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第1話 スズキとタナカ

0日目。


残りハヤト…日。カナ…日。

〜プロローグ〜


これは、いずれ迎える始まり。




魔力の奔流に呑み込まれながら覚悟する。

このままだと全てを失い負ける。


…勝つ術はある。


全てをかければ勝てる。

そう、『全て』だ。


「もう後悔したく無いんだ…だから!」



だが心残りもある。

積み上げてきたものが、経験、体験、出会い…その全てが無くなる。



「あぁ!くそっ、俺は…」


悠長なことを考えている場合じゃ無いことは分かってる。

肩が、肘が、手首が千切れそうで、踏ん張っている左ふくら脛がツリそうだ。

覚悟は決まってたんだ。


「全部だ!全部!!」


その意味が何を意味するか理解している。

覚悟を決め、強く、優しく握り締めた!!



「俺は!!」



魔力の奔流を斬り裂きながら光が集まる。

最後の輝きが発動する!!



「お前を…っ!」



その結果を恐れてはならない。

だって、大切なものを見つけてしまったから。

振り返る先に、俺が信じる人がいる…。

その目に映るのは、必死に笑おうとして歪んだ涙を流す俺だ。


すぐ目を背ける。

手は痺れ、嗚咽が止まらず上手く息が吸えない。

鼓動はドンドンと強く、目の奥まで脈打つようなに感じがする。

張り裂けそうな気持ちを押し込めて、…押し込めるわけがない。でも、他に選択肢は無い。



「…っに、帰すんだ!!!」



振り上げた剣は、光を纏って空を切り裂いた…。





それは、これから始まる最後の物語。




■■■■■

〜第1話〜





スズキ・ハヤト


日本で2番目に多い鈴木と書いて、鈴木。

速い人と書いて、速人。


進学か就職か。人生の進路に悩む普通の男子高校生だ。

ヲタク友達から付けられたあだ名は『コバヤシ』。


今日も夜まで予定がいっぱいだ。

脳内でやる事リストを組み立てて、記憶を頼りに冷蔵庫の残りをチェック。

買い忘れ無し、予定通りだ!

 


あ、親父からLINEが来てる。

内容を見ようとした時、目の前を子供が横切る。


通学帽を被った男子小学生だ。



「せーふ!」



両腕を広げる小学生越しに、点滅から赤に変わる歩行者信号が見える。


(俺も昔やったなぁ。でも、今ならヤバい事だって分かるぞ。)


ガッツポーズ少年を横目に通り過ぎようと…おや、向こう側にもう1人いる。

走って来た子より一回り小さい。低学年か?


その子が左右も見ずに道路へ飛び出す。


「バカ!!!」


信号はとうの昔に変わっている。

左右を確認。



バスだ!!!



そう思った時には、俺はもう飛び出していた。




□□□




タナカ・カナ


日本で1番多い田中と書いて、田中。

可憐な奈良で、可奈。


大学受験に向けて、勉強と部活とバイトの両立に忙しい普通の女子高生。

親友から貰ったあだ名は『カカナ』。


今日は、夜までバイトの予定。

私服に着替えて外に出た私は、スマホでシフトの再チェック

シフト再確認、時間も予定通り!



ん、親友の梨香ちゃんからLINEが来てる。

内容を見ようとした時、目の前を子供が横切る。


通学帽を被った男子小学生だ。



「ぶーすとだっしゅっ!!」



そう叫びなら、可愛いスピードで男の子は横断歩道を渡る。


(どうして男の子は、すぐ技名を言いたがるの?)


渡りきり両腕を広げる少年に視線を向けていると、目の前にもう1人やってくる。


走って行った子より一回り小さい。低学年かしら?


その子が左右も見ずに道路へ飛び出す。


「ダメ!!」


歩行者信号はすでに赤になっており、車両用信号は青だ!

左右を確認する。



バスが来てる!!!



そう思った時には、私はもう飛び出していた。





□□□




「…ぅん」


軽い目眩を感じながら俺は起き上がる。


「ようやくお目覚めでちね。」


声が聞こえる方を見ると、青いデニムパンツからスラッと伸びた脚が見えた。

視線を上げると、ワンサイズ大きめ白カットソーTシャツが、腰に巻いた茶色のベルトで引き締まったイメージを…


「…何、ジロジロ見てんの」

「コラ思春期!こっちだこっち!!」


そう言われて、もう少し見ていたい女の子から視線を外し、奥へ向けると…素っ裸の幼児が浮いていた。


「あいつ誰?」

「私に聞かないでよ。キミが起きるまで待てって言われたの。」


素っ裸の幼児は、自分に注目が集まった所で、嬉しそうに後ろを向く。

背中には可愛い白い翼がついており、幼児はドヤ顔で振り返る。


「いい尻だな。」

「お前、ホント思春期だね!!」


幼児が顔を真っ赤にして怒る。

女の子がポニーテールを揺らしながら大きなため息を吐く。


「それで…天使?さんは、何か用があって来たの?」

「その通り!」

「え、天使って輪っかがあるんじゃないの?」

「ちっちっち!あの輪っかは…」

「…ねぇ、話が進まないから、キミは黙ってくれない。」


可愛い顔からは想像出来ないくらい睨まれる。

何故か天使ちゃんも黙る。


(…なんだよ黙ってれば可愛いのに。)


心が読めるのか、もうひと睨みされる。


「コホン、では改めて本題に入る。まずはアチラを見るのです。」



小さな手が指差す方を見ると、霧の向こうに…ベッドを見下ろす様な視点で、そこに眠る2人の人間が見える。


1組は沢山の医療機器に繋がれた男が寝ており、ベッドの周りには子供が3人、大人が1人。


「あ…親父。」


あれは俺の家族、鈴木家のメンバーだ。

眼鏡をかけ、ちょっと痩せこけた男が父親のヤスユキ。

続いて椅子に座っているのが次男のマサト。病室のカーテンで遊んでいる2人が、双子の妹ミズキとハズキだ。


そして、ベッドに眠るのはハヤト本人だった。


(マジか。)


ぼんやりと覚えているのが、帰り道に車道へ飛び出したところまでだったから。あぁ、これはそう言うことかと納得してしまう。


マサトやチビ達もそうだが、親父に悪い事をしちまったと思う。まだ仕事の時間のはずなのに。


(という事は…)


隣のビジョンも横目で見てみる。

思った通りベッドには、女の子が眠っている。

同じように医療機械に繋がれているが、心なしか俺の所より設備が良い様に見える。


ただ病室内には誰もおらず、病室を覗ける大きなガラスの外に、スーツ姿の男性と女性が話しているのが見える。


(親父と…お母さんか。)


ちょっとだけ胸がチクリとする。


女の子は無言で振り返ると、ため息混じりに腰に手当てる。


「それで、こんな物を見せて何が言いたいの?」

「まず2人の状況を知って貰おうと思って!」

「俺、早く帰え…」

「私、早く帰りたいんだけど。こんな所でアナタの話をのんびり聞いてる時間なんて無いの。」


(おぉ、言いたい事全部言われた。)


「むぅ…」


ちょっと可愛そうなくらい天使がションボリする。

励ましてやりたいが、また黙れと言われそうなので静かにしておく。


「君たち2人は、バスに跳ねられて奇跡でも起こらないと助からない状況なのです…」

「ええ!?」


ハッと隣を見ると、女の子も少なからず動揺しているようだった。

ビジョンを見た感じ、大きな外傷はなさそうだったけど…。

幼児天使は、どこからかバインダーを取り出して資料をパラパラとめくる。


「でも2人には、チャンスがあるのです!!…生前の行いから神の奇跡を貰えるかもしれません。」


生前の行いとは、子供を助けた事だろうか?

良い行いをしたから神様に助けてもらえると言うことか。

という事はつまり…


(…助けられたんだ)


あの子を助けられたと分かった瞬間、胸が熱くなるのを感じた。


変な話だが、死にかけている実感はまだ薄い。

だって、痛みも無いし、今ここでは手足も動かせているからだ。

ふと目を動かすと、そんな俺の様子を天使と女の子が見ていた。

緩んでいた口を誤魔化しつつ


「で、奇跡って神様にお願いすれば良いのか?」

「その前に、2人にはやって貰いたい仕事があるのです。ここに我々が用意した1年分の命と…」

「1年分の、いの…?」

「具体的に何をすれば良いの。」


俺の言葉はポニーテールに遮られ、天使は女の子の方を向く。


「実は今、天界は大変な事になってて、その問題を解決してくれれば奇跡を貰えるかもしれません!…これを見るのです!」



次に現れたビジョンは、空から地上に向かって降りていき、教会のステンドグラスから、講堂内へ。

そこには、差し込む日の光を浴びながら、聖像に向かって祈りを捧げる1人の少女が。


修道服から覗く、絹のように滑らかな黄金色の髪。

透明感のある肌に吸い込まれそうな唇。そして胸がデk…


「思春期。気持ちは分かるが、そこまででち」

「ちげぇって!」


さっと隣の女の子を見るが、後頭部から拒絶オーラを感じた。

男なんだからしょうがないだろ!と開き直る。


「で、この子がどうかしたの?」

「この娘は毎日熱心に語りかけて来て、…惚れちゃった神が仕事をしなくなっちゃったでち。」


「…?」

「…。」


俺と女の子は、一瞬理解出来ない。

天使は気にせず続ける。



「この娘がいる世界は、現在魔王によって平和が脅かされているでち。毎日毎日祭壇に来るもんだから、天界の業務が滞って困ってるでち。そこで、この世界へ勇者として出向いて、見事解決するっち!!」



脳が思考を停止している。


「どうしたっち?」


どうしたもこうしたも…。


「全然意味わかっ…!!」

「分かったわ。」

「ちょっと何言ってるか分かってんのか!?」


意外な答えに思わず突っ込んでしまう。もっと現実的な女の子かと思ってた。


「キミ、うるさいよ。どんな馬鹿げた話でも、結局この仕事を受けなきゃ生き返れないんでしょ?」

「まぁ、そうなるでち。」

「だったら議論してる暇なんてないじゃない。魔王を倒せば良いんでしょ?」

「お、お前…」

「私は早く帰りたいの。別について来なくて良いんだよ。1人の方が早いし。」

「いや、俺だって忙しいんだよ!」

「どうだか。」


なんだよその馬鹿にしたような表情は!?


「やる、やるよ俺も!勇者でも何でもやってやる!」

「それを聞いて安心したでち!それじゃ早速、転送の準備を始めるっち。」


2人の足元に幾何学模様が浮かび上がり、淡い光に包まれ始める。


「初めにも言った通り、命は1年分しかないので半分っこするでち。」

「ちょちょい!?」

「2人で分けるの!?…ちょっとキミ、辞退するなら今よ」

「サラッと死ねって言うなよ!半年!?上等だぜ3日で終わらしてやる!!」

「良い意気込みっち!じゃ割り切れない分は、レディにあげるでち。」


そう言って天使は女の子に、赤い宝玉がついたネックレスを渡す。


「良いの?」

「必要になったら好きな方に使えば良いっち。」

「い、1日くらい大したことないぜ…。」

「あっそ。じゃ私が使おっと。」


そう言って女の子は首に宝石をかける。

胸元に宝玉がぶら下がったせいで、急に目が胸に吸い込まれる。


「思しゅ…」

「はい!宝石見てただけです!!!」


幼児天使がジト目で見てくる。

女の子は鼻を鳴らすと、服の中にペンダントを入れてしまう。

…理性を総動員して別の事を考える。


「そう言えば、具体的にどうするんだ?」

「あのシスターが『神様、哀れな私たちに伝説の勇者様を遣わして下さいって』って言ってるちから、2人には伝説の勇者として行ってもらうっち!」

「アタシ達が伝説の勇者?」

「武器とかないの?聖剣みたいな!」


女の子が「はぁ?」と言う顔をしているが、やるからには俺も全力でやる。

チート級とまでは望まないが、仮にも天使から遣わされる訳だから、伝説の宝剣くらいあって当然だろ。


「落ちつくっち。剣はすでにそこにあるでち。」


小さな翼でぺちぺち飛びながら、天使が俺達を指を刺してくる。

女の子と一緒に身の回りを見回すが、服装は事故の時のままだし…?


「手を繋ぐと片方が勇者、片方が剣になるでち。勇者化すれば勝手に強くなるっち。向こうで生きられる時間は半年。技の発動には、使用者の寿命を…」

「ちょちょい!!頼む待ってくれ!!」


話が整理出来ないとついていけない。頭をガシガシ掻きむしっていると、女の子が口を開く。


「…つまりこう言う事?」


俺の方を指を刺しながら、



「…キミが勇者で」



俺も女の子の方を指差して、



「お前が剣で…」



一緒に大きく息を吸って、



『2人合わせて余命1年!?』



「理解が早くて助かるっち。じゃ、いってらっしゃい!」


足元の光が強くなり転送が始まる。

うっすらと足元から粒子になって消えていく。

言いたい事が山ほどある。何か一つでも…!!

口を開こうとした時、また先に言われる。



「待って!私がコイツと手を繋ぐの!?」



「いや、そこかよ!!」



そんな声を残して、2人は天界から異世界に転送された…。



最後までご覧下さりありがとう御座います。



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