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お嬢様、お側にいます。

 シアンは、約束通り、ルキナと休み時間を過ごした。授業が終わる度に、急ぎ足でルキナの教室に行く。シアンの見た目は目立つので、何度も訪ねれば、ルキナのクラスメイトのほとんどはシアンの顔を覚える。一日を終える頃には、見慣れた人物になるだろう。

「お嬢様、昼食を食べに行きましょう」

 シアンの背後にはマクシスが立っている。

 シアンが中庭でチグサと昼食を食べた時、マクシスは一人で食堂で食べた。シアンから事情を聞いた時、何も言わずに待ちぼうけにさせたことより、チグサと一緒だったことに怒った。いや、悲しそうだった。「なぜ僕は誘ってくれなかったのか」と。約束通り、チグサがマクシスを宥めてくれたらしく、今は仲直り(?)している。

「マクシス、この方はルキナ・ミューヘーン様」

 廊下に出てきたルキナをマクシスに紹介する。ルキナは、攻略対象のマクシスを前にして、急に身なりを整えだした。前髪をささっといじって、ニコッと笑う。

(うわぁ…男の前だけ良い顔する女って見苦しい)

 目的は見失わない。ルキナらしい行動である。シアンは呆れているが、これは良い傾向だ。ルキナが本調子を取り戻しつつある。

「ミューヘーンさん、はじめまして。マクシス・アーウェンです」

 マクシスが礼儀正しくお辞儀をする。ルキナも令嬢らしい丁寧な動作でお辞儀をする。お転婆娘のルキナだが、最低限の作法は叩き込まれている。

 にこやかに笑っていたルキナだったが、シアンに向かって頬をふくらませる。

「ちょっと、チグサに会う前にマクシスと知り合っちゃったじゃない」

 マクシスには聞こえない声量で訴える。

「そこはもう、ご自分のモテスキルでなんとかしてください」

 シアンは、ルキナが怒るかもしれないことは予想していた。しかし、それは仕方のないことだ。シアンにはマクシスと昼食を共にすると約束を前からしていたし、だからといって、ルキナを一人にはできない。

「私にそんなスキルないわよ。前世では彼氏いない歴=年齢だったのよ」

 ルキナがなぜか胸を張る。シアンはそんな彼女を無視して「食堂に行きましょうか」と言う。

 三人一緒に食堂を目指す。その途中、マクシスが中庭に寄っていこうと言った。チグサがいるかもしれないと思ったからだろう。

「人が多いな」

 中庭につくと、いつもの何倍もの人でごった返していた。独り言のように呟いたシアンに、マクシスが天体観測の日なのだと教える。

「こんな昼間から?」

 ルキナだけが驚いている。この世界では、天体観測に昼と夜の光の差は関係ない。魔法で太陽の光を遮って空を見ることができるからだ。むしろ、夜のように町からの光がないので、昼のほうが天体観測には絶好なタイミングである。

「お嬢様、別世界の常識とごっちゃにしないでください」

 シアンが耳元でこっそり伝える。ルキナは素直に「わかったわ」と頷く。

 そうこう話しているうちに、段々周りが暗くなってきた。太陽の光が消えていく。それに反比例するように、見えていなかった星たちが姿を現し始める。

「わー!」

 中庭につながる廊下から見ているので、全貌は見えないが、プラネタリウムのような景色に、ルキナは心を奪われる。

「シアン、せっかくだから少し見ていきましょ」

 ルキナはシアンとマクシスの返事を待たずに一人中庭に出る。

「お嬢様」

 シアンはルキナを追おうと手を伸ばしたところで、背後から声をかけられる。

「シアン、こんにちは」

 チグサだ。いつもどおり中庭で昼食をとろうと思っていたが、イベントのせいで場所が取れず、途方にくれていたところだった。

「姉様、僕もいますよ」

 星の光が頼りの中庭では、誰が誰だか判断がつきにくい。それでも、マクシスにはチグサのことは見分けられるようだ。

「姉様、お昼はどうされますか?一緒に食堂に行きませんか?」

 チグサの手にはサンドイッチの入ったバスケットが握られているが、食堂に弁当の持ち込みは許されている。チグサは、コクンと頷く。

「お嬢様、行きますよ」

 噴水の近くで空を見上げるルキナに声をかける。ルキナがシアンに向かって手を振る。気づいたようだ。暗闇に目がなれてきたとはいえ、ルキナが迷いなくシアンのいる方向がわかったのは、シアンの赤い目がぼんやり光っているからだろう。

 人の間を抜けて移動しようとすると、誰かがルキナを押した。

「きゃっ」

 噴水に向かって体が傾く。このままでは濡れると思った時、シアンが腕を掴んだ。グッと腕を引っ張り、ルキナの体を起こす。

 シアンは、異変に気づいた瞬間に、地面を蹴っていた。人の多い中、片足を軸にして体を回転させながらスイスイ進み、最後は大ジャンプであっという間にルキナのもとにたどり着いた。

 シアンは、ルキナを抱き寄せると、キョロキョロと周りを見渡す。犯人らしき姿はない。シアンの目は竜の血によって、暗い場所でもよく見える。それでも犯人を見失ってしまったのは、人が多いせいだろう。皆、同じ制服を着ていて、見えたのはルキナを押す腕だけ。せっかく犯人の顔を見るチャンスではあったが、それをうまくいかせない。

「ほしい」

 シアンの近くで誰かが呟いた。シアンは、その声を気に止めることはなかったが、二人に忍び寄る影は着実に近づいていた。

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