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お嬢様、何か変です。

 シアンたちが集まっているところへ、ノアルドがやってきた。ルイスが後ろからついてきている。

 ルイスの姿を見た途端、シアンの鼓動が速まった。バクバクと心臓の音がうるさい。目の奥が熱い。

「ルイス様、おめでとうございます」

 マクシスが代表して祝いの言葉を述べる。それに合わせて他の子供たちが頭を下げる。

「あ、ありがとうございます…」

 消え入りそうな声でルイスがお礼を言う。この態度では、どちらの身分が高いのかわからない。

 シアンが頭を上げ、もう一度ルイスの姿を目に映すころには、なんともなくなっていた。

(気のせいか…?)

 金髪に青色の瞳。ノアルドもルイスも、血がつながっているだけあって、よく似ているのだが、性格は似ても似つかない。弟のノアルドの方がしっかりしている印象を受ける。

 それもそのはず、ルイスは、ノアルドが生まれてから、優秀な弟と比べられて育ってきた。兄なのに才能がないと、周りの大人たちからバカにされる。祝いの場ですら陰口をたたく者がいるくらいだ。根は深い。当然、ルイスは自分に自信をなくしている。それでも、父である国王はルイスが次期国王だと公言している。

(変な派閥ができたりしなきゃ良いけど)

 シアンは勝手に同情する。

「えっと…君がリュツカ家の?」

 不意にルイスがリュツカ家の名を出したので、とっさにもう一度頭を下げる。

「招待していただきありがとうございます」

「あ、いや、そんな…こちらこそ、来てくれてありがとうございます」

 威厳がないと言ってしまえばそれまでだ。

「あの、頭を上げてください」

 だが、その眼差しには不思議と惹かれるものがある。何か大きな力が眠っている、そんな気がしてくる。

「リュツカ家は昔、王家と深い関わりがあったという文書を見つけて」

 ルイスも他の多くの者たちと同じように、竜の血に興味があるのだ。古の伝説の力なのだから、興味をもって当然だ。

「王子殿下、国王陛下がお呼びです」

 家臣がルイスに耳打ちする。国王が玉座に座り、こちらを見ている。ルイスはシアンに「また機会があれば話しましょう」と言って離れていく。

「そうだ。ルキナ、あっちにチョコレートケーキがありましたよ」

「本当!?」

 ノアルドがルキナを連れて料理の並ぶテーブルに歩いていく。みんなで行く流れになり、ぞろぞろと団体で動き始める。

 シアンも、大好物にテンションをあげるルキナに微笑みつつ、彼らについていこうとした時、背後から何かを感じる。そこにいるのはチグサだとわかっているが、尋常じゃない気配がする。シアンが振り向くと、チグサが重い口を開いた。

「シアン、あの人には近づかないで」

 いつになく真剣な顔だ。こんなチグサは見たことがない。何かを恐れているようにも見える。下唇を噛み、血が出そうなほど強く握り拳を作る。右手で眼帯の上から右目を押さえている。

(あの人…ルイス様?)

 シアンには理由がわからなかったが、その場では頷くしかなかった。

「姉様、どのケーキにしますか?」

 マクシスが近づいてくると、チグサはいつもの無表情に戻った。

 チグサの言動には謎が深まるばかりだ。あの顔は忘れられそうにない。一瞬だが、ルイスから何かを感じたのも確かだ。今後、ルイスと会う機会は少ないと思うが、せめて警戒はしておこうと心に留めておく。

「シアン、どうしたの?」

 シェリカが心配そうにシアンを見る。

「なんでもないですよ」

 シアンはシェリカと一緒にルキナのいるところへ移動する。

 能天気なお嬢様は、チョコレートケーキを口に頬張って、ニコニコしている。退屈なパーティの末、大好物にありつけてご満悦のようだ。ノアルドは、そんなルキナを微笑ましそうに見ている。

(そういえば、なんでノアルド様はお嬢様と婚約を?)

 シアンは、ノアルドとルキナの婚約が決まったことは、後から聞かされた。

 本人たちの意思を全く無視して話を進めることはしないだろうが、最初は親同士で事を進めるはずだ。第一王子のルイスの婚約者はまだいない。なぜ第二王子の婚約者が先に決まっているのだろうか。

(国王陛下のお考えか)

 第一貴族とはいえ、ハリスが自分の娘を王族に嫁がせたいと言いだせるわけがない。下手をすれば立場が危うくなるだけだ。だとすれば、国王が話を持ち掛けたと考えるのが妥当だ。国王の考えが全く理解できない。ルイスに王の座を譲りたいのなら、彼に先に婚約させるべきだ。その相手が王妃となるのだから。

(やっぱりルイス様に何か…まあ、いいや)

 なんであれ、ルキナが国を揺るがすお家騒動に巻き込まれたりさえしなければ、それで良い。憂慮すべきは、ルキナが幸せか否かだ。

「何か顔についてる?」

 シアンがルキナの顔をじっと見つめていたので、気になったようだ。ルキナが首を傾げる。シアンはちょっとからかうことにする。

「そうですね。目と鼻と口がついてます」

「そんなの当たり前でしょ。そうじゃなくて」

「あー、あと」

「なに」

「眉毛がついてます」

「もう!」

 期待通りの反応の良さに、シアンは声を出して笑う。

「笑った!」

 その顔を見て、シェリカは嬉しくなる。心から笑っているシアンは珍しい。

「二人は本当に仲が良いね」

 寂しそうに言うのはノアルドだ。ルキナと冗談を言い合えるシアンを羨ましく思う。

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