お嬢様、最初が肝心です。
教室の入り口付近で、クラスメイトの髪の色を確認していく。少しずつ人数も増えてきて、誰を見て、誰を見ていないか、正直把握できていない。
(もうやめようかな)
そう思った時だった。目を惹く赤色が目に飛び込んできた。シアンがそちらに目を向けると、不機嫌そうに椅子に座っている少年と目が合う。赤髪。黒色の瞳。彼がタシファレド・ロットだろう。
タシファレドは、取り巻きの少年たちに囲まれ、足を組んで座っている。じっとシアンを見て視線を動かさない。シアンの方も、なんとなく目を離し難く、お互いに見つめ合ったまま、数秒が経つ。すると、タシファレドが椅子から立ち上がった。他の生徒の間をすり抜け近づいてくる。シアンから目を離さないので、彼のもとに向かってきているのだろう。
「はーい、席についてください」
タシファレドがシアンのもとにたどり着く前に、教師がやってきた。その後は、式典のために場所移動をし、接触する機会は得られなかった。
式典の後は、学級活動。順番に自己紹介をしていく。シアンは集中して名前を聞く。あの赤髪の少年は、やはりタシファレド・ロットだった。そして、マクシス・アーウェンも同じクラスだ。
(放課後になったら話しかけに行こう)
ルキナに命令されたとおりにマクシスと交友関係を深めるには、最初が肝心だ。今後、誰と学校生活を過ごすのか、それが決まるのはだいたい最初だからだ。
「それでは、気をつけて帰ってください」
担任教師が活動の終了を告げる。水を得た魚のように、生徒たちがざわつき始める。中には、さっさと帰る者もいる。
シアンは、予定通りマクシスに話しかけることにする。自分の席を離れ、マクシスの元へ向かう。
マクシスの席は、生徒たちに囲まれている。アーウェン家は第一貴族だ。社交界の人間なら関係を深めておきたい相手。そういう教育を受けている貴族の子供たちが集まっているのだ。
(身分差は一つの関門か)
リュツカ家は第三貴族。第一貴族との差は大きい。貴族であるだけまだましという程度だ。
「おい」
不意に背後から声をかけられる。不機嫌な声だ。
シアンが振り向くと、タシファレドが仲間を従えて立っていた。声の主は彼だ。顎をクイッと出口の方に向ける。ついてこいということなのだろう。
無視をするという選択肢もないわけではないが、相手は自分より身分が高い。ロット家もまた、第一貴族である。それに、ルキナの攻略対象だ。今後も関わりがあるかもしれない相手に怒りをかうような態度はとれない。
渋々頷き、タシファレドらと共に教室を出る。しばらく歩いて中庭の見える廊下に移動する。中庭には出ないで、廊下の壁による。タシファレドは、シアンを壁側に立たせて中庭を背にする。一緒に来た男子生徒二人は、タシファレドを挟んで並ぶ。シアンが逃げないようにするためか、やや斜めを向いて。
(イジメだ)
シアンはすぐに察した。だからといって、どうってことはない。相手は自分より能力が劣っていることはわかっている。こういうのは反応をしないのが一番だ。