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お嬢様、カップルの多い季節になりました。

 クリスディエースの時期がやってきた。冬の一大イベントだ。ルキナの前世でいうとクリスマスにあたる。ここでは宗教的意味はないが、家族と過ごしたり、恋人にプレゼントを贈る行事として盛り上がっている。そういう意味ではファレンミリーとよく似ている。初夏のファレンミリー、冬のクリスディエース。世のカップルたちにとって大切なイベントだ。

「ほんと、どこ見てもカップルだらけね」

 ルキナが待ちゆくカップルたちを嫌そうに見る。

 街は色とりどりの電飾で彩られ、楽し気な雰囲気だ。雪は午後からと聞いているが、空は灰色の雲で一面覆われている。それがさらに街のカラフルさを際立たせる。

 ルキナとシアンは、街へ買い物に来た。明日、マクシスの家でパーティをする約束をしているのだ。招待してもらっているのに手ぶらで行くわけにはいかないし、せっかくならプレゼントを用意したいものだ。

「何をそんな恨めしそうに見てるんですか。見ず知らずの人に失礼ですよ」

 シアンはルキナを注意する。自分たちの世界に浸っているカップルたちでも、見知らぬ子供に突然睨まれたら不快に思うだろう。

「そうね」

 ルキナは顔の力を抜く。表情が柔らかくなる。

「今日のお嬢様はなんだか物分かりが良いですね」

「まあ、クリスマ…ディエースの日にイラついててもしょうがないし」

 ルキナもクリスディエースを楽しみにしているのだ。そんな時に、気を立ててばかりいてはもったいない。

「シアン、一つだけ良いこと教えてあげる」

 ルキナが前から歩いてくるカップルを見ながら言う。シアンはどうせたいした話じゃないだろうと思い、反応はしない。

「自分が持っていないものを持っている相手を見ると、自分が惨めに感じるけど、そんなこと思わなくて良いの。ただ。願うの。リア充爆発しろ」

 ルキナがすれ違うカップルにニッコリ笑う。彼女の方がルキナに気づき、笑い返す。

「あの子たちもデートかな?」

「どうだろうね」

 二人仲良くくっついて歩いていくが、ルキナの腹黒さを知らないのだ。笑顔の裏で、二人に別れてしまえと思っているなど知る由もない。

「お嬢様は婚約者がいるじゃないですか」

 ルキナには恋人どころか、結婚する相手がいる。そんなに恋人を欲しがる必要がないはずだ。

「いたわね、そんなの」

 ルキナは興味のないように言って歩みを速める。

「推しじゃなかったんですか?」

「べつに本当に忘れてたわけじゃないわよ。それとこれは別って話。古傷が痛むっていうか」

 ルキナは前世のことを思い返す。高校時代、人生たった一度告白した相手には振られ、それからは二次元一筋だ。彼氏がいたことがない。友達と一緒に、クリスマスの町を歩くカップルを見ては涙をのんだものだ。

「プレゼント、何にするの?」

 ルキナが少し後ろを歩くシアンに尋ねる。シアンはルキナの横まで行って、迷っていると答える。

「そうよね。無難なのはお菓子かしら」

「でも、甘いものは」

「うん。さんざんたべてるでしょうね」

 二人は手当たり次第にお店に入っていく。スイーツ、洋服、花、置物。初等学生同士のプレゼントとして妥当なものがわからない。お互い貴族だと、余計に難しい。

「マクシスは白色が好きですよ」

 ルキナが売り物のペンを手に取ったので、シアンが教える。好きな色のものであれば喜んでもらえるだろう。きっとマクシス攻略にもつながる。

「へー」

 ルキナが白色のペンに持ち替える。

「あ、そっちよりこっちの方が良いと思います」

 シアンが白色に赤色のラインが入ったペンを渡す。ルキナが持っているのは、青色で装飾がされたものだ。

「赤色のものをたくさん持ってるので」

 シアンが当然のように答える。ルキナはバッとシアンの方に向き直す。

「マクシスの好きな食べ物は?」

「イチゴです」

「誕生日は?」

「七月三日」

「血液型は?」

「H1型です」

「犬、猫」

「猫派です」

 ルキナの質問にシアンは瞬時に答えてみせた。ルキナが信じられないと言うような表情でシアンを見る。

「気持ち悪いくらい知ってるわね」

 正直、引き気味だ。

「お嬢様も誕生日くらい知ってますよね?」

「いや、さすがに即答は無理だって」

 ルキナはペンを買うことにして会計をしにいく。プレゼント用にラッピングをしてもらって、ルキナが戻ってきた。二人は店を出て、次の店に向かう。

「お嬢様もノアルド様のことだったら答えられるんじゃないですか?」

 シアンはルキナに引かれてしまったのが悔しかったので、同じ目にあわせてやることにする。

「えー?ノア様の?」

 ルキナはあまり乗り気じゃない。シアンはかまわず始める。

「誕生日は?」

「えーと、一月…」

「二十三日です。好きな食べ物は?」

「んー、なんとかベリーだったかしら」

「…血液型は?」

「さあ」

「好きな色は?」

「緑?」

 正解が一つもない。シアンの方がノアルドのことを知っているのではないかと思うほどだ。

(推しってなんだっけ。これで攻略なんてよく言ったものだな)

 ルキナは、シアンが疑いの目を向けていることに気づく。

「うん、ごめん。私、一夫多妻制だから。他のキャラの情報で、ちょっと。それにこのゲーム、誕生日イベとかなかったし。ほら、この世界って、誕生日は家族だけで祝うんでしょ?」

「お嬢様にそういうここの常識を教えられるとは思いませんでしたけど、王族は誕生日パーティ開きますよね」

「あ、だから、一月なのは覚えてたのか」

「…。」

「…。」

 二人は黙々と歩く。変な空気になってしまって会話が途切れた。雑貨屋に入り、プレゼント探しを続行する。

「それ、チグサに?」

 しばらく別々で店内を回っていたが、ルキナが話しかけてきた。

「眼帯って、普通に売ってるんですね」

 シアンは気になったものを手に取る。黒色の皮のように硬い生地に、小さな装飾がされている。目に着けた時、下になるところに、白とピンクの宝石のようにカットされたビーズがついてる。白色の丸いビーズが二つ並び、その先に一つ蝶の形のピンク色のビーズがついている。

「可愛いじゃない。左右だけ間違えないようにしなさいよ」

 シアンは、右目に着ける用の眼帯を一つ買う。

「あんだけ年中つけてたら、眼帯焼けしそうね」

 ルキナが一人で笑う。日焼けをして、眼帯をつけていたところだけ白く、くっきりするのを想像したのだ。

「そういう眼帯、海賊みたいよね」

 ルキナが試しにつけてみせる。適当にとった黒色の眼帯だ。シアンに見てもらって、すぐに外す。

「海賊って、あの?」

 シアンがそう尋ねたので、ルキナが動きを止める。

 ルキナは、また言葉が通じないかと思った。前世の世界にあったもので、こちらにないものは、シアンにはわからない。今回もそのパターンかと思った。今まで読んだ本には海賊なんて言葉は出てこなかった。だから、てっきり存在しないのかと思っていた。

「海賊がいるの?」

 ルキナはうきうきとした声を出す。物語の世界にいないのは、今この世界に海賊がいるからだろうと思ったのだ。

「いますけど。時々、海の方では海賊に襲われたっていうニュースがありますし。でも、眼帯つけてるなんて話聞いたことないですよ」

 ルキナはシアンの言葉で海賊の存在を確信し、喜びをあらわにする。それを見て、シアンは、ルキナが前世の世界と混同していることに気づく。海賊は読んで字のごとく、海の賊。危険な奴らだ。そんな彼らのことを知って喜ぶなんておかしい。

「お嬢様、常識の勉強をしましょう」

 シアンはため息混じりに言った。

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