お嬢様、クラス替えです。
気づけば初等学校入学から一年が経ち、シアンたちは二級生になった。
「さあて、運命のクラス替えね」
ルキナがクラス替えに意気込むのも無理はない。一級生ではマクシスともタシファレドともクラスが別で、関係に進展がなかった。一番簡単だと思っていたタシファレドとすら、まだ知り合っていない。接触機会が増やすには、クラスが同じになる必要がある。ルキナにとって、このクラス替えが勝負の時なのだ。
「お嬢様が気合を入れても、クラスが変わることはありませんよ」
シアンが余裕を見せるのは、既にルキナと同じクラスだと知っているからだ。春休み中に各家に郵送される書類で、クラスが伝達される。同じ家に暮らす二人が互いにクラスを確認するのは簡単だ。
ルキナは「そんなことわかってるわよ」と口を尖らせる。シアンは正論ばかりで面白くない。
「お嬢様、行きますよ」
シアンが玄関に立って急かす。時間にはまだ余裕がある。いつもより少し早いくらいなのに、シアンはルキナを遅いと言う。
「シアンだって楽しみなんじゃん」
ルキナはやれやれというポーズを両手で作り、首を振る。
馬車に乗り込み、二人一緒に登校する。一年も繰り返してきたので、もう慣れたものだ。
「そういえば、お嬢様はお友達はできたんですか?」
興味本位で尋ねると、ルキナはあからさまに表情を暗くする。大げさにため息をついている。
(あ、聞いちゃだめなやつだ)
イジメ事件が解決してからは、学校では適度な距離を保ってきた。共通の友人は少ないので、家に帰ってから学校のことを話題にすることは多くない。だから、ルキナの交友関係を把握していなかった。だが、まさか、一年もあって友達が作れないとは思っていなかった。
「コミュ障をなめんじゃないわよ」
フフフと気色悪い笑いと共に、ルキナが毒づく。
「異世界転生してね、根本的な能力がそう簡単にあがるわけないのよ。コミュ障はずっとコミュ障なのよ。子供の考えることは単純って言ったって頭ん中が見えるわけじゃあるまいし、考えてることなんてわかんないわ。もはやクラスメイトなんて、みーんなカカシに見えてくるっての」
悪魔みたいな顔でブツブツ言うので、可愛い顔が台無しだ。さすがのシアンも若干引き気味だ。
「なんでも良いですけど、それは人前でしないでくださいね」
こんな変な一面を見せてしまっては、できる友達もできなくなってしまう。
馬車から降りると、なんだか緊張してくる。ルキナは飛び跳ねる心臓を落ち着かせながら校舎を目指す。
別にこれで人生のすべてが決まるわけではない。今回は無理でも、今後、他のチャンスがあるはずだ。しかし、予定通りにいかず、焦らざるを得ないのもたしかだ。クラス替えは、自分の力ではどうしようもないからこそ、運命を試されるような気分になる。
シアンには、ルキナがこんなに必死になる理由がわからない。だが、わからないからと言って、完全に馬鹿にすることはできない。
新たな教室の前で足を止める。シアンは、応援の意を込めて、ルキナの背中を軽く押す。ルキナが教室の中に入っていく。
シアンは廊下で待つ。そこへ、ルキナがクラスメイトの顔を確認して戻ってきた。
「万事解決。結果オーライ。オールオッケー」
ルキナのテンションは最高潮。マクシスもタシファレドも同じクラスだ。
シアンは静かに微笑む。今年も楽しくなりそうだ。




