第20話 ひとりぼっちの戦い
4日目の昼前。
残りハヤト174日。カナ178日。
まず初めに向かったのは、宿のご主人。
ダメ元でもう一度聞いてみるが、レザールさんが教えてくれた以上の情報はなかった。
そこでご主人から、街の治安組織について聞いた。
警察は無かったが、ペアポルトの守備兵が街の治安も兼任しているそうだ。
「お兄さん気持ちは分かるけど、あまり期待しない方が良い。特に最近は…」
「いえ、自分にできる事はしておきたいんです。ありがとう御座います。」
深く一礼して宿屋を後にする。
向かった先は、街の中心部にある他の建物より立派な守備隊本部。
「何か御用でしょうか?」
そう言って出迎えてくれた玄関口の兵士は、自分とほぼ変わらない年齢か、下手すると年下の少年だった。
体付きもたくましい訳ではなく、鎧に着られている感じ。
腰に下げている剣も似合っておらずコスプレみたい。
昨夜の出来事を説明し、捜索に協力してもらえないかと尋ねてみた。
「はぁ、用件は分かりましたがご協力出来ないと思います。」
「王都の兵士、レザールさんから何か聞いていないかな?」
王都の兵士?と露骨そうに疑う顔をしながら、少々お待ち下さいと奥へ帰る少年兵士。
しばらくすると、別の兵士が出てきた。
こちらは大人だが…少し赤ら顔で酒臭い気がする。
「…お前が話にあった小僧か。ったく、面倒な事押し付けやがって。」
「お忙しいところすみません。友人が…」
「あのな、物盗りなんて珍しくも無い。そのお友達もどうせグルだったんだよ。裏切られたんだ、命あって良かったな。」
話はそれで終わりだと、言わんばかりに兵士は背を向ける。
「ちょっと待って下さい!物盗りがそんなに頻繁に?取り締まったり防犯パトロールとか…」
「うるせぇ!俺たちは壁を守ってるんだよ。てめぇらがどうなろうが知ったことか!」
そう言い捨てて、奥へ引っ込む大人の兵士。
いやいや、市民を守る為に壁を守るんじゃ無いのかよ。壁だけ残ってもしょうがないだろう。
心苦しいが使える手は使おうと考え、切り札を使う。
「王都の騎士、レザール様からここを頼れと…」
「そんな下級騎士の話なんかいちいち聞いてられるか。そもそも、装備を盗られておいて、どのツラ下げてウチに来てるんだ!こっちはお前らと違って忙しいんだ!!」
残念だが切り札は不発に終わったようだ。
確かに王都の軍人が、装備を盗られましたとは情けない話だが、同じ国の兵士なんだから助けてくれても。
そもそも、ここの治安はアンタ達の責任じゃ…なんてこちらの思いなど気にせず、男は盛大にゲップをかまして奥へと引っ込んだ。
入れ替わるように少年兵士が戻って来て、また門番として立つ。
「…あの、物盗りは良くあるんですか?」
「…。」
「あの人は、いつもあんな感じ?」
「…。」
「この仕事、楽しいですか?」
「……。」
少年の目がちょっとだけ動く。
しかし、全身から拒否のオーラが発せられ、仕方なく俺は建物から離れた。
路地裏に入ると、胸元から神様が小さな顔を出す。
『それで、どうする?』
「他の所にも聞いてみようと思うんだけど、どこに行くべきかな…。」
体感で時刻は昼前。
聞くにしても、街中には人通りが少なく閑散としている。
来た時からカカナも言っていたが、市民の数が極端に少なく感じる。
その疑問は後回しにして、今は物盗りに集中しよう。
さて、取られたのはお金と武器装備。
お金は分かる。お金があれば何でもできるし。
それじゃあ、武器や防具は何に使うのか?
自分で装備して戦いに出るのか…いや金か。
「武器屋で装備って買い取ってもらえるのかな?」
『確かに、犯人が売りにいった可能性があるね。武器屋か質屋ってところか。』
「そこへ行ってみよう。」
頼れる人もいないので、また宿屋に戻りご主人から武器屋と質屋の場所を教えてもらう。
宿屋から近い質屋から行ってみるが、装備が持ち込まれた様子もなかった。となれば、武器屋か?
木造、看板は力強い斧と盾のデザイン。いかにもって感じだったが、入ってみると品物もすっきりコンパクトに飾られていた。
奥から出て来たのは、武器屋と言えば鍛治職人のオヤジみたいな人が店主ではなく、パソコンが得意な大学生みたいなお兄さんだった。
「何かお探しですか?」
「あの、…今日、武器や防具を売りに来た方っていますか?剣や弓が」
「ウチには来てませんよ。入荷も止まってるんで、ここにあるもので全部です。」
「…そうですか。」
「なんかあったんすか?」
「いえ、まぁ、…ちょっと色々あって。すみません、大丈夫です。」
「……。」
両方とも空振りか。
仕方がない、次の案を検討しようと店を出ようとした時。
「…お兄さんに関係あるか分からないけど、最近北西の森で盗賊が出るって話なら聞いたよ。2、3日前も商人が襲われたとか言ったから。」
「あ、ありがとう御座います!」
盗賊。
つまり物盗りか。
しかし、あのやる気の無い守備隊でも、流石に盗賊を街には入れないんじゃないかな?
城壁に門番もいる事だし。
関連性は薄いけど、礼を述べて武器屋をあとにする。
『両方とも空振りだったか。さて次は?』
自分なりに考えられる手は打ったつもりだ。
本当は今すぐ神様にお願いして、知恵なり魔法のアイテムなり授かりたいところだ。
…いや。
これまでの経験で、この神様は自分から答えを与える事はしないだろう。自分で考えるしかないんだ。
『…助けて欲しいか?』
胸元で、小さな女の子がニヤニヤしながらこっちを見上げている。
喉まで助けて欲しいと言葉が出て来るが、グッと我慢。
『ほぉ、頼らないのか…偉いな。まぁ頼っても今の私には居場所なんてわからないし、解決策もない。カナの安否はお前にかかってる。ただ、時間も限られているから気をつけるんだぞ。』
そう時間がないんだ。
カカナが姿を消してすでに半日以上。あと1日待てばレザール達が戻って来てくれるだろうが、合流してから捜索し始めては、さらに日数がかかる。
これでは寿命を無駄に…。
「寿命か。魔法で探せないかな…」
『ふふ、魔法は便利だが確固たるイメージが必要だ。探すならどんなイメージを使う?』
例えばスマートフォンみたいな物を作り出して、マップ機能で…いや、何となく上手く行かなさそうな気がする。
もっと単純なヤツ。空から探すか?それとも地上…。
「地上…犬?」
『…別にまるまる犬になる必要はないぞ、必要なものだけに集中するんだ。』
必要な物、つまり嗅覚の強化か!
匂いで追跡を試みる為に、鼻に意識を集中する。
イメージを膨らませて…行けそうだ。
寿命を1日消費する。
ポンっ…!
狙い通り空気中の匂いがキツくなる。
自分では分からないが、ギリギリ目で見える鼻の頭が黒くなっている様に見えた。
『わはは、必要な物だけって言ったのに耳まで生えてるぞ!まぁ良いか、じゃあ早速宿屋に戻って犯人や馬の匂いを覚えて…』
神様の言葉を最後まで聞かずに、俺は走り出す。
何の迷いもなく目抜き通りに飛び出し、2、3回息を吸うだけで鼻の頭がムズムズする。
『お、おいハヤト、何の匂いを追ってるんだ?』
何の匂いだって?
そんなの決まっている。
昨夜も嗅いだ、あの清々しい甘い香り。
魔法発動に伴いあの匂いも強くイメージした為、鼻はカカナの匂いにしか反応しない。
…これなら追える!
そう確信して、合わせて身体強化も発動。寿命がまた減るが、構わない。
強化した身体より気持ちが先走り、前のめりの姿勢で俺は街を出る。
□□□
鳥の鳴き声、葉が風に擦れる音。
会話の内容は分からないが、人の話し声と生活音。
時折、子供がはしゃぐ様な声。
馬車の上で縛られてから武器と一緒にどこかへ運ばれ、今は地面に座っている。あれ以降ずっと目隠をさせられており、自分が今どこにいるのかも分からない。
唯一の情報は、耳からもたらされる音だけだった。
空気が少し冷んやりして来たので、日が傾き始めた夕方だろうか?
ジャリと足音と共に、布越しに影を感じる。
ようやく誰か来た様だ。
「…それで、コイツはどうするのさ?」
「私がやる。」
話し声から2人。しかも女性だ。
乱暴に顔にかけられた布が剥ぎ取られる。
夕日が目に眩しく、目を細めてしまう。
「…。」
「…。」
目が合うがどちらも言葉を発しない。
目の前の女性は、馬車の上で私にナイフを突き付けた人だ。
付け加えれば、昨夜の宿屋で料理を運んできた女主人。
昨夜は頭巾で隠れたいだが、頭の上には茶色い髪の毛と同じ色をした耳がピンっと立っている。
後はよく見えないが、もしかしたらこの人にも尻尾があるのかもしれない。
「…お前は、昨夜の連中の仲間だろ。武器を取り返しにきたのか。」
無言で頷く。
勿論嘘だ。
道中考えを巡らした結果、多分私は、夜コバヤシ君と変身中に寝落ちたのだ。
だから、彼女達は私を剣と間違えて攫った…と説明するのもアレなので、それらしい勘違いのままにさせておく。
「お前は兵士に見えないが、何者だ?」
下手に嘘をつくとバレた時が大変だ。
だからと言って本当のことも言えないし、情報を全てさらけ出す気もない。
「ただの村娘です。」
「だが、お前は兵士と一緒にいた。なぜあの場に?」
「騎士様達と一緒に王都へ向かう途中で、昨夜宿泊したんです。」
「なぜ王都に?」
「そこまで私は知りません。ただ騎士様達が村へ来て、一緒に来て欲しいとだけ。」
あながち間違いじゃない。
本当はフェリシアの事だが、それは伏せて置く。
どこにあの追手の様な奴らがいるかもしれないので。
「村娘が騎士達に守られてか?…何を隠している。」
ここで自分に価値があると思われると、利用される可能性があるし、逆に価値がなければ切り捨てられるだろう。
慎重に言葉を選び、私はこう言った。
最後までご覧下さりありがとう御座います。
真実に、1割の嘘だそうです。
全部嘘では信じてもらえない。
つかないに越したことはないですが、つかなきゃ行けない時は気を付けたいと思います。




