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第22話 知らないこと

4日目の夜。


残りハヤト172日。カナ178日。

「…どうぞ。」


差し出された器をお礼を言って受け取る。

食事を差し出してくれた猫の人は、まるで逃げる様に目の前から消えてしまう。


器の中身は、トロミのある汁に山菜と木の実?が入っている。

水っぽい香草の香り、だがお腹のムシは元気よく反応してしまう。

そう言えば朝から何も食べていない。

しかし、器だけ渡されてもどう食べれば?



「…薬なんて入ってないよ。」


隣で同じ様に器を受け取り、箸もスプーンもなく直で啜り始める女主人。

別に毒を警戒していたわけじゃ無いが、なるほど匙は使わないのか。


器に口をつけ一口食べてみる。

粘度のあるスープとほのかな苦味を感じ、軽く咀嚼して飲み込む。喉を温かい物が通り過ぎ胃に染み渡る。



「塩は、あの宿から頂いたんだ。」

「頂いたって…もしかして食べ物に困っているの?」

「アンタは本当に何も知らないのか…いったいどこから来たんだ。」


あの猫目が、上から下までじっくり値踏みしてくる。

しかし先程と違い、殺意は向けられていない。



「まぁ良いや。…さっきは助かった。一族を代表して礼を言うよ。」

「いえ、私こそさっきは偉そうなこと言ってしまって…ごめんなさい。」

「謝罪だって!?…やっぱり変な人間だなぁ。」

「ここの人達とはちょっとズレているかもね。私の名前は、タナカ・カナ。カナって呼んで。」

「アンタから名乗るの!?まったく…アタシはアヴァラス族の娘ミィーア。今は族長代行をしている。」



宜しくミィーアと手を差し出すが、彼女は不思議そうに私の手を見つめている。

握手の文化は無いのかな?


私の視線に気が付いたのか、彼女は恐る恐る私の手に触れる。



「その、カナは何故私たちを助けたんだ。差し出す物などもう無いし。それに、火筒なんてどこで?」

「はい、いっぺんに質問しない。まずは順序立てて教えて下さい。何故あなた達がこんなところにいるのか。」


本当に知らないのかと、今日何度目かの同じ台詞を口にしながら、ミィーアはこれまでの経緯を話してくれた。


彼女達アヴァラス族は猫亜人の一つ、ペアポルトの街より南西に集落を持っており、そこで長年生活していた。

1年ほど前に伝承にある災厄の兆し、魔物の大量発生と活性化により、魔物が防衛線を抜けて人里に出る様になった。

王国は討伐の為に村の男衆を徴兵したそうだ。



「…災厄って、魔王の事?」

「魔物の王って事?アタシらは、じっちゃん達の口伝えでしか知らないから、ソイツがどんなものかまでは分からない。長命種の奴らなら知ってるかもな。」


長命種とはどんな種族だろうか?

魔王の事も含め、その辺の事は後にしようと思う。


彼女達は戦へ出かける家族の為に、ありったけの武器や防具を持たせて男衆を見送ったらしい。

しかしその後しばらくすると、またマラジアルの騎士達が来て食料の一部と鉄製品を徴用すると言って来た。



「ありゃ略奪だよ。戦時特法とかぬかして、片っ端から持って行きやがった。…じっちゃん達が懇願したんだが、国家反逆罪だとかぬかして縄をかけたんだ。」

「…そう。」


出会った兵士がレザールさん達で本当に良かったのかもしれない。もし違う兵士達だったら、また別の選択をしていたかもしれない。


「もともと自分達で食べるので精一杯の量しか、あの痩せ細った土地じゃ作れなかったんだ。男手を失い、農具すら無く、次に畑に撒く種すらない。」


それでも残された女達は、生き残る為に馴れない狩をしたり、山菜を取ったりと知恵を絞って村を支えた。


男達が居なくなって1ヶ月ほど経った頃、畑に魔物が侵入して来たのだ。



「年に1、2回しか現れない魔物が、先週から日に何度も現れる様になった。アイツらが南まで来る事なんて滅多にないのに。」

「それは、北に魔物が多い事と関係あるの?」

「あぁ。奴らは大陸の北、未開の地から来ると言われている。もし魔物を跳ね除ける力があれば、北の大地は作物も鉱物資源も豊富に手に入れるられる。だから人間の王は北に領地を広げ、城壁と王国を作るんだ。」


そう言えば、目指していたマラジアル連邦王国も北の方だった。肥沃な大地か…どこかで地図を見る機会があればもう少しイメージ出来るんだけど。


それにしても、人間の王ね。

徴用の件も含め、亜人の彼らは下級層と言うところか。



「それじゃ、武器を盗んだのは村を取り返す為?」

「…まぁな。」


しかし先程、野盗に対してあの程度だったのだ。

どんな魔物があるのか知らないが、彼女達だけじゃ心許ない気がする。


考え込む私を不審に思ったのか、ミィーアが急に立ち上がって言い放つ。



「盗られたもんを取り返しただけさ。返す気はないぞ!」

「別に私は、返してくれなんて言わないわよ。ただ…」

「…分かってるよ、アタシ達じゃ力が足りない事は。でも他の場所で生きて行く術がないんだ。」


ペアポルトの街に亜人は少なくとも1人もいなかった。多分彼女達は差別され、街に逃げる事も助けを求める事も出来ないんだ。



「…だから、兄の騎士は偉いのかって聞いたのね。」


助けて欲しかったんだ。

もし私が偉いと答えたら、人質にして交渉材料に。


「だけど、お前の火筒があれば魔物も倒せるんだろ?」

「銃の事ね…確かに倒せるかもしれない。でもね使える回数に制限があるの。大物は引き受けても良いけど、小物はやっぱりミィーアさん達が戦わないといけない。」

「そうなのか…。」


耳がシュンと力なく垂れる。


…さ、触ってみたい。

いやいや、そんな事を考えている暇はない!

話してくれたんだ、何とか力になりたいがどうすべきか。



「もう少し考えてみましょう、皆さんにとって良い解決法が必ず…」



「敵襲!!!」



その声に、私とミィーアさんは器を放り出して走る。

また、襲撃がある可能性があったが、まさかこんなにも早く戻って来るなんて。


ミィーアと別れた私は、斜面の中腹に陣取る。

背中からマスケット銃を取り出し、腰のポーチから紙製薬莢を取り出す。

紙には色が付いており、緑が散弾、赤が大粒一つ。

選んだのは赤だ。


火薬を取り出す為に紙を噛み切ろうとした時、異変に気がついた。


夕方と違い、誰も斜面を上がってこない。

代わりに下では人だかりが出来ており、誰かを囲みながら言い争っている様だ。


「…んですって!いえ、来たのは初めてで。」


この声は聞いた事がある。

もしかして…



「たがら俺は…あ、カカナ!!」



「コバヤシ…君?」



下からこちらに手を振るのは確かに彼だが、耳と尻尾がついていた。



□□□




日が完全に沈み闇が深くなった森の斜面で、俺達は焚き火を囲んでいた。



「つまり匂いを追って来たって事?耳は?」

『イメージのしすぎで生えちゃたんだよ。』

「うるさいよ!」


やっとな事で見つけたカカナは、思ったより元気そうだった。いや誘拐された割に、猫の人達と仲良くやっている様にさえ思える。


ぬっと、カカナが顔を近づけて来る。

な、何だよ。



「ねぇ…匂いって何の匂い?」

「そ、それは…」


まだ魔法の効果が残っているのかコイツの匂いが凄くて、一緒にいるだけで鼻が溶けてしまいそうだ。

それに、女の子の匂いを追って来たってなんて、変態みたいだ。本当のことなんて言えない。


「う、馬。」

「馬の匂いを追って来たの!?」

『…馬ねぇ。そんなに馬が好きだったとは』

「この、うるさいぞ!」


ニヤニヤしている神様を胸元に押し込む。

良いの!あの馬はレザールさん達の馬車なんだし、問題ないだろ!



「君は妖精を連れているのか…」


横から現れたのは、ここの人達をまとめている女主人…じゃなくて族長代行のミィーアだ。


「連れていると言うか、コイツがついて来ているだけです。」

「妖精がついて来るわけないだろ…。はぁ、カナと言い、ハヤトだったか?君も変な人間なんだな。」

「お前、何やったんだよ。」

「別に。私は馬の匂いなんて追わないし。」


なんだよ、機嫌が悪いのか?



「…それでカナを連れて行くのか。」


少しだけカカナから彼女達の事情は聞いた。男達が戦争は徴兵されて、村に出現する魔物の退治ができなくて困っていると。

助けてあげたい気持ちもそりゃある。あるけど。


「目的を忘れるなって言ったのはカカナじゃなかったか?フェリシアが王都で待ってるんだぞ。」

「それは分かってるけど、ミィーアさん達をほっとけないじゃない。」

「それに、明日の昼にはレザールさん達がお前を探しに戻って来てくれる約束なんだ。」

「…分かってるわよ。」


口ではそう言っているが、顔は納得していない様子。


「もし助けるにしても、レザールさん達と合流してからにしよう。何も言わずにここを離れたら、心配かけるだろうし。」

「それはそうだけど。でも早くしないと…」


俺は手でカカナの言葉を制する。

何か聞こえる気がした。頭の上の耳がピンと立って、後のする方角を探す。森の奥から蹄の音が近づいて来る。


さらに風に乗って、沢山の体臭を鼻が感じる。酸っぱく、革のっぺりした匂い…それとヨダレの様な口臭か?


「…沢山来る。」


俺がそう言った瞬間、ミィーアとカカナは立ち上がった。



「ライラ!ジーナ!!」

「あいよ!…子供達を起こせ、上に逃げるんだ!」

「ミィーア、動けるのは私たちを入れて7人。」

「分かった。すまないカナ、また力を貸してくれないか?」

「任せてください。今度は私達も戦いますから。」

「あぁ、頼りにしてるよ!」


そう言い残し、ミィーア達は斜面を背に防御陣形を取る。


「夕方にも襲って来た野盗だと思う。鹿に騎乗してて長い槍を使うの。ごめんね…巻き込んじゃって。」

「何言ってんだよ、勇者なんだろ俺たちは?…やろうカカナ。」

「ありがとう。ミィーアさん達を守ろうコバヤシ君。」


森から鹿に騎乗した騎兵が、ひとりふたり…見えるだけで20人近い。しかも今回は騎兵の他に、槍だけ持った歩兵もいた。



俺とカカナは手を繋ぐ。

強いイメージで、2人が目指すモノになる為に…。



最後までご覧くださりありがとう御座います。



知ると興味がわくそうです。

この分野、あんま興味ないんだよねって思ったら、是非少しでも良いので知ってみて下さい。

気が付いたらハマってたって事もあります。

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