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お嬢様、恋愛するために学校に行くのではありません。

「二人とも、入学おめでとう。頑張るんだよ」

 ハリスが優しい声で子どもたちにエールを送る。ルキナとシアンが初等学校に入学するのだ。

 二人は馬車を降り、後ろを振り返る。ルキナは手を振り、シアンは頭を下げて、ミューヘーン夫妻に挨拶をする。

「気をつけてね」

 メアリがルキナを見た後、シアンを見る。

 心配だからと、一緒に馬車に乗って学校まで見送りに来たのだが、学校の中へはついていけない。学校に通うのは、自立する力を鍛えるためでもある。普通は最初とはいえ、親が登校を共にすることはしない。家臣たちが馬車で送迎するから。両親は、ルキナのことが、それほど心配なのだ。

 シアンはルキナにバレないくらい小さく頷く。メアリに「任せてください」と言うように。

「シアン、行こ」

 ルキナは、シアンの手首を引っ掴み、校舎に向かって歩き出した。シアンは、急いでもう一度会釈をして、ルキナについて歩く。

「いい?打ち合わせ通り、マクシスと友達になってね」

 ルキナがヒソヒソとシアンの耳元で言う。

 初等学校入学前夜、つまり、昨晩、ルキナはシアンを部屋に呼び出し、作戦会議を開いた。

 ルキナは、自然に任せておいてもモテるだろうと考えていたが、状況が変わった。婚約者が連れてきたミッシェルが、全くルキナに興味を示さないのだ。

 ミッシェル・タンクーガは、世話焼きな性格で、甘え上手な妹タイプが好きだ。だから、ルキナは「なんだかほっとけないと思われる女の子になれば良いんだわ」と言ってはりきっていた。残念ながら、結果は失敗。本人によると、これ以上ないくらい完璧に『守ってあげたくなる女の子』を演じたのだけれど、ミッシェルはちっとも興味を示さなかったそうだ。

 シアンは焦り過ぎなんじゃないかと考えていたが、ルキナは次なる目標に早々に目を向けていた。初等学校で出会う二人の男だ。

 タシファレド・ロットは、一言で表すとチャラい。一部界隈で『女たらしファレド』と呼ばれたほど。攻略難易度は最低。おそらく、こちらからアクションを起こさなくても、勝手に近づいてくるだろうと予想。

 マクシス・アーウェンは、シスコンで、彼の姉を攻略せずに近づくのは危険。だが、足かかりはほしい。そこで、ルキナは、シアンに「マクシスと友達になりなさい」と命じたのだ。

「ほとんどのキャラは高校だし、小学校で会えるのはマクシス・アーウェンとタシファレド・ロットの二人だけ。スタートダッシュが肝心よ」

 ルキナがキメ顔でウインクする。

(人をキャラって言うのやめてほしいな。お嬢様からしたら、作り物とそう変わらないんだろうけど、僕にとっては生身の人間なんだから)

 周りに人が増え始めている。同じ校舎に向かう生徒たちだ。正門で馬車を降りた子供たちは、校舎に続く長い一本道を歩いていく。

「お嬢様、コウコウではなく上級学校、ショウガッコウではなく初等学校です」

 近くの生徒に聞こえないように小さな声で訂正する。

「良いじゃない、そんな細かいこと」

「良くありません」

 校舎の中に入り、事前に知らされているクラスの教室へと移動する。

「お嬢様、何かありましたらお呼びください」

 シアンは、クラスが別れてしまって、ルキナが一人で大丈夫か心配になる。

「心配いらないわ」

 ルキナは親指を立ててニッコリ笑う。当の本人は、周りから心配されていることなど気づいていないようだ。

 シアンは、教室の中を見回し、クラスメイトの顔を確認する。まずは、例の二人が同じクラスかどうか調べなくてはならない。

 ルキナ情報では、タシファレドは赤髪に黒い瞳で、マクシスは黒髪に茶色の瞳だそうだ。外見的特徴がそれだけでは見つけるのが大変だ。特に、マクシスが本当に黒髪なら、もはや特徴とは言えない。

(黒髪の人間がどれだけいると思ってるんだ)

 視界に入る人物のほとんどが黒髪だ。瞳の色は、ぱっと見でわかるものではない。

 怒りの先を誰に向けて良いかわからず、余計にイラッとする。

(なんでこんなに必死にお嬢様の手助けしてるんだろう。僕、関係ないのに)

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