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お嬢様、乙女ゲームって何ですか。

「…はあ」

 シアンが曖昧な返事をすると、ルキナは不満げに「信じてないでしょう」と言った。信じられるわけがない。前世の記憶を思い出したなんて戯言をそう真っ直ぐに受け取れるわけがない。

(どうせまた、僕をからかって楽しみたいだけだ)

 幼い頃は(今もまだ幼いが)、ルキナの言うことすべて信じた。「雷が落ちると、土の中からゾンビが出てくる」と聞かされた嵐の夜は一人で眠れなかったし、「三つ編みにしないと、悪魔に帰られない洞窟に連れて行かれてしまう」と言われれば、泣きながら短い髪を編んだ。そうして、最後は「シアンったら、また騙された」と笑われた。

 シアンは、学んだ。ルキナの言葉は簡単に信じてはいけないと。

「嘘じゃないの。私、前世は日本に住んでて、狭くて小さな、でも、なんだかほっとする家でゲームしてたの」

「…ニホン?」

 聞いたことのない言葉だ。シアンが思わず繰り返すと、ルキナはシアンが興味をもったと思ったのか、体を前のめりにする。

「国の名前よ」

 自慢げな様子だが、自慢できる要素は何もない。

(僕が知らないことを知っているのが嬉しいのかな)

 シアンが知っているわけがない分野で、知識量を比べられても困る。そもそも、作り話という可能性は大いにありえる。悔しさなど一切湧いてこない。

「こことは別の世界みたいでね、こっちにある物がなくて、逆にあっちにはすごいものがいっぱいあるの。特に、ゲームというのは素晴らしいわ」

 ゲームというと、絵が描かれた正方形の紙を使ったカードゲームが一番に思い浮かぶ。カードゲームでなければ、マスの描かれた板の上に赤と白の四角い石を並べる陣取りゲーム。そういったゲームを予想するシアンに、ルキナが早口で話し始める。

「こう、四角い箱?板?に映像が映ってね、えーと、こっちで言うと、映鏡みたいな。テレビって言うんだけど。あー、でも、パソコンも使ったりするわね。ともかく、映鏡と違って、実際には存在しない物も映るの。そう、絵ね。紙に描いた絵を映してるわけではないんだけど」

 ルキナは必死に説明しようとするが、シアンにはさっぱりだ。知らない単語に、まとまらない説明。想像が追いつかない。

 ルキナ自身も、うまく説明できている気がしないので、シアンの戸惑う様子を見て難しい説明は諦めた。

「あー、もう、えーっとね、そういうゲームをテレビゲームって言うの。そのテレビゲームのジャンルの一つに、乙女ゲームっていうのがあるんだけど」

「オトメゲーム?」

 シアンは、なれない言葉を繰り返す。

「乙女よ、乙女」

 ルキナが自分を指さしてウインクする。シアンは彼女の言いたいことがわかり、脳内で“乙女”に変換する。

「乙女ゲームとは、女性向け恋愛ゲームのうち、主人公プレーヤーが女性のゲームの総称である。「乙女ゲー」「乙女ゲ」「乙ゲー」などと略称される」

と、淡々と言うと、小さな声で「wiki調べ」と付け足した。

「まあ、つまり、主人公が好きな男の人を攻略してハッピーエンドを目指すゲーム」

 ルキナは、心配そうにシアンを見る。彼女もすっかり落ち着きを取り戻し、シアンの前で座り込んでいる。

「理想の男性との恋愛を疑似体験できるってわけですね?」

 シアンの言葉に、ルキナが大きく頷いた。理解してもらえたとわかって嬉しいのだ。

「うまくやるとね、全キャラの好感度上げて逆ハーレムになれるの」

 だが、喜びのあまり、伝えなくても良いような情報まで口走ったのは良くなかった。

「なんてハレンチな!」

 シアンは軽蔑の視線を送る。ルキナは慌てて擁護する。

「ゲームの中の話なんだから良いじゃない!それに、あっちとこっちの常識は違うのよ」

「はいはい」

「まだ嘘だと思ってる?」

 にわかに信じられる話じゃない。彼女の話し方は、自分の思い出を語るようであったり、他人の人生を語るようであったり、時々変わるのだ。前世という存在の立ち位置が不安定なのかもしれない。過去の自分とは言いつつも、同一人物ではないのだ。性格が全く同じというわけにもいかないだろう。しかし、コロコロと立場が変わる態度が、信じることを困難にさせている。

 一方で、語彙力は格段に上がっている。昨日まで知らなかったような言葉まで使いこなしている。それに、注意深く見ていたが、鼻の頭をこする癖が一度も出ていない。嘘をついているわけではなさそうだ。

「いいえ、本当のことだと思ってますよ」

 ルキナは満面の笑みを浮かべる。勢いのまま話したのは良いが、信じてもらえるかどうか、内心不安だったのだろう。

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