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第17話 ペアポルトの夜

3日目の夕方。


残りハヤト176日。カナ179日。

「断固抗議すべきです!!」


本日何度も聞いた台詞がまた飛び出す。

部屋の中に籠る空気は最悪で、机に置かれた紅茶に何度口をつけたかも思い出せない。


時間は分からないが、腹の具合からすでに昼時を過ぎているだろう。

それなのに勢いは衰えず、代表会議の為に集まった総勢18名の領主や族長達は、延々と平行線の話を続けている。



「だからそれはヴァステイトと断交すると言う事かと聞いている!」

「抗議するかと言って、断交するとは言っていないではないか。伯は先程から考えが極端すぎる。」


何だと!?と、テーブル越しに腰を浮かせる伯爵。

初めのうちは頑張っていたが、もう諌めるのも疲れた。


「いやそもそも何故我が国が、あの国の慣習に左右されなければいけないのだ!?もう隷属国ではないのだぞ!」

「そうだそうだ!」

「近年の魔物の活発化による領地内の被害、伝承にある災厄の兆しもある。今、あの国を敵に回す力などないのです!」

「だからこそあの様な慣習など無視して、今こそ一つの国として一致団結する時なのです!」

「それこそ、ヴァステイトの怒りを買うぞ!!」


勿論、私もヴァステイト神聖王国を敵に回したい訳じゃない。


しかし、魔物による農作物への被害。

同盟軍への参加により人員と食料の強制徴収。

労働力は低下し、田畑は荒れたままで魔物も退治できない。


そして父上…先王の急死。

何故こうまでもタイミングが重なってしまったのか。


「はぁ…早く帰って来て下さい。」


どうせ誰も見ていない。私は静かに頭を抱えた。




□□□




リクトール村を出てから2日目、ここへ来て3日目の夕方に王都の一つ前の街『ペアポルト』に到着した。

話に聞いていた通り、遠くからでも分かる立派な城壁が印象的な城壁都市。


正門を潜る時の興奮は、テーマパークに遊びに来た様なテンションだった。…いや、本物だから例えがヘンか。


そのまま露天の並ぶ目抜き通りを進む。

様々な店が並び、露天もチラホラ出ているが…どことなく人はまばらだ。閉まっている店もある。

カカナも同じ風に思ったのか、荷台から顔を出しながら呟く。


「街の規模と人の割合が釣り合わないですね…。」

「カナさんすみません。今夜は出歩かず宿でゆっくりしましょう。今の時期は…あまり観光に適さないかもしれません。」


申し訳なさそうなバレーヌさん。

道中で街の観光話をしていた分、負い目を感じたのだろう。


「いえ、気にしないで下さい。城壁も見れたし私は満足です。フェリシア、宿でお喋りでも良い?」

「勿論、お姉ちゃんの事も沢山知りたいですし!」

「良いわよ!」


すると、フェリシアの髪の間から妖精が顔を出してアピールしてくる。


「もしかして妖精さんもお話しに参加したいのかしら?」

「それじゃ、今夜は女子会しましょう!…バレーヌさんも是非!」

「ジョシカイですか?分かりませんが、良いでしょう。」


この独特の疎外感に、どことなくクラスメイトの女子達を思い出して懐かしくなった。

特に親しいという事もなかったが、こうなってみると少しくらい話しかけておけば良かったかなと思う。



そんな感じで一同は街宿へ。


レザールさん達と馬車の荷物を客室へ運ぶのを手伝い、軽く消耗品の買い物を済ませて、待望の食事となった。



思い返せば朝食は早かったし、道中に摂った昼食は乾燥パン、干し肉、干し果物…って乾き物ばかりでお腹はペコペコだった!


宿泊客は割引になるとかで、一階の食堂に皆んなでやって来た。

多数の大きな丸テーブル、それにバーカウンターもある。この雰囲気、アレに似ている!


「カカナこのお店、西部劇に出て来そうだよね!」

「そう?知り合いのビストロみたい。」

「ビストロ…すま?」

「それじゃない。フランスにある軽食が食べられるお店の事。」


ふーんと相槌だけ打っておく。

フランス料理なんてハイカラな店に、食べに行った事が無いからいまいち分からない。

イタリア料理のファミレスなら、家族で何度か行った事があるから分かるんだけどな。


「ご主人、すまないが食事をお願い出来ないか?」


レザールさんがバーカウンターの奥に向かって叫んだ。

食事時だが、不思議と食堂内には誰もいなかった。宿泊客のみターゲットで、一般には開放されてないのか?


「お兄ちゃんは何を注文しますか?」


フェリシアが席に着きながら嬉しそう聞いて来たので、俺はすぐカカナと視線を合わせる。


注文も何も、俺たちは料理名も知らないし…何より文字が読めない。

村では文字に触れる機会がなかったので不便に思わなかったが、ペアポルトの街に入り看板や表示を見てようやくその事に気が付いたのだ。


どう頼むか思案していると、カウンターの奥から1人の女性が出て来た。



「はいはい、ただいま!」

「食事を人数分お願いしたいのだが、メニューはあるか?」

「あー、ごめんなさいね、宿泊のお客様には専用の食事がついておりますので…他のメニューですと別料金になっちゃうけど?」

「そうなのか。では専用のメニューでお願いするよ。」

「はーい、8人前ね!」


女主人は、嬉しそうに奥へと消えていった。


食事付きの宿泊プランなのか。


何故か急に、家族で旅行した時の事を思い出す…。

あの時はまだ家族4人だった。

テーブルに並んだ料理の多さに驚いただけ。天ぷらにお刺身、…小さな鍋の下で燃える、青い丸いヤツは見てて楽しかった。


過去の思い出に浸っていると、フェリシアが覗き込んでくる。



「ねぇお兄ちゃん、どんな料理が好きですか?」

「そうだなぁ、聞かれると困るな。フェリシアはどんなのが好き?」

「私は、煮物料理でしょうか。色とりどりのお野菜とお肉をお鍋でコトコト煮込んだものです!」

「なるほど、機会があったら何か作ってあげるよ。」

「お兄ちゃん、料理ができるんですか!?」

「一般家庭レベルだよ。料理人じゃないから期待はしないで!」


フェリシアが目をキラキラさせている隣では、カカナがレオパール達と話している。



「カカナの国では、どんな料理を食べるんだ?」

「えっと…刺身とかでしょうか?」

「サシミ?」

「生で魚を食べるんです。」

「…生?」


いやいやそうだけど、そうじゃ無いだろ。

その言い方だと…ほら、あまり顔色を変えないセロスさんやルーさんまで引いてるじゃ無いか!


「それはそれは…力強い食事法ですね。」

「自然な国なんだな。」


お二人共、すごい気の使いようだな…。


そんな感じに、皆んなで他愛もない話をして待っていると、奥から女の子達が現れて料理を運んで来た。



「…お芋と豆。」


フェリシアがそう呟いた通り、メインは芋と豆の炒め物?だった。見た目は素朴だが香りは凄く良いし、量も申し分ない。

安く腹いっぱいにさせてやる!と言う気合が見えて、ちょっと男性向けな気もするけど。


その他には小さなサラダとカゴに入った乾燥パン。

味付けは…外食というより家庭的な感じがする。温かい気持ちになる料理だ。



『なぁ、私にも一口おくれよ!』

「わっ、お前!」


フェリシアの髪から、隠れていた神様が顔を出す。

慌てて辺りを見回すが、仲間以外には誰もいない。


すっかりなんじんでいるが、レザール達から妖精は人目を引くため、隠すようにと言われている。


本物の妖精が素直に言う事を聞くのかは分からないが、コイツは意思疎通ができる神様なので、基本的にはフェリシアにくっ付いて隠れてもらっている。



とりあえず、出てきて良いぞと合図。

神様は、皿に近づくとフェリシアから芋をひとかけら貰い、両手でムシャムシャ食べ始める。


『肉入ってないのかコレ!』

「良かった、美味しいって言ってます!」

「…そうね。」


ちなみに神様の声は、俺とカカナにしか聞こえない。

…妖精って肉食うのか?イメージ的には、木の実とかじゃ。



『あぁそうだ。食後、2人に話がある。君達の能力についてだ。』

「…。」

「…。」


あともう一つ。

バレーヌさんから聞いたが、妖精は喋らないらしい。


まぁそもそも本物の妖精じゃ無いのでその常識は当てはまらないのだが。

そのため俺達は、話しかけられても皆んなの前では返答しないようにしている。


能力か…。

本当は今すぐにも聞きたいのだが我慢する。





食事も終わり皿を下げに来た女店主を、レザールが呼び止める。


「…ところで一つ聞いても良いか?」

「何でしょう。」

「客は我々だけか?」

「…はい。本来なら、冒険者や旅人で賑わっているはずなんですが、皆んな召集されてしまって。」

「…そうか、ありがとう。」

「いえ、皆様にご利用頂けて感謝しております。」


そう言って笑顔で女店主は奥へ戻った。


冒険者といえば、まさにパーティを組んで剣と魔法の冒険をする者じゃないか。そんな彼らを召集するって?


「カカナ、召集ってどういう事かな?」

「多分、魔王との戦闘に備えて徴兵されたんだと思う。リクトール村でもそんな話を聞いたし。」

「そっか。…せっかくなら、冒険者とかもやってみたかったんだけどな。スライム倒したりさ!」

「ゲームのやり過ぎよ。」

「…だよね。」


冗談のつもりだったけど、ちょっと自分でも不謹慎だったかと反省。



そんな感じで晩ご飯は幕を閉じた。

二階の客室へ上がると、廊下でレオパールが後ろから抱き付いて来た。


「な、なんだよ?」

「…それじゃ、頑張れよハヤト。」


なんの話だ?


「ハヤト君すまない。この宿は4人部屋しかなかっだんだ。だから…君ならうまくやれると思う。」


そう言い残し、レザールさん達は部屋へ入って行ってしまう。閉まる扉を見ながら…振り返ると、バレーヌさんが手招きしていた。


「ハヤトは、こっちの部屋だ。」

「…あぁ、そういう事ね。」


8人だから4人部屋で丁度いいじゃんと思ったが、男女比が悪かったのか。


まぁ、数日とは言え一緒に旅をして寝食を共にして来た仲間だ。たかが今更部屋が同じだからって、何も気にする必要はない。


お邪魔しまーすと部屋に入ると、フェリシアはいつもの修道着から部屋着に変わっていた。

部屋着と言っても特殊な服ではない、シャツに短パンみたいな格好だ。ベッドの上でゴロゴロする感じは、弟のマサトを思い出したが…


「…っ!」


決定的に違う。

日頃服に隠れている白い足が、ベッドの上でピョコピョコしているのだ。

年齢的にはまだ幼いが、当然見慣れた妹達の物とは違う女の子の足。

それにあの胸だ。初日の感触が呼び覚まされる。



…拳を強く握りしめ耐える。



意識しないように視線を外すと、ベッドの上に腰掛けて髪を解くカカナの姿。

フラッシュバックする昨夜の香り。

心なしか室内の空気が、綺麗と言うか清らかな感じがする。



…歯を食いしばって耐える。



可能な限り2人の姿を見ないように、空いている左奥のベッドへ。

なんとかベッドに腰掛けて、心を沈める。

あぁ、窓から見える夜空は綺麗だ。


「ハヤト、着替えだ。」


ぼんやり外を眺めていると、横にバレーヌさんの気配。

サッと目の前に差し出される着替えの服。


「すみません、ありがと…」


夕方にレザールさん達が買い足してくれた物だ。

礼を言って受け取ろうと振り向き後悔する。


いつもは甲冑を着ており、今まで気にしなかったが…着替えたバレーヌさんは予想以上に華奢だった。


細い訳じゃない。

兵士と言うこともあり、適度な筋肉を持ち姿勢もいい。微笑む姿はどこか上品で、愛嬌がある。

守ってあげたいし、甘えてみたい気持ちが芽生える。



…押し殺した欲望が変換され涙に。





『お前はアレだな、ギャップに弱いんだな。』




哀れる神様の声を聞きながら、俺は着替えを持って男子部屋へと走った。





最後までご覧下さりありがとうございます。


いつもはそんな事ないのに意識した途端、今まで見えなかった事に気付いたり、新しい発見があったりしますよね。

人や物にもっと興味を持つ。


視野を広げていきたいです。



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