お嬢様、委員長を決めましょう。
最初の学級活動。クラス委員長を決める時間だ。委員長は男女一人ずつ。
「立候補する人はいますか?」
委員長が決まるまで進行を任された仮委員長がクラスメイトの顔を見渡す。こういうとき、手を挙げるか挙げないかは、もちろん人によって違う。このクラスにリーダーに立候補する人物がいるかどうか。もし、誰一人手を挙げなければ、仮委員長がそのまま委員長にされてしまうかもしれない。仮委員長の生徒は、何回もクラスを見回す。担任教師が適当に指名しただけなのだが、その運命は残酷だ。誰か一人でも手を挙げてくれれば、彼女は救われるのだ。
仮委員長があきらめかけたその時、救世主は現れた。
「誰もやらないなら、私がやるわ」
手を挙げたのはルキナだ。自分は関係ないと思っていたシアンは突然のことに焦り始める。あのルキナのことだ。そういう面倒ごとにはシアンを巻き込む。そして、悪い予感ほどよく当たる。
仮委員長の少女は「助かった」と口にしそうなほど安堵の表情を見せる。
「他に立候補する人はいませんか?」
愚問である。だが、形式上聞いておかなければいけない。誰も手を挙げないので、はれてルキナがクラス委員長だ。仮委員長の任をとかれた少女が席に戻り、ルキナが代わって前に立つ。
「ミューヘーンさんが指名して良いですよ」
男子の立候補がないことはわかっていた。担任がルキナが好きな人を選ぶと良いのではないかと提案する。担任は、指名された人は誰であっても文句は言わないように、と注意する。
ルキナの一言で、このクラスでの立ち位置が決まってしまう。
(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ)
シアンはできるだけルキナと目を合わせないように、うつむいて念じる。
「じゃあ、シアン。シアンが副委員長よ」
シアンの願いは届かず、ルキナに指名されてしまった。シアンは嫌々前に出る。文句は言うなと言われていたし、露骨に態度が悪いのは印象が良くない。いつもの作り笑顔で、感情は表に出さない。
(終わった)
面倒なことは嫌いだ。別に副委員長の仕事を放棄するつもりはない。任されれば責任はまっとうする。しかし、避けられる責任からは逃れたいものだ。それに、目立つことがあまり好きではない。その目立つ頭で何を言っているのかと言われそうなものだが、だからこそ無駄に目立つことは避けたいと思うのが自然である。
「よっ、副委員長」
休み時間になると、マクシスがすかさずからかいに来た。
「マクシス、面白がってるだろ」
「そりゃあね」
完全に他人事となって、シアンを笑う余裕がある。指名制になった時の恐怖は、全男子生徒共通だ。自分が選ばれる可能性は、その確率は平等でないにしろ、全員にあった。
「マクシスがやってくれれば良かったのに」
つい本音がこぼれてしまう。マクシスはハハハと軽快に笑う。
「僕はもう去年やったし」
だからこそやってくれると思ったのだ。父親からリーダーという立場を経験しろと言われたようで、一級生の時は真っ先に手を挙げていた。今年ももしかしたらと思っていたのだが、どうやら一年で満足したらしい。
他にもあてはあった。目立ちたがり屋のタシファレドだ。去年は見ている限り手を挙げるか迷っているようだったし、本人は今年こそはと思っていたかもしれない。
(指名制でさえなければ…)
昼休み、シアンは去年と変わらずマクシスと食堂に向かう。その途中、廊下でシェリカに話しかけられた。
「シアン、副委員長になったんだってね。シェリーも委員長になったの。よろしくね」
シェリカのクラスはシアンのクラスが委員長を決めた後に学級活動をした。風のうわさで、シアンが副委員長になったと聞いて立候補したのだ。
「ルースさんが一緒で良かったね」
何が良いのかわからないが、マクシスが嬉しそうに言う。
マクシスは既にシェリカと顔見知りになっている。それもそのはず。学校内では、シアンはマクシスと行動を共にしている。そこへシェリカがアタックしにくるのだから、マクシスとも知り合いになる。
「ちょっと、シェリカ。あんたでしょ、私の筆入れに虫のおもちゃいれたの」
ルキナがシェリカを見つけて駆け寄ってくる。
「もう気づいたの」
シェリカは今もルキナにちょっかいをかけ続けている。
事の発端は、ルキナは自分より良いものを持っていてうらやましいと思ったシェリカが始めたイジメだった。一度は解決したと思われたが、あの事件後も、シェリカがシアンを自分のものにしようと猛アタックしている。当然ルキナを邪魔に思うだろう。今も、シェリカがルキナにいたずらをしかけている。シアンが止めに入っても良かったのだが、「これは女の闘いよ」とルキナが言うので手出ししないようにしている。
なんやかんやあって、皆一緒に食堂に向かうことになった。シアンはマクシスと静かに昼食をとるつもりだったが、その希望は通りそうにない。