第18話 能力の可能性
3日目の夜。
残りハヤト176日。カナ179日。
「…大丈夫?」
「あぁ…。」
旅の疲れというヤツだろうか、着替え終わって戻って来たコバヤシ君は少しやつれた様に見えた。
今部屋の中で起きているのは、私とコバヤシ君。
フェリシアはベッドの上ではしゃいでいる内に寝てしまった。
バレーヌさんは明日の打ち合わせがあるとかで、現在は隣の部屋。つまり他の人の目はない。
『それじゃ、さっき言っていた話を始めようか。』
フェリシアの髪から妖精が顔を出し、ベッドに腰掛ける私達の前に飛んで来る。
荷台の上で話していた、私達の能力についてだ。
『先におさらいしておこう。2人が知っている事は何かな?』
「手を繋ぐと、俺が勇者でカカナが剣になる。」
「技を使うと寿命を消費する。」
しかし、ただ手を繋ぐだけでは1回目のように何も起こらない。意思を持って手を繋ぐ事によって私達は変身するようだ。
待ち伏せの時、つまり3回目の変身を経てそれを確信した。
『なるほど。ちなみに先に言っておくけど、その条件は私が用意した物じゃない。でち天が与えた能力だからね。』
「うげ、そうなんだ。」
隣で彼が唸る。
これは神様からじゃなくて天使からの能力だったのか。
『私だったらそんな面倒なプロセスを敷かずに、最強の無敵勇者として送り込むかな。海を駆け抜け、山を吹き飛ばし、歩けば地が割れる。空に雷、我にひれ伏せ!!…的な。』
小さな拳を高く掲げ力説する神様。
サイズが人形だから可愛いけど、言っている事は物騒。
「そっちの方が良かったなぁ。」
「いやいやオーバーシューティング、やり過ぎ。勇者じゃなくて歩く災害よ。」
実際いたら傍迷惑だろう。
でも、魔王は素早く倒せるかもしれない。
『冗談はさて置き、君たちの能力はとても雑なんだ。』
「ざ、雑?」
『雑と言うか…大まか?』
つまり…大雑把と言う事か。
だんだん私達は不安になってくる。
右も左も分からない土地で、よく分からない大雑把な能力で目的を達成しないといけない。これは安請け合い過ぎたんじゃないかと、今更私も後悔する。
『カナ、そんな顔をしない。むしろ幸運だと考えよう。』
「…大雑把なのが幸運なんですか?」
『よく言えば自由度が高いと言う事。人間の好きな、可能性は無限大!ってやつさ。』
そんな笑顔を向けられても、私の不安は一向に解消されませんが…。
「それで、大雑把な所の何が良いんですか?」
『ルールさえ押さていれば、解釈次第で何でも出来るって事。先にこの世界の魔法について話そう。』
そう、この世界には魔法がある。フェリシアの治癒魔法、追手が放った何もない所から火の玉。どちらも理解を超えた神秘の技だ。
「魔法が私達の能力と関係あるって事ですか?」
『うん。世界にはそれぞれ世界のルールという物があって、ここでは魔法が使える事はもう知ってるよね?』
「も、もしかして俺たちにも使えるんですか!?」
彼のテンションが上がる。
これだから男子はいつまで経っても…いや、私だって使えたら楽しいと思う。
小さい頃はテレビ番組で魔法少女を楽しんだし、ステッキや変身コンパクトをサンタさんにお願いしたものだ。
『ハヤト、残念ながら君達は魔力を扱えないんだ。』
「あー…がっかり。」
「もしかして…この世界では、魔法使いが貴重な事と関わりがありますが?」
フェリシアから聞いた治癒魔法は、王族や貴族しか使えないと言う話と、レオパールさんが言っていた魔力がない人間には魔法道具は使えない事と、何か関わりがあるのかもしれない。
『それはこの世界のルールじゃないんだ。…歴史と言った方がいい。ここの人間が作った慣習だよ。』
「それじゃ、みんな魔法が使える?」
『2人は魔法が失われた世界から来ているから、そもそも身体が魔力を集められないんだ。』
今の言い方だと、私達は魔力を貯められないけど…この世界の人は本来出来るって事?
この世界の歴史は、やっぱり調べる必要があるかもしれない。
『魔力とは簡単に言えばエネルギーだ。モノを動かす力と言っても良い。術者がイメージしたモノをエンジンと仮定して、エネルギーを注ぎ込んで動かす。これで魔法が発動する。簡単だろ?』
「いやいや…。」
『実は君たちは、もう同じ事をしているんだ。』
「…もしかして、あの変身が?」
『ご明察!』
神様が目の前で大きなループを描いて飛ぶ。
しかし、知らず間に魔法で変身していたとは…幼少期の自分に話したらさぞ喜んだ事だろう。
「だけど…剣。」
『カナ、そこなんだ!』
「け、剣ですか?」
『先程も言った通り、魔法はイメージの具現化。つまり…』
「つまりイメージ次第では、違う剣にもなれる?」
『そう!…はい、ここ大事だよハヤト、つまり君は?』
「つまり…」
そうか、自分がイメージした物になれると言う事はコバヤシ君も!
「違う勇者になる?」
『んんん!?…ちょっとなんか違うけど、そう!…いや違うか?』
神様が空中でウネウネ体をよじる。それを見ながらコバヤシ君もウンウン唸り出す。
仕方なく私は口を開く。
「多分、君の防具を変更できるって事じゃないかな。今の鎧って、凄く動きにくそうだから、例えば…軽装になったり、今よりもっと硬くなったり。」
「なるほど!つまり凄い!」
つ、伝わったか不安な返答だが、まぁ良いか。
『魔法はイメージだからね。防具は他の人の装備を見てイメージを膨らませる事で、より具現化、再現が出来る!剣も同じ事が言えるかもしれない。』
「私達でも、天使がくれた条件内であれば変身魔法が使えるって事ですね。」
『そう、カナ大好きだぞ!』
大好きって…正面きってそんな風に褒められると恥ずかしい。
「…もしかして、身体強化も魔法ですか?」
『来た!ようやくハヤトもわかって来たね!?そうだよ、俺は出来る強いぞってイメージを身体に付与しているんだ!』
「でもあれって寿命を使いますよね?…あ、もしかして魔力の代わりに?」
『はい!そうです!世界に充満するエネルギーを使えない君達は、生命エネルギーを代替えにしているんだ。つまり!?』
つ、つまり!?
何だろう。
これまでの話を整理すると、…魔法はイメージ。でも私達には魔力が使えない。魔力は寿命で代替え。
「つまり、寿命を使えば魔法が使える?」
『良く出来ました!そうなんだ。しかもルールが大雑把だから制限が無い。属性は勿論、魔力を扱う修練も必要ないから、その気になれば、いきなり世界を滅亡させる魔法も使えるかもしれない。』
笑顔で、その代わり代償として寿命は吹っ飛ぶけどねと言われた。
大雑把な設定のお陰で、イメージ次第でどんな勇者にもなれるとは…急に先ほど聞いた災害級の勇者になった気分だ。
「ちょっと待って…俺たちに魔力は無くて、寿命で代替えしてるんだろ?それじゃ変身する度…」
「私達はもう二回変身しているから、2日分!?」
『そこなんだよ。まったくでち天にも困ったモンだよ。』
そことはどう言う事か。困ったって何に?
額を押さえる神様に、言い知れぬ不安を感じる私達。
もしかしたら、1日どころじゃ無い寿命を使っていたのだろうか。
『どこの世界でも対価や代償は必要なんだ。それを代替えしている事は今話したよね?』
「はい。」
『本来なら変身もそれに含まれるんだが、これにだけ別のルールが設定されている。』
神様はそう言うと、神妙な面持ちでこう言った。
『手を繋ぐと変身する。』
「…はい。」
『うん、だから手を繋ぐと変身する。』
「…?」
『つまり、手を繋ぐのが代償なんだよ!!』
「「えー!?」」
何だそれ!!
魔力の代わりに寿命は納得できるが、なぜ変身だけ手を繋ぐので済むのだ!?
費用対効果がでたらめじゃ無いか。
『だから言っただろ、大まかな設定だって。』
「いや、大まかと言うか…。だったら、魔法も寿命使わずに使えるようにしてくれれば良かったのに。」
『ハヤト、それじゃ面白く無いだろ。』
「基準、そこですか!?」
私も同意見だが、それはそれ、これはこれで考えを整理する。
まず第一に、イメージ次第で寿命を使った魔法の行使が可能。
第二に、イメージさえ有れば魔法の種類に制限は無い。ただし、寿命に注意。
第三に、手を繋げれば変身に関してはコストがかからない。
最後に、イメージ次第で他の武具や武器になれる。
『という感じで、理解できたかな?』
「強くなるにはイメージを鍛えろって事ですね!」
『そう。知れば知るほど変身のバリエーションも増えるだろうし。さらに変身中は身体能力も上がっているから、剣術や戦術を学ぶのも効果的だよ。』
「確かに毎回身体強化でゴリ押しじゃ、コバヤシ君の寿命がもたないもんね…。」
「すでにカカナより3日多く使ってるし、やってみるよ。」
『それじゃ話がまとまったところで、いっちょ試してみよう!さぁさぁ、イメージを膨らませて手を繋ぎたまえ!』
神様に急かされながら剣の形を考える。
いつもはただの馬鹿でかい剣なので、試しに小ぶりな剣をイメージしてみる。
…。
ダメ!疲れているのか、睡魔が襲ってくる。
集中、集中!
もう一度、長さと形と……色はピンクが良いなぁ…。
「カカナ…準備は良い?」
「ふぁ…あ、ごめん。良いよ!」
『それじゃぁ…むにゃ…繋いでみよぉ…。』
目をこする神様の号令で、私達は手を繋ぐ。
光の粒子が集まって、2人をそれぞれの形に…形に…かた…ち…。
□□□
まず初めに倒れたのは、ルーだった。
レザール隊長が明日の護衛陣形の話をしている最中、あの巨体がひっくり返りかえったのです。
すぐレオパールが助け起こそうと近寄り、そのまま足をもつれさせてルーの上に倒れ込み、イビキをかきはじめました。
「やられた…薬か!」
レザールは、喉に指を突っ込んで胃の中身を吐き出そうとするが、それは危険だ。
「隊長危険です!嘔吐しながら意識を失えば、喉に詰まる可能性が…」
「おぇっ…あぁそうか。しかし、これは…バレーヌ?」
「だ、大丈夫です…それより…フェリシアさまを」
バレーヌは自分の髪の毛を引っ張りながら何とか意識を保っている。
私は机の上のペンを掴むと、躊躇せず右太腿に突き刺す。
一瞬激痛が走って意識が鮮明になるが、すぐに睡魔が被せてくる。
「ぐぬ…ぅ。私が、見てまいります。」
そう伝えたレザールは、すでに椅子の上で口を開けたまま寝ており、反対側ではバレーヌが頭を抱え込みベッドに伏せるように眠っていた。
ズキズキと痛む右足を引きずりながら、ドアを開けて廊下へ。
フェリシア様達は、すぐ隣の部屋だ。
多分食事に盛られたのだろう。致死毒では無さそうだが、無防備になる事に変わりない。
「ぐぬ…っ!」
廊下を誰かが走ってくる気配がした。
咄嗟に足に刺していたペンを引き抜き、顔目掛けて突き攻撃をする。
「…なんと、亜人であったか。」
ペンは誰もいない空間を突き刺しており、狙った獲物は深く腰を落として下に回避していた。
半分閉じかかった目が見たのは、先ほど食堂で見た女主人。ハンカチで隠していた頭には、髪と同じ色をした茶色い二つの猫耳が。
下半身の屈伸力を使った腹部への正拳突きで、私は…意識を失った。
最後までご覧下さりありがとう御座います。
自分で勝手に思い込んだせいで、可能性の幅を狭めた事があります。
安易に決め付けず、あらゆる可能性を模索していきたいです。




