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お嬢様、もう期待なんてしません。

「姉様を呼びに行ってくる」

 それぞれ食事を受け取り、席につくと、マクシスが中庭にチグサを呼びに行く。これも毎回恒例の流れだ。

「シアン、デザートが欲しいのならあげるわよ」

 シアンの隣を陣取って満足げなシェリカがフルーツの乗った皿を手に取る。シアンはそれを丁寧に断り、目の前に座るルキナに話しかける。

「なんで僕を副委員長にしたか、説明してください」

 ルキナは「そんなのテキトーよ」と面倒くさそうに答える。

「デザート作戦は駄目みたい」

「リュツカ様の好きなものを聞いたらどうですか?」

 シェリカは右隣に座るティナと作戦会議中で聞いていない。

「委員長になれば、クラスみんなと話すのはへんじゃないでしょう?ほら、マクシスとだって、タシファレドとだって」

 たしかに、クラス委員という肩書があれば、友人という関係を築くことなく自然と会話することができる。今のところ、昼は一緒なのに、マクシスともチグサとも関係が好転している様子はない。話題を増やすためにも、委員長になるのは決して悪い考えではない。

 シアンを指名したのは本当にテキトーなのだろう。よく知っている人物で文句は言っても仕事はきっちりこなす。シアンは最適ともいえる。

 委員長の仕事はさほど多くない。放課後や昼休みに徴収されるのは一年に十回とない。事務処理は教師の仕事だし、あるとすれば、話し合いの場で進行役をつとめたり、行事の際にクラスをまとめたりする程度。ルキナには、なぜそこまでシアンに文句を言われなければならないのかわからない。

「どうせ選ぶんだったら、マクシスとかロット様を選んだほうが良かったんじゃないですか?」

 一緒に委員長の仕事をするうちに仲良くなるというのはよくある話だ。ルキナだったら、二人のうちから指名する選択肢はあったはずだ。

 ルキナは「その手があったか」と言わんばかりに何度もうなずく。

「…まさか、考えもしなかったわけではないですよね?」

 シアンに呆れた目を向けられ、ルキナは慌てて否定する。

「私は最初からわかってたわよ」

 鼻の頭をこする。目も合わせようとしない。完全なる嘘だ。シアンは呆れてものも言えない。

「でも、ね、無理やり副委員長にしちゃうと恨まれかねないから。そうすると、仲良くなれないかもしれないでしょ?」

 ルキナの渾身の言い訳に、不本意ながら、シアンは納得する。たしかに、自分自身がルキナを恨んでいるように、見た感じやりたそうなタシファレドも嫌がるかもしれない。

「何の話?」

 マクシスがチグサを連れて戻ってきた。相変わらず、チグサはサンドイッチが入ったバスケットを持ってきている。前に一度アレルギーなのかと尋ねたことがあるが、そうではないらしい。

「なんでもないですよ」

 ルキナはそう言って、料理を食べ始める。食い意地の張っているルキナだが、こういう時は律義に待っている。マクシスに悪い印象を与えたくないだけかもしれないが。

「そういえば、ミューヘーンさんは、ノアルド様のご婚約者でしたよね?」

 ノアルドとは、ウィンリア王国第二王子だ。六歳の時にルキナと婚約している。滅多に話題にしないことなので、そのことをシアンも忘れていたくらいだ。

「そうですけど」

 ルキナも、どうして急にそのことを話題にされたのかわからないようだ。

「ルイス様の誕生日パーティ、どうされるんですか?」

 ルイスはノアルドの兄、第一王子だ。その十歳を祝う誕生日パーティは、親族や第一貴族はもちろん、多くの貴族が招待される。第一貴族のルキナは、ノアルドの婚約者としての立場もある。行かないわけにはいかないだろう。どうするもなにも、ルキナの返事など聞くまでもない。

「…そうだった」

 ルキナがボソリとつぶやいた。にぎやかな食堂では聞き取りづらいが、シアンにははっきり聞こえた。

(どうせ忘れてたんだろうな)

 シアンはもうルキナには何も期待してはいけないとわかった。

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