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お嬢様、女王様タイプを目指します。

 ルキナがゴホンゴホンとわざとらしく咳払いをする。

「それでは、これより第n回目の作戦会議を始めます」

 自分の髪の毛の束を鼻の下に持ってきてひげを作る。

(数えてないんなら、何回目だとか言わなければ良いのに)

「今回の議題は、タシファレド攻略についてです。何か意見のある者は…」

 ルキナが周りを見渡すが、この部屋にはシアンしかいない。そのシアンも口を堅く閉じている。

「もう!意見を言うか、ツッコミを入れなさいよ」

 ルキナは髪の毛をパッと放す。お偉いさんを演じるのはやめたようだ。無理もない。唯一の参加者が無反応なのだから。この空気ではボケ続けるのも大変だ。

「まあ、ともかく、昨日、タシファレドから話しかけられたから、その対策をしようと思うんだけど」

「そうですね」

「タシファレドは甘やかされて育ったから、冷たい態度をとられた経験がない。だから、甘~い言葉で誘った時、冷たく断った女の子のことが気になっちゃうの」

 皆が同じ態度なら、他の人たちと違うことをする人物のことが気になってしまうのは普遍の原理だ。そこから恋が始まることも少なくない。

「ということで、女王様計画を実行するわ」

 ルキナが立ち上がり、右手の人差し指を天に向ける。

「ジョウオウサマケイカク?」

 また聞きなれない言葉だ。どうせルキナが新しく作ったのだろうとは思いつつも、シアンはお手本のように聞き返す。

「そうよ。相手がМなら、私が女王様になれば良いのよ」

 ルキナはドヤ顔になるが、シアンにはさっぱりわからない。

「…謀反を起こして王の座を奪うつもりですか?」

「ち、が、う、わ、よ」

 シアンも違うだろうなとは思っていた。いくら常識知らずのルキナのことだとはいっても、さすがにそれはない。

「女王様タイプっていうのが世の中にはいてね。それこそ女王様みたいに威張り散らすんだけど。でも、今回のはそれとはまたちょっと違うっていうか」

 ルキナも説明が難しいようで、うまく言葉にできないようだ。

「あ、もちろん、いかがわしい意味じゃなくてね」

「いかがわしい意味があるんですか!?」

 シアンの反応速度は現時点で最速だ。ルキナはこういう時だけ反応良いんだからと呆れている。しかし、シアンからしたら当然だ。令嬢としてのあるべき姿からこれ以上外れてしまって困る。

「だから、今言ってるのは違うって…違わなくもなくなくない?」

 ルキナが歯切れの悪い言い方をするので、シアンは心配になる。

「世の中には、強く攻められると喜んじゃう人間もいるの。シアンも社会を知っておくべきだわ」

 知らなくても良い知識なのだが、ルキナはビシッとシアンに向かって人差し指を向けて自信ありげだ。

「はあ…具体的にどうするんですか?」

「そんなこともわからないの?やっぱりあんたはクズね」

 ルキナはおもむろに椅子に座り、足を組む。ひじ掛けに肘をついて床に座っているシアンを見下ろす。これがルキナの女王様のイメージだ。

(また意味の分からないことを…)

 ルキナがまた空回って終わるような気はしたが、シアンは何も言わない。たしかにシアンの知らない世界の話ではあるので、下手に口出しをしてはできない。作戦失敗なんて自体が起きたら、責任を押し付けられかねない。

 コンコン。

「シアン様、お客様ですよ」

 使用人がシアンを呼びに来た。

「客?誰ですか?」

「マクシス・アーウェン様です」

 ルキナは、マクシスが訪ねてきたと知ると、ニヤリと笑う。マクシスとの仲を深める良い機会だ。

「よくやったわ。褒めてあげる」

 変な姿勢で座ったまま言う。まだ女王様の演技を続けている。マクシスがミューヘーン家に訪ねてきたのは、友人のシアンがいるからだろう。シアンの功績と言って間違いはないが、ルキナがそのプラスをマイナスにしかねない。

(このままやるつもりか)

 マクシスをこの部屋に連れてくるよう言うので、素直に従う。これで失敗したって、ルキナ自身の責任だ。

「さすがミューヘーン家のお屋敷だね」

 客室で待っていたマクシスが周りを見渡す。

「マクシスの家だって、そう変わらないだろ」

「良かったら、今度遊びに来てよ」

「うん。僕の部屋に案内するよ」

 シアンは客を連れて自分の部屋に戻る。

「よく来たわね」

 ルキナが女王様のふりをして出迎える。あの椅子から動く気はないようで、姿勢も変わらない。

「えっと、お邪魔します」

 当然、マクシスはそんなルキナに戸惑いを隠せない。シアンに視線を送り、説明を求める。

「あー、うん。気にしないで」

 マクシスは、シアンの言葉に従い、気にしないように努める。

「あ、そういえば、ミューヘーンさんは…」

 マクシスが何かを思い出し、ルキナに話しかける。彼も、この場ではできるだけルキナには関わらないようにするつもりだったが、やむを得ないので話しかける。大した内容ではないが、ルキナには伝えなくてはならいないと思ったのだ。

「ルキナで良いわよ」

 突然敬語がなくなったので、違和感はある。いつもより積極的だ。

「…ルキナさんは」

 図らずも、マクシスに名前呼びをさせることに成功。女王様計画は予想外なところで役に立った。対タシファレド作戦だったが、意外とマクシス相手にも使える。ルキナ本人が気づいているかどうかはわからないが、この計画はなかなかの結果を出している。今のところは。

「なに?」

「ルキナさんは、チョコレートケーキがお好きでしたよね?」

 好物の名前が出てきて、あからさまにテンションがあがる。もちろん姿勢は例の状態で保ったままだが、口元がにやついている。威厳のいの字もない顔だ。

「手土産にと思いまして」

 マクシスが持ってきたチョコレートケーキは、客室に案内した使用人に預けたそうだ。

「お茶にしましょ」

 さっきまで全く動く気がなかったのに、ルキナが立ち上がって部屋を後にする。「天気も良いし、せっかくだから庭でしようかしら」と言いながら、使用人を呼ぶ。茶会の準備をさせるのだ。

(昨日、食べたばっかなのに)

 シアンは、ルキナの軽い足取りに頭痛を覚える。

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