴兵を断ったんだって。もともとマラジアル連邦に加盟していた訳じゃなくて、自分達の村だけで生活していたのに…」

「…突然やって来たマラジアルの人間が、我らが先祖代々治めて来た土地を、王国の領地だと宣言し税を請求して来たのです。」


急に話にランドルフが戻って来た。大柄な割に、身のこなしは早い。


それにしても、話を聞く限り一方的だな…。

横に並ぶミィーアさんに視線を向けると、どこも似たり寄ったりなのさ、と首をすくめる。



「それで断ってどうなったんですか?」

「…村を焼かれました。」


さらっと言われたもんで思わず、あぁそうなんですかと聞き流すところだった。


…村を焼いた?


一方的にやって来て、税を請求して従わないからって火をつけたのか!?



「そんな理不尽な!」

「理不尽ですか。なるほど、そう見る人族もいるんですね。…失礼しました話を戻します。狩から戻って来た我々は、火をつける兵士に対して矛を向けましたが、結果はこの通りです。」


そう言ってランドルフは、頭を隠していた兜を縛られた両手で器用に外した。コロンと兜が地面に置かれる。

そこから現れたのは、眼光鋭く張りが深いシャープな顔に、あまり似つかわない細く長いウサギ耳だった。

しかし一番目を引いたのは…。



「そんな…ランドルフさん」

「兵士の中に魔法使いがいました。私はその時、近場への狩だったので兜をしておらず…。」


右耳だけ、半分より下の位置から上がスパッと切れ耳がない。

勿論もう出血などしていないが、暗く変色しボコボコした傷口が生々しい痛みを伝えてくる。



「…食料だけでなく、家族が被害にあった者もおります。我々は大切な仲間を失い、長年住んだ土地を焼かれ、それらに別れを告げて北上して来ました。生き残る為、そして…」


村と片耳を失った男は、俺の目を見ながら言った。





「人間へ復讐する為です。」





そう言って彼は、腕に巻かれた縄を引きちぎった。



最後までご覧くださり、ありがとう御座います。



時代劇はセットや道具にお金が掛かり、所作も含めた技術も必要。製作するには大変な労力が必要だそうです。

さらに時代劇=シニア向けと言う感じもあって、中々新作が生まれないとか。


最近の映画では、若手の役者さんがスピーディーな立ち回りもしており大変カッコいいですが、やはり将軍様の流れる様な動きを求めてしまいます…。

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