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第19話 失ったもの

4日目の朝。


残りハヤト175日。カナ178日。

…カチカチ。


金属が擦れ合う音と、断続的な振動。

肌に感じるヒンヤリとした硬くて冷たい感触。

目を開けてみると、布越しに太陽の明かりを感じる。


布をどけようと手を動かすが、大きな布なのか中々上手くいかない。

やっとの事で布を巻き取り、上体を起こしてみると…目の前に背中を向けて座っている子供が2人。


見た目はフェリシアより幼いので、小学生くらいだと思う。


ただそれより気になるのは、頭の上には動物の耳が生え、お尻の辺りから尻尾が馬車の揺れに合わせてフラフラ動いている事だ。


(ここはいったい…彼らは何者?)


まだ気付かれていない内に…と身体を動かした時、子供達の尻尾が止まり、頭の上の耳がピンっと張る。

子供達がコチラを振り返る。


頭上で耳がピコピコしている以外は、顔も人間と変わらない。

なんとなく顔立ちで、男の子と女の子かなと推測してみる。



「あはは…どうも。」


取り敢えず挨拶をしてみた。

子供達の目がこれでもかってくらい大きくなる!



「…人間だ。」

「ミィーア、人間が乗ってる!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!私は…」


2人を落ち着かせようと腰を浮かせた時、首筋に冷たいものが当たる。



「動くんじゃないよ。…いつの間に潜り込んだんだい。」


潜り込むも何も、私も事情は知りませんよ!


こうして私は、手足を縛られてまた布をかけられた…。





□□□





「隊長!!」

「レオパール、隊長だって分かって言っているんだ!」

「だけどよ!!」


彼がバレーヌさんの言葉に反発する姿は、もしかしたら初めて見るんじゃないかと思う。



今より少し前。

4日目の朝を迎えた俺たちは、最悪の目覚めだった。


床で寝ていた俺を起こしてくれたのはバレーヌさん。

訳もわからないまま、フェリシアと一緒に部屋の中で待つ事数分。

先に起きていたレザールさん達が戻って来て、状況説明してくれた。


装備一式と金銭、馬と馬車が消え、宿の主人が調理場に拘束されていた。


「…女主人?いえ我が宿は現在、他の従業員はおりません。」


つまり昨夜料理を提供した女が犯人だ。

周辺も捜索したが、やはり逃げた後の様で見つからない。


そしてもう一つ見つからないものが。

カカナの姿がどこにもない。



「え、なんでアイツが…?」

「私達にも分からないんだ。盗んだ物から物取りだという事は分かるんだが、なぜ彼女だけ消えたのか…。」

「もしかしたら、犯行に気が付いて抵抗したんじゃないか!?」

「…レオパールそれだったら、セロスもここにはいないだろ。」


手当てをしてもらっているセロスさんだけが、昨日賊と遭遇したらしい。その彼が、自身でつけた傷以外無いことから、物盗りだけが目的だったと推測されている。

物盗り…もしかしたらカカナは剣のまま持ち去られたのか。



「ま、心配するなよハヤト。サクッと賊を見つけて、カナちゃんを助け出そう!」

「あ、ありがとうレオパール。」


首に腕を回して来るこの男の楽観的な言葉に、少しだけ気持ちが柔らぐ。

そうだよな、アイツの方がきっと不安がっているはずだ。早く見つけてあげないと。

よし、それじゃあ…と立ち上がった俺の前に、姿勢を正したレザールさんが深く頭を下げた。



「ハヤト君…すまない。」

「ど、どうしたんですか?」

「私達は…このまま行かなくてはならない。」

「それは…」

「それはどういう事ですか隊長!?」


俺が問い返す前に、レオパールが隊長に詰め寄り手を伸ばす。

しかし手が届く前にセロスがその手を止める。



「何しやがる!?」

「いくらお前でも、上官に手を出したらどうなるか分かっているだろ。」

「…レザールさん、どう言う事でしょうか?」

「私達の任務は、フェリシア様を王都へお連れする事です。この国の未来に関わり、期日が迫っている我々には猶予がない。」

「だからって隊長、カナを見捨てる気ですか!?」

「レオパールやめるんだ!…ルー!」


セロスさんの腕で暴れるレオパールを、ルーさんも加わって押し止める。



「隊長!!」

「レオパール、隊長だって分かって言っているんだ!」

「だけどよ!!」


レザールさん達は、フェリシアの為だけにここにいる人達だ。そもそも俺たちが無理を言ってついて来たんだから、構ってられないのも分かる。


そして期日が迫っているとなれば、何としてでもフェリシアを送り届けたいのだろう。…橋での戦いもそうだったが、この人達は任務の為に命を張る人達だ。装備が無くなったくらいで立ち止まりはしない。


理解はできる。


できるけど…彼らの協力無しで俺は1人で探せるのか?

せめて誰か1人でも残して貰えないだろうか。


お願いしようと顔を上げると、バレーヌさんが前に出て来た。



「…ハヤト、私からも謝らせてくれ。命の恩人である君達に、こんな事を言わなければならない私を恨んでくれ。」

「それは…」


セロスさんやルーさんの顔も曇っている。

これはつまり、誰も残せないと言う事だ。


絶望的だ。


見知らぬ土地で誘拐された人間を探さないといけない。

ツテも技術もないただの高校生が。

元の世界でやれって言われても不可能だ、できる訳がない。


言葉を失う俺の前に、今まで黙っていたフェリシアが皆んなの前に立つ。



「わ、私が誘拐された事にしましょう!」

「フェリシア様…」

「私を探す為でしたら、皆さんご協力頂けるんでしょ!?」

「さすが聖女様だ!隊長、誘拐されたのは聖女様。そう報告すれば良いんですよ!」

「そ、それは…」

「すげぇよ、フェリシア様は!」


レオパールは、フェリシアの提案に希望に溢れた明る表情をこちらに向けてくる。俺もその提案は嬉しい。


視線の先では、レザールさんが非常に苦しい顔をしいた。


それはそうだ。

彼らは国の役人、軍人さんなのだ。

命令に逆らって、ニセの報告までさせて…でも俺が今もし頭を下げたら、この人達なら手伝ってくれると思ってしまう。



こんな時、カカナがいたらなんと言っただろうか?



フェリシアの案にのるべきだと言うか。

それとも、別の提案をするだろうか。


兵士である彼らに嘘をつかせてまで頼って、もし彼らが咎められたらカカナはなんて言うだろうか。


…顔は思い出せるが、頭の中のカカナは何も話さない。



(頼ってばっかりじゃダメだ。考えろ考えるんだ…。)



捜索するのを助けて欲しいが、彼らはフェリシアを王都まで送り届ける任務がある。つまり…



「…王都まではどのくらいなんですか?」

「ハヤト君?」

「急いでどのくらいでしょうか?」


レオパールを押さえていたセロスさんが口を開いた。



「我々全員を運ばねばならないから、馬車を飛ばして1日で付くかどうかだ。」

「馬なら半日の距離だ。」


ルーさんが捕捉してくれる。


つまり1日半、カカナは耐えられるか?

…いや、俺が見つけるつもりでやろう!!


でもその前に、今出来る事をしよう。

姿勢を正して、相手の顔を正面から見据える。


「レザールさん、お願いがあります。」

「…聞こう。」

「フェリシアを送り届けた後、カナの捜索の手伝いをお願い出来ないでしょうか。」

「ハヤト、お前…。」

「ここまでお世話になっておいて、さらにお願いしてしまって申し訳ないのは分かってます!でも、俺にはこの世界で他に頼れる方がいません。1人で探す術もありません。勿論俺も最大限探しますが、皆さんに助けて貰えたら…。お願いします!!」


これ以上言葉は思い浮かばない。

深く下げた頭は、ただ返答を待つだけだった。



「…何が出せる?」

「え?」


レザールさんの口から出た言葉が予想外で、思考が止まりかける。てっきり承諾されるか、断られるかな二択だと思っていたからだ。


「我々騎士は王国の所有物だ。国に益の無い事に兵は動かせない。」

「隊長、何言ってんだよ!そんなの…」

「レザール!私は彼に助けられた!」

「十分承知しております!だが、それでは上は納得しないでしょう!」


バレーヌさんまで俺の提案を支持してくれた。

しかし、レザールさんは珍しく厳しい声をあげてそれを却下する。


ダメなのか。


一瞬、1人で探すしか無いかと諦める気持ちが浮かんでしまう。

もう二度とアイツに会えないんじゃ無いかとさえ思えてくる。あの手を2度と…。


ふと、昨日の会話を思い出す。



『どこの世界でも対価や代償は必要なんだ。それを代替えしている事は今話したよね?』


レザール達を動かせる対価。

国を動かせる対価ならあるじゃ無いか!



「俺たちはフェリシアを、この世界を救うために来た勇者です。あの力を、レザールさん達の為にも使いましょう!」


「ゆ、勇者!?ハヤト、お前何を言ってるんだ?」

「勇者とは面白い。確かにあの力は凄かったが、残念ながら力任せの戦い方では、大した戦力にはならない。」


それは昨日神様にも言われたし、何よりレザールさんと戦った時から分かっていた事だ。

どんなに力があっても、武器が強くても、使う人間が戦い方を知らなければ、棍棒を振り回すオークと変わらない。



「勿論です。でも俺たちは今後もっと強くなります。未来ある若者です!」

「つまり、確実な対価は無いと言う事か。」


そう、強くなる保証なんてない。

そもそも寿命は半年しかないんだ…短い時間にどれだけ修練を積めるか分からない。求められるレベルになるかどうか。

だけど諦める訳にはいかない、俺は目的の為に少しでも可能性があるなら食いついてやる!



「さらに、俺は魔法が使えます!」


流石にこの一言は、他のメンバーも含めてざわつかせた。

この世界では、魔法使いは貴重な存在だ。それが使えるだけでも、相当な価値があるはず。


「では…見せてもらおうか。」


絶対そう言われると思った。

でもレザールさんも知ってるはずだ、俺が身体強化を使って暴れているのを。

つまりこれは…レザールさん達ではなく、国のお偉いさんを見据えたデモンストレーションだ。


人間は、自分が見たものしか信じない。…なんて、何かの漫画で読んだな。



俺は右手を突き出す。

昨日の言葉を思い出せ、魔法はイメージだ!


部屋の中で使っても被害の無いもの。

それでいて、目で見て分かり易い魔法。


握り拳を作り、親指を上に向ける…意識を集中して立てた親指の腹を見えないリングに当て、下に向かって擦るように素早く動かす。



「つけよライター!!!」





…ポッ。


寿命が1日消えた代わりに、握り拳の上に蝋燭の灯のような火が灯った。

吹き消せば消えてしまいそうな、本当に小さな火だ。


昔、親父に教えてもらったライターをイメージしてみたのだが、デモンストレーションにしてはインパクトが弱かったか?

恐る恐る皆んなの反応を待っていると、



「お前、本当に…隊長!」

「あぁ、これは驚いた…すまなかったハヤト君。ここまでさせるつもりはなかったんだ。」

「それじゃ…?」

「むしろ我々から君達へ助力を求めたいくらいだったのだが…少々意地悪だった。」

「いや、かなり意地悪でしたよ隊長。」

「ホント、すまない…。」


セロスさんにまで言われて、流石にレザールさんも平謝りだ。


「…でしたら、すぐ行きましょう。」


横で見ていたフェリシアがベッドから立ち上がる。


「意外だ。フェリシアなら、私も残って探しますとか言い出しそうなのに。」

「私、そんな分からず屋じゃありません。…私が早く王都に着けばつくほど、皆さんがお姉ちゃんを探しに戻ってこられるのでしょう?」

「勿論です。ルー、悪いが馬車を手に入れてくれ。」

「了解。」


ルーさんが走って部屋を出ていく。

残ったメンバーも立ち上がり慌しくなる。


「そうと決まれば、さっさと行こう!」

「やる気のあるお前は、気持ち悪いな。」

「バレーヌ、俺はいつもやる気に満ち溢れてるだろ?」

「どうだか。」


良かった、皆んなの調子もいつも通りになって来た。

緊張していたせいか、急に力が抜ける。



「ハヤト君、ここの衛兵にも話を聞いてみると良い。…この状況だ、期待は出来ないが、力になってもらえる様伝えておく。」

「はい!レザールさん、ありがとうございます。」


「犯人の1人は猫族の亜人女性です。気を付けて。」


「じゃあなハヤト、また後で!」


「大丈夫、カナは強い娘だ。お前ならやれる。」


「…先に王都で待ってますからね。」



フェリシアと護衛の人たちが、一言ずつ俺にかけてくれて部屋を出て行った。


「…皆さんもお気を付けて。」



静かになった部屋に1人。

言い知れぬ不安がやってくるが、大きく息を吸って気持ちを切り替える!



『にしても、良くあそこまで言ったな!』


振り返ると、神様がふわふわ飛んでいた。


「あれ、フェリシアに着いていってたんじゃ!?」

『王都に行くだけだから、しばらく安全だろう。』


それよりお前、と言われる。


『…あの隊長さん達は良くても、他のお偉いさん達は邪な奴らかもしれないぞ。力を貸すって安売りして良かったのか?』

「でも俺、レザールさん達の為にってしか言ってないよ。」

『…?…あ、お前!?』

「あの人達なら、変なお願いはしてこないだろ?」

『…なるほど、カナがいなくても意外にやるんだな。魔法はショボいくせに。』


確かに寿命1日も使って出したにしては、とても小さな火だった。



「でも、払う価値のある代償だったよ。」


『…あぁ、そうだね。』




神様を胸元に隠し、俺は部屋から外に出た。


最後までご覧下さりありがとう御座います。



相手に聞く前から結果を予想し、聞かないことがあります。

でも答えは相手の中にしかないのだから、聞いてみなくちゃ分からない。


次からは、聞いてみようと思います。

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