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お嬢様、進学です。

 シアンたちは中等学校に入学した。中等学校に上がったからといって、特段何かが変わるわけではない。初等学校から顔ぶれはあまり変わらない。家庭教師を雇い、初等学校に通っていなかった貴族の子供が少し増えただけだ。今まで通っていた初等学校からこの中等学校まで、さほど距離が離れていないので、同じようなエリアの子供が通う。

 それでも、すべてが同じというわけにもいかない。

 シアンがティナと共に廊下を歩いていると、廊下にいた女子生徒たちがキャーっと黄色い悲鳴をあげる。

「リュツカ君が委員長やるなら私も立候補すれば良かった」

「リュツカ様と委員なんて羨ましすぎる!」

 シアンは、中等学生になっても、また委員長をやることになった。言うまでもなく、ルキナの命令だ。仲の良い者同士で委員長会に参加するのが楽しかったらしい。

 男女一人ずつなのは変わらないが、副委員長という区別はない。

 他クラスの生徒は、シアンが委員長に立候補していたことは知らない。だから、自分も委員長になれば良かったと言うのだ。同じクラスでは、シアンが立候補した途端、たくさんの女子が委員長に名乗り出た。クラスメイトとなった、リンネルとマイナももちろん手を挙げた。結果としては、ティナがその地位を勝ち取った。

「なんか…ごめん」

 シアンは困ったような顔をしている。女の子たちから好かれるのが嫌というわけではない。ただ、反応に困るのだ。中等学校に上がってから、シアンのアイドル化に拍車がかかっている。ルキナ曰く、「手の届きそうなアイドルこそ、真のアイドルよ」だそうだ。

 そして、その影響は、同じ委員長のティナにまで及ぶ。多くの女子生徒から羨ましいという目で見られるのだ。シアンは謝るほかなかった。

「迷惑」

 ティナは正直に言う。今はシェリカがいないので、無表情モードだ。その状態での発言なので、少しこたえる。

「ですよね」

「でも、あなたが自分から望んでのことじゃないのは知ってる。委員のことも、その人気も」

 ティナは微妙に微笑む。シアンを気遣ってのことだろう。

 ティナも巻き込まれていることは確かだが、シアンが自ら引き起こしたことではない。ティナと同様に、主人に命令されたから委員長をやっているのを知っているし、女子に好かれて調子に乗るような様子はない。彼を責める権利などない。

「ご理解感謝します」

 シアンは心の底から、女子委員長がティナで良かったと思った。

「ほら、お前ら付き合ってるんだろ」

「キスしてみろよ」

「キッス!キッス!」

 シアンとティナが教室に戻ると、男子生徒数名がエリザとヘイシャを囲んで騒いでいる。二人が同じクラスになったためか、からかわれているらしい。エリザは顔を赤くして俯いている。ヘイシャが、そんなエリザを守るように背中に隠す。

「おあついね~」

 ヘカトがすかさず野次をとばす。タシファレドの取り巻きだったヘカトだが、ハイルックに追い出されるようにタシファレドから距離をとり、結果、ただのやんちゃ坊主になった。

 ヘイシャは、ヘカトたちに何を言われようが黙っている。相手が貴族なだけに、下手に言い返せないのだ。周りの女子生徒はやめるよう言っている。

「そんな幼稚なことをして何が楽しんですか?」

 シアンがヘカトたちに向かって言う。こういうことに首をつっこむ性格ではないし、できれば関わらずにいたい。しかし、残念なことに、シアンはクラス委員長。クラスの平穏を守るためには動かざるを得ない。それに、騒ぎが大きくなって、いじめに発展してしまっても困る。

「リュツカは知ってたんだろ、こいつらのこと。あ、もしかして見たことあるのか?ちゅーしてるとことか」

 ヘカトがニヤニヤと笑う。

「フィヨンさんが嫌がっているのがわからないんですか?周りも、やめてと言っています。もう少し大人になってはどうですか?」

 シアンは静かな声で言う。ヘカトを落ち着かせるためだ。しかし、それは逆効果だったらしい。彼には、シアンがおちょくっていると感じたらしい。

「はあ?俺たちは協力をしてあげてるんだ!」

 ヘカトが怒鳴り上げる。そんな態度を見て、シアンはため息をついた。そして、右手を大きく振りかぶり、勢いをつけてヘカトの顔面に突き出した。

「な…な…」

 ヘカトがびっくりして目を見開いている。もちろん、シアンが人を殴るわけない。特に、自分より相手が弱いとわかっている時は。顔に拳がぶつかる直前で止めたのだ。それでも、相手をびびらせるのには十分だ。腰を抜かしたのか、ヘカトがその場に座り込む。

「すみません。感情的になって手を出してしまうなんて、僕も全然大人じゃありませんね」

 シアンがニッコリ笑う。ヘカト以外の男子生徒も、すっかり黙っている。皆、思ったことだろう。このクラスを牛耳るのは、間違いなく彼だと。

「リュツカ様、ありがとうございました」

 ヘイシャが礼を言う。ヘイシャが言い返せないのは身分の問題だ。彼が弱虫だという話ではない。誰も彼を責めはしないだろう。エリザだってそのことは理解しているはずだ。そんなことで幻滅されてしまっては困る。

 エリザは、近くにいた女の子たちに囲まれて、慰められている。彼女のフォローはその子たちに任せて大丈夫だろう。

(とりあえず、一件落着っと)

 初等学校でクラスをまとめていた頃に比べると、やや大変ではある。

 問題が解決したことに安心していると、ルキナが教室に飛び込んできた。大声でシアンの名前を呼ぶ。

(あー、もう、次から次へと)

 ルキナは別のクラスの生徒。シアンの教室で話を続けるわけにもいかない。二人は廊下に出る。

 シアンが用事を尋ねると、焦ったように話し始めた。タシファレドの様子がおかしいと。ルキナとタシファレドは別のクラスだが、たまたまあるシーンを見てしまったのだ。そう、タシファレドが女の子を口説く場面だ。放課後、デートをしようと誘っていたそうだ。

「おかしいって…ロット様は女たらしなのが正しいんですよね?良かったじゃないですか。シナリオ通りに進むかもしれじゃないですか」

 ルキナにとっては一大事だったかもしれなが、シアンにはどうでもよすぎる。正直、なんでこんなことで呼び出されなくてはならないのだろうか、と疑問だ。

「違うのよ。問題は、きっかけよ。シアンが相談に乗ったぐらいからなんだけど。何言ったのよ」

 ルキナの知る限り、タシファレドがチャラくなったのは、ノアルドの誕生日パーティ以降だ。だから、可能性として、シアンが相談を受けた時に何かを言ったせいではないかと思ったのだ。

「設定では、シアンがきっかけじゃなくて、ルキナがきっかけだったって。しかも、中等学校の時。ちょっと早いじゃない」

 ルキナはぷんぷん怒っている。

「お嬢様の言う通り、あの日がきっかけなら、お嬢様が原因ですけどね」

 シアンに思い当たる節がないわけではない。

 苦手意識をなくすために、ルキナに勝てる要素を見つけると良いとアドバイスをした。その時、ルキナは、婚約者であるノアルドを差し置いて、マクシスに話しかけにいっていた。シアンは気づかなかったが、その後、ミッシェルとも話していた。タシファレドの目には、ルキナはいろいろな男と関係を持つ者に見えただろう。そして、タシファレドがルキナより、たくさんの女の子からモテれば勝てると思った。それがタシファレドが女たらし化した原因である可能性がある。

「どういう意味?」

「そのままの意味ですけど」

「ん?まあ、それなら良いのか」

 ルキナは、シアンとタシファレドの会話を全く知らないので、よくわかっていない。それでも、シアンがルキナが女たらしに導いたと言うのだ。それならば、ほぼ問題はない。

「そうですよ。待っていれば、もしかしたら話しかけてもらえるかもしれませんよ」

 シアンは早く会話を終わらせようとして、適当に言う。しかし、そこであることに気づいた。

「思ったんですけど、設定で女たらしになるタイミングを知っていたんなら、なんで最初から女たらし対策で作戦練ってたんですか?女たらしになる前から、その、強く当たったら、ただ傷つくだけじゃないんですか?」

 タシファレドは、女たらしで、声をかけた女の子は皆、彼のことを好きになる。口説くとき、失敗をしなかった。だから、簡単に落ちないヒロインの冷たい態度に気になるのだ。女王様作戦は、タシファレドが女たらしであるという前提が必要だったのだ。

「あれ?シアンってこんなに小さかったっけ?」

 ルキナはあからさまに話をそらした。自分が不利になる話題であると、すぐに気づいたのだ。

 ルキナは、隣に立つシアンの頭を上から見る。ルキナの成長期が来て、そこそこのスピードで身長が伸びているのだ。一方、シアンは成長はあまり速くない。今は、シアンよりルキナの方が身長が高い状態だ。

「お嬢様の身長が伸びたんじゃないですか?」

 シアンは、話をそらされたことは指摘しない。ルキナが己のミスで逆ハーレムになれなくても、シアンの責任ではないからだ。

リンネル・ガーヴァンド

 シアンが気になる女の子

 初登場:第29部分

 最新登場:第29部分


ヘカト・ハイルーン

 元タシファレドの取り巻き

 初登場:第30部分(名前なし、第4部分)

 最新登場:第34部分


ミッシェル・タンクーガ

 ノアルドの幼馴染み

 初登場:第4部分(名前のみ)

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