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第11話 頼りっぱなしの君

2日目の昼過ぎ。


残りハヤト178日。カナ180日。


「レオパールやめないか!」


藪の中からもう一人男が出てくる。少し赤色がかった髪色の好青年。無精髭さえなければ、かなりのイケメンだ。

この人には見覚えがある。確か、最後までコバヤシ君と斬り合っていた人だ。


「し、しかし隊長!」

「上官の命令が聞けないのかレオパール!!」


予想外のところからの一喝。

コバヤシ君に覆い被さるレオパールと、隊長の動きが止まる。だって、声を発したのがバレーヌだったから。


「隊長、出過ぎた真似を。失礼しました。」

「いや、バレーヌ助かった。」

「ちっ…」

「ハヤト様大丈夫ですか!?」

「あぁ…大丈夫だよ。いてて」


服についた枝葉を払いながらコバヤシ君が立ち上がり、隊長がレオパールとの間に身体を滑り込ませる。


「私の部下が失礼した。…だが、まぁ分かってくれ。」

「いや、良いですけど。」

「それでバレーヌ、この子達は聖女様の…騎士ということか?」

「この小僧が騎士だって!?はっ笑わせるぜ。」

「レオパール…その小僧にぶっ飛ばされたのだぞ我が隊は。」


納得が行かずソッポを向くレオパール。

騎士と言われてもピンと来ないが、立場上彼女を守りに来たわけだから、ナイトと言う意味ならそうなのかも知れない。

コバヤシ君がこっちに視線を送ってくるので、頷く。


「その、俺達はフェリシアを守る者です。」

「遠い国から来たので、この国の事は良く知りませんが、彼女が向かう先に私達も同行させて下さい。」

「隊長、既に話はついております。どうか彼等も王都へ。」

「まぁ、バレーヌを助けてくれた件もあるしな。良いだろう。私はこの小隊を率いているレザール・シャトヴァール。レザールと呼んでくれ。」

「ハヤトです。」

「カナです、宜しくお願いしますレザール隊長。」


レオパールだけは自己紹介せず、不機嫌そうに周囲を警戒している風を装っている。

レザールは肩を竦むと小声で、彼は素直になれない斥候でねと紹介してくれた。


「それでもう聞いているかも知れないが…」

「大丈夫です。バレーヌさんから話は聞いております。」

「ありがとうカナさん。この先の街道に仲間と馬車が待っている。まずはそこへ。」


私達はレザールを先頭に、街道を目指して森を進む。

小走りで急ぎつつ、バレーヌが隊長に近寄る。


「隊長、現在追手は偽の情報で、東の墓場へ向かっています。」

「だから村から離れたのか。助かる。今のうちに北西を抜けよう。」


そんな2人のやりとりを見ていると、後ろから声が聞こえる。

フェリシアは、私が手を繋いで走っているから、後ろにいるのはコバヤシ君とレオパールだ。


「な、なんすか。」

「お前、本当に俺らをぶっ飛ばした奴か?」

「だったら何ですか。」

「あんな大剣、そんなひろっちい腕で振り回せるもんか。力もそうだし、崖から飛び降りて怪我もしないんだろ?…ありえねぇ。お前、魔法使いか?」

「関係ないじゃないですか。」

「あぁ!?」


何だこの子達は。コミニュケーションもちゃんと取れないのか。

これだから男子は…と思うが、それより気になる点が。


「あのレオパールさん?」

「あぁ!?…なんだい嬢ちゃん。」


ちょっとイラっとするが、ビジネススマイルを崩さない。

女子はそう簡単に相手のペースにノリはしないのだ。


「どうして魔法使いだと?」

「そりゃ決まってるだろ、あんな事が出来るのは魔法使いだけだ。身体強化の魔法か、風魔法?あと、あの剣!」

「あの剣?」

「コイツが持ってた剣は、魔法武器だろ。魔法系の物は魔法使いにしか使えない!」

「確かにそうですね。」


取り敢えず会話を合わせておく。

気が済んだのか、レオパールはまた最後尾に回り、後方の警戒を強める。


コバヤシ君がアイツ面倒くさいんだよーとボヤきながら、近づいてくる。


「あんな奴とよく話せるな。」

「だって、聞きやすそうじゃん。他の人には常識過ぎて、質問すると不審がられる事もあるから。聞きやすい人よ。」

「つまりアイツは…馬鹿だってこと?」


それを言ったら元も子もない。

深く考えない人とか言いなさい。


「それで、何が分かったんだ?」

「フェリシアの話と合わせて、3点。この世界のルールでは『魔法使いは希少』『魔法アイテムは魔法使いにしか使えない』『使える属性に制限がある』ってとこかな?」

「制限?」

「フェリシアが言ってたじゃない、治癒魔法は珍しいって。ね?」

「はい!私も詳しくはありませんが、得意とする属性は人それぞれらしいです。」

「そっかー。」

「それでコバヤシ君どうする?」

「何が?」

「…何がって、これからの設定よ!」


よく分かっていない彼が首を傾げる。


今後、多くの人と関わるのに、いちいち何者か分からない人だと思われるのは避けたい。何かしらバックボーンを持っておかないと。


「…これは早急に話し合いの場が必要ね。」

「カカナが決めた事なら何でも良いよ!」


その一言に、私の中で何かが弾けた。


「何それ…サイアク。」


私は、他人に決め事を丸投げする奴が嫌いだ。

それと同じように、他人に自分の運命を決めつけられるのも、また同じように嫌いだ。


私はため息をつくと、彼から離れるように足を早めた。




□□□




ちょっと…なんだよ。

話しかけてきておいて、機嫌悪くして。

明らかに不機嫌オーラ全開でカカナが離れていく。


1人取り残されていると、前からフェリシアがスピードを緩めながら近づいて来た。


「今のは、ハヤト様が悪いです。」

「なんだよ、何がいけなかったんだ?」

「カナ様お一人に、問題を押し付けた事です。」

「問題って…設定だろう?ほら、勇者で良いじゃん。」

「ハヤト様の国って、そんなに勇者様が沢山いらっしゃるんですか?」

「それは…」


アニメやゲームには沢山出てくる。映画も…ファンタジー系とかにならばそこそこ?


いや、そう言うことを聞いている訳じゃないだろ!と自分ツッコミ。現実で、と言うことだろう。


「いや、いない!」

「…ですよね。私は、ハヤト様が崖に飛び込んで助けに来て下さったのを見ているので、俺は勇者だ!と言われても納得してしますが、知らない方には世迷言にしか聞こえません。」

「世迷言…嘘つきってこと?」

「新しい方に会うたびに、崖に飛び込んでいてはハヤト様も身が持たないでしょ?」


クスクス笑う彼女はとても可愛い…って、また思春期と呼ばれてしまう。

確かにフェリシアの言う通りだし、カカナの言っていた「口ではなんとでも言える」に繋がってしまう。

嘘をつくと言うより、世渡りの為にそれらしい設定を作ろうって事だろ。


「でも俺、頭良くないし…」

「知力の問題ではなく、課題に対する姿勢が良くなかったんですよ。」

「そうだよな…頼りっぱなしってのも良くないか。」


昔から自分に出来ることと、出来ないことを線引きしてきた…特に、得意な事は得意な人がやれば良いと考えがちだ。そうやって家事も分担してきたし。


「ありがとう、俺も何か考えてみるよ。」


フェリシアにお礼を言って、考えを巡らせる。

どこか遠くで、「ちゃんと話し合って下さい」みたいな声が聞こえた気がするが、頭はもう考えで一杯だ。

勇者と言うのは、やはりどこの世界でも特別なものなのだろう。それ以外の言い方で、良さそうなのは…


「…まれ!」


仮に騎士という設定にすると、剣もないし俺の見た目も貧弱だ。言葉は好きだけど、説得力は無い。


「…ヤシ君!!」


でも、ただの外国人じゃフェリシアを護るのに不都合。

んーと唸りながら、足が枝とは違う何かを踏みつけ、何かが切れた。聞こえるか聞こえないかギリギリの高音が、耳の奥に響いた気がした。


「テメェ、何やってんだ!?」


唐突に痛いぐらいに肩を掴まれ、レオパールが凄んでくる。

何が起こったのかさっぱりわからない。


「ちょっ、なんだよいったい?」

「バレーヌ!」

「ダメです。察知されました。」

「テメェのせいだぞ!?」


なんだ、何を言われてるんだ??

どうしてみんな慌ててるんだ?


「何ぼーっとしてんだよ!」

「…レオパール。時間の問題でいずれこうなった。それにもう見つかった事実は変わらない。」

「聖女様、カナ様、少し急ぎます。ついてきて下さい。」


そう言ってバレーヌが走り出した。

よく分からないまま俺もみんなについて行く。


「カカナ、いったい何が?」

「君が、敵のトラップを踏んだのよ。たぶん位置がバレたみたい。」

「え、でも…」


そんなの気が付かなかったし、そもそも…いや、誰かが止まるように叫んでいた気もする。

俺が悪いのか?俺が考え事をしていたせいで?いやでも必要な考え事だったし…。


「今は悔やんでいる暇なんて無いわ!」

「でも…っ!」

「テメェは黙って走れ!」


何も言い返せない。

頭がゴチャゴチャするせいで、何度も木の根っこに足を取られ転びそうになる。レザールが腕を引いて転ばないようにフォローしてくれた。

呼吸も荒くなり、自分がどこを走っているのか分からない。


「あと少しだ!」


しばらくすると木々の向こうに道が見え、一台の幌馬車が止まっていた。


レザールが手で何かサインを出す。

馬車で待ち構えていた2人の男が、1人は御者、もう1人は荷台に上がり込む。


森を抜けるとバレーヌは荷台に飛び乗り、先に乗っていた男と一緒に手を差し出し、カカナとフェリシアを引き上げる。

次に、俺の手を引っ張ってくれる。


続いて、レザール、レオパールの順で乗車。


「全員乗車!ルー、出してくれ!!」

「了解。ハイヤッ!!!」


二頭引きの幌馬車は、慌てて加速して行く。

レザールは荷台を通って御者席へ向かい、男に指示を出している。


バレーヌは、年配の男性と一緒に荷物から弓矢を3組取り出す。そのうち一つを後部で見張っているレオパールに渡した。


「隊長、見えました!距離3カラボ。」

「バレーヌ、セロス、頼む!迎撃しながら逃げ切るぞ!」

「「了解!」」


レオパールを間に、バレーヌとセロス呼ばれた年配の男性が、左右にそれぞれ弓を片手に配置につく。


「あぁ、ヤバイ!隊長、アイツら馬に強化魔法を使ってます!!距離2…いや1カラボ!!」

「任意に迎撃開始!」


レザールの合図とともに、3人が矢を放つ。

揺れる馬車の中で、後方がどうなっているのか分からない。


(…何人追って来てるんだ?)


立ち上がろうとした時、何かがヒュンと頭の横を通り抜けた。


「ハヤト様!!」


フェリシアが俺の足を掴んで引き倒してきた。

砂利道でバウンドする荷台の床に、顎を打ち付け目から火花が散る。


「頭を上げてはいけません!」


必死にしがみついてくるフェリシアの先に、荷台の幌を突き破って床に刺さった矢が見えた。


少し横にずれていたら、あれが自分の顔に?

大怪我どころでは済まされない。失明や命に関わる大怪我を負っただろう。


そんな中、応戦を続ける3人の背中が見えた。

村で会ったオークとは違う、死に対する実感が急に近づいて来る。



「火球来るぞ!!!」



レオパールの叫びに合わせ、上からセロスとバレーヌが俺たちに覆いかぶさる!!


肋骨が、肺が押し潰されて苦しい!!





そして幌馬車は、火に包まれた。


最後までご覧くださりありがとう御座います。

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