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お嬢様、第二ミッション失敗です。

 ファレンミリー最終日。シアンはお菓子をくれた女の子にお返しをしに回る。二日目に他のクラスの生徒からも渡されたので、あちこち走り回らなければならなくなった。その作業は放課後までかかった。初めての経験故、お返しのプレゼント選びに時間がかかってしまい、最終日にいっぺんに配らなければなれなくなってしまった。

 一方、ルキナは、女王様計画の大詰めを迎えている。

 ルイスの誕生日パーティ以降、タシファレドは話しかけてこなかった。とっさに女王様は演じられないからと、常に女王様でいた。そのせいで周りを巻き込んだというのに、肝心のタシファレドが全くアクションを起こしてこなかったのだ。

 ところが、今日はタシファレドが動き出した。ファレンミリーのチャンスを逃すまいと、ルキナを放課後呼び出したのだ。特別教室に一人で来いとのお達しだ。ルキナはワクワクしながら約束の時間を待つ。あまりに楽しみで、予定より早く来てしまったのだ。

「ま、待たせたな」

 タシファレドが顔を赤くしながらやってきた。後ろに隠した手には小さな箱が握られている。ルキナに送るためのプレゼントだ。本来、ファレンミリーの贈り物は初日、遅くとも二日目にする。お返しがあることが前提なので、相手のために一日の猶予をもたせるのだ。それなのに、最終日になってしまった理由は言うまでもない。タシファレドがヘタレだったからだ。パーティの時の行動力はその場の空気によって生まれたものらしい。まだ彼はルキナの知る女たらしファレドではない。気になる女の子の前では動けなくなってしまう。

「何の用かしら?」

 ルキナは練習の成果を発揮すべく、さっそく女王様風に尋ねる。近くにあった椅子に座り、足を組む。もちろん、机に肘をついて。

「あ、え、その、これ…やるよ」

 タシファレドは勇気を振り絞り、小包をルキナに見せる。ルキナは、これが好意を向けられることなのねとしみじみ思う。嬉しくないわけがない。

「まあ、所詮攻略難易度最低のキャラね」

 いない相手に見栄を張る。タシファレドを落とすことなど容易い、自分はこんなものではないと。

「え?」

 タシファレドがルキナの独り言を聞き取れなかったようだ。聞いたところで、意味は分からないだろうが。

 ルキナは最後の一手を決めに行く。これで完全に私の虜だわ、とルキナは既に勝利を確信している。

 タシファレドはヒロインに冷たい態度をとられて恋に落ちる。

 息を整え、タシファレドを見下すように見る。

「誰があなたなんかの贈り物を受け取ると思ったのかしら。ありきたりな包み紙にありきたりなリボン。きっと中身もたいしたことないんでしょうね」

 ルキナの予想外の反応にタシファレドは焦る。

「なっ!?最高級のフルーツを使ってるんだ。作ったのも、うちで一番のシェフだ」

「最高級、ね。高ければ良いってわけじゃないのよ。気持ちがこもっているいるように感じられないわ。出直してらっしゃい」

 ルキナがそこまで言うと、タシファレドは耐えきれなくなって教室を飛び出した。

「え!?」

 ルキナの想定では、気を引こうともっと食い下がるところだ。女たらしの彼がそんな簡単にあきらめるわけがない。まして、泣きながら逃げるなんてことはしない。

 ルキナは大切なことを失念している。この世界が乙女ゲームであろうとも、そこの住民が初めからルキナの知るキャラクターではない。タシファレドが生まれた時からチャラいわけでも、ドМなわけでもない。今はただの八歳の子供だ。

「待ちなさいよ!」

 ルキナは慌てて椅子から飛び降りるが、もう既にタシファレドの姿はない。

 タシファレドは、泣きながら廊下を走っている。その途中、お返しを配り終えたシアンと鉢合わせる。

「ロット様!?」

 シアンはタシファレドの身に起こった出来事をしらない。ルキナから今日が山場だと聞いていたので、なんとなくルキナが何かやらかしたのだということはわかるが、それが正解なのかわからない。

「どうされたんですか?」

 シアンはタシファレドを引き留め、尋ねる。ルキナが原因ならフォローする必要がある。それに、相手がタシファレドであろうとも、泣いている者を見過ごすのは胸が痛む。

「…。」

 タシファレドは何も言おうとしない。彼にもプライドがある。想いを寄せる女の子にふられたなんて言えるわけない。

「…ふぅ」

 何か言ってくれなければ、シアンにはどうしようもない。シアンは予備で用意しておいたお菓子をタシファレドに持たせる。女の子たちに配ったのと同じ市販のお菓子だ。

「僕にはそんなに高いのは買えないので、ロット様がいつも食べているようなお菓子には比べ物にならないかもしれませんが。前に聞いたことがあります。辛いことがあった時には甘いものが良いと。どうしようもなくなったら、誰かに相談するのが一番ですよ」

 できるだけのことはした。シアンはその場を離れ、ルキナを探しに行く。彼にはルキナのフォローの仕事が残っている。

 タシファレドはゴシゴシと涙を拭いてシアンを見送る。

「ロット様」

 タシファレドのもとに二人の男子生徒が近づいてきた。取り巻きのヘカト・ハイルーンとハイルック・シャルトだ。

「どうでしたか?」

 ヘカトがルキナに関する結果を聞きたがる。タシファレドの顔が赤いのは、泣いたせいだとは思っていない。

「うまくいきましたか?」

 それはハイルックも同じだ。

「…悪くない」

 ルキナにあげようと思っていたお菓子の箱をハイルックに差し出す。

「やる」

 ハイルックは戸惑いつつも素直に受け取る。

「え?そういうことですか?え?」

 ハイルックがなにやら勘違いをしている。嬉しそうにお菓子を両手で包み込む。ヘカトは自分はもらえなかったので不服そうだ。

 タシファレドの手には、シアンからもらったお菓子を大事そうに握られている。

 ファレンミリーは愛を伝える日。まだまだ幼い子供たちは、愛のカタチがいろいろあることを知らない。こういう経験を通して学んでいくのだろう。

「ロット様、お返しは明日渡しますね。ファレンミリーはもう終わっちゃいますけど、誰よりもすごいものを用意しますから」

 ハイルックが顔を赤らめる。手を後ろにまわしてもじもじと体をくねらせる。

「え?」

 タシファレドは、ハイルックの動きの気持ち悪さにドン引きする。

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