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お嬢様、お友達を作りましょう。

 夕食の時間。家族揃っての食事だ。本来、使用人は使用人用の部屋で、使用人用の食事をとる。しかし、シアンだけは、ミューヘーン一家と一緒に食事をする。

「友達はできた?」

 ミューヘーン夫妻は、学校での様子を聞きたがって、たくさんの質問をする。

「…まあまあよ」

 ルキナが鼻の頭を指で擦る。答えるまで不自然な間もあったので、絶対に嘘だ。

(あー、駄目だな)

 シアンは、ルキナに友達がいないと察した。

(モテるどころか、友達一人いないなんて)

 両親に心配をかけたくないという思いが、僅かばかり存在しただろうが、ルキナの場合は単純な見栄っ張りだ。嘘はつくが、最後まで隠し通すのが苦手なので、これがいつまで続くかどうか。

「シアンは?」

 ハリスがシアンに笑いかける。

「マクシスと友達になりました」

「あー、あの、アーウェンさんとこの」

「はい。マクシスが敬称はいらないと言うのですが、問題にならないか心配で」

 シアンは包み隠さず学校であったことを話す。特に、マクシスのことを話すのは、今後、何かのタイミングで訴えられた時、少しでも味方をつけておくための布石だ。しかも、訴えるのがアーウェン家とも限らない。身分社会はそう簡単には変わらない。第一貴族の子息が下位の者に呼び捨てにされているのを良く思わない人もいるだろう。事情を知っていてくれる大人が一人でもいれば心強い。

「マクシス君が言ったのなら、相手のご厚意に甘えなさい。友達という関係に身分は邪魔なだけだからね」

「そうね。大丈夫よ」

 ミューヘーン家とアーウェン家の関係は良好と聞くが、案外、思想も似ているかもしれない。

 夕食後、ルキナが自室に戻ろうとするシアンを呼び止める。

「部屋行っても良い?」

 ルキナが遠慮がちに言う。就寝時間まで、書物庫で二人で過ごすことが多いが、ルキナがシアンの部屋が良いと言うのは珍しい。それに、いつもは、シアンの許可をとらない。勝手に来て、勝手に帰っていく。

「…良いですけど」

 様子が変だと思いながらも、断る理由はない。学校に通う中で何かを学んだだけなのかもしれない。

「友達できないー!」

 心配することはなかったようだ。ルキナがシアンのベッドで足をバタバタと動かす。

 人には指名した人と友達になれと命令するくせに、自分は友達を作っていない。友達になる相手は誰でも良いのだから、シアンより断然容易なはずだ。

「あてはあるのよ。『りゃくえん』に登場するキャラに、シェリカ・ルースっていう子がいてね。ルキナより悪役令嬢してる子なんだけど。ゲームでは、ルキナと親友で。この世界にも、隣のクラスにいるらしいの」

 床に座って本を読みながら、ルキナの話を聞く。ルキナが体を乗り出して、ベッドの上からシアンの本を覗き込む。

「ルース家というと、第二貴族ですか。お嬢様なら近づくのも簡単ですね。それで?」

「でも、なんだかうまくいかなくって」

 ルキナはベッドに頭を引っ込ませる。

「話しかけたんですか?」

「…まだ」

「探してもないんですか?」

「ううん。陰から見たことはあるわ、一度だけ」

「はぁ」

 シアンは隠すことなくため息をついた。

(そんなことだろうと思った)

 ルキナは肝心なところで怖気づくことが多い。行動に移す前にいろいろと考えて不安になったのだろう。

「ねえ、シアン」

 いつになく弱気な声だ。シアンには、この先の言葉が予想できた。

「…なんですか?」

 それでも聞かないわけにはいかない。

「手伝って」

「無理です」

 予想通りのセリフに、シアンは即答する。ルキナは頬を膨らませて、不満そうにシアンを見る。

「なんでよ!」

「あなたの問題です。友達一人作れなくてどうするんですか」

「だってぇ…」

「だっても何もありません」

 小さな子供のように駄々をこねるルキナに、シアンはどうしたものかと考える。面倒くさいとは思いつつも、手助けしたい気持ちもある。しかし、最初から手を出すのは良くない。一人では何もできなくなってしまう。

「チグサ・アーウェン様とお友達にでもなったらどうですか?」

 ひとまず、相手を変えてみてはどうかと提案する。しかも、いつかは攻略しなくてはならない人物だ。学年が違うので、また別の難しさはあるかもしれないが。

「最初からそのつもりだったわよ」

 シアンなりに考えて相談に乗ってたつもりだったので、ルキナの態度にはカチンときた。

(そんなわけないだろ。今さっき、ルース家のお嬢さんと友達になるつもりだって言ってたじゃないか)

 そういえば、マクシスは多くの人に囲まれ、友達作りに苦労する様子はなかった。むしろ、マクシスと交友関係になりたい側の人間が苦労しそうなものだ。そんなマクシスと同じ第一貴族のルキナなら、声をかけられ放題だろうに。

「皆さん、人を見る目があるみたいですね」

 シアンはルキナに満面の笑みを向ける。皮肉を言ってスッキリした後は、読みかけだった本の世界に入る。

「ちょっと、どういう意味?」

 ルキナにも良い意味で言われたのではないことはわかったようで、いらついた声で尋ねるが、無視を決め込んだシアンには届かなかった。

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