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お嬢様、心配しないでください。

「すごい!ティナ・エリ、やっぱりほしいわ!」

 シェリカはすっかり興奮している。彼女が欲しがっているのは、シアンだ。ルキナを危機から守る瞬間を度々目にして、自分のものにしたいと思ったらしい。淡い緑色の髪を揺らして、シアンを目を輝かして見ている。

「ティナ・エリ、連れて帰って」

 シェリカがティナに命令する。ティナは小さく「はい」と答える。シェリカは、シアンが素直に従って、家に来てくれるわけがないと理解していたようだ。ティナに命令する時は、説得で解決できないと判断した時だ。

 ティナはシェリカの家に仕えているようだが、シェリカに怯えきっている。命令には逆らえず、頷くしかない。

 シアンは、小動物のような少女に何かできるようには思えず、疑問に思う。ティナがシアンを連れ帰るのは無理に決まっている。

 そんなことを考えているうちに、ティナがシアンの目の前まで来ていた。そして、ボソリと言う。

「ごめんなさい」

 次の瞬間、ティナがポケットから小さな筒状の容器を取り出し、蓋を開ける。フッと容器を振ると、その中に入っていた青色の粉が宙に舞う。キラキラとシアンに降りかかる。粉は消え、目には見えなくなる。

「うっ」

 視界が急に歪む。猛烈な眠気に襲われる。

(あの粉は睡眠薬か…!)

 シアンは、気力だけで意識を保とうとするが、眠気には抗えない。瞼が重い。力が抜け、膝から崩れ落ちる。

「ティナ・エリ、行くわよ」

 シアンが眠ったのを目視で確認すると、シェリカは歩き始める。

「え…え…」

 ティナ一人では、シアンを担いで移動するのは難しい。シェリカが全く手伝う気がなさそうなので、ティナはその場で右往左往する。

 シェリカが立ち止まり、振り返る。一緒に運んでくれるのかと少し期待したが、やはりそうではなかった。「遅いわよ」と言うように睨むだけで、すぐにまた歩き始めてしまう。

 ティナは大きく息を吸って覚悟を決める。脇の下に腕を回し、横たわる少年をズルズル引きずって運ぶ。一級生の中で特に身体の小さい彼女には、同学年の男子を運ぶのは困難な話だ。

「シアン!シアーン!」

 様子がおかしいと感じ始めたルキナが外からシアンを呼ぶ。だが、その声はシアンには届かない。

 ティナはブツブツと「ごめんなさい」を繰り返す。主人の命令とはいえ、この行為は良心がいたむのだ。ルキナの切ない声を聞いて泣きそうになる。

 ルキナは、中の状況がわからない。返事がこない。不安でたまらない。それでも、シアンがなんとかしてくれると信じている。

「シアン、どうしたの?」

 ルキナの声は段々小さくなっていく。最終的に、ルキナは痺れを切らして、校舎の中に入った。階段をのぼり、二階に移る。シアンと犯人がいるはずの廊下。そこには誰の姿もない。もう既にシェリカたちは移動してしまったのだ。

「シアン…」

 犯人を追って移動してるだけかもしれないと考え、校舎の中を探し始める。普段ならシアンに「はしたない」と怒られるが、今は彼はいないし、非常事態だ。ルキナは学校のあちこちを走り回る。

「見つけたら叱ってやるんだから」

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