流行り病。
最初の四頭会議から一週間とちょっと。ルーエンは馬車に乗り、国土の北西を目指していた。当初予定していた通り、ゴール家の領地に向かっているのだ。シアンは、その護衛役として、他の近衛騎士を連れてついてきている。馬に乗り、馬車を囲むように走る。今回の馬車はパレードの時とは違い、窓も屋根もある。あの時のように、やすやすと弓矢で命を狙える状態じゃない。
ゴール家の屋敷につくと、ゴール家当主のシャルマ・ゴールが出迎えてくれた。事前に知らされていたとはいえ、国王の訪問に緊張しているようだ。
「この家にはあなた一人か?」
ルーエンがシャルマに問う。シャルマは結婚をしていて子供いるはずなのに、その姿がない。
「妻と子供は妻の実家のほうに」
領地での騒動に巻き込まないため、避難させたらしい。
「さっそく本題といこうか」
ルーエンは、シャルマに屋敷の客間に案内してもらい、向かい合って座る。ルーエンが切り出すと、シャルマは深刻そうな表情になる。しわの出始めた五十代の顔にさらにしわが濃くなった。
「私のところには、報告がくるだけなのですが、このところ死亡者が増えておりまして。死亡要因は………風邪なんです」
シャルマがためらいがちに言った死亡要因にルーエンが顔をしかめる。
「風邪?」
シアンが思わず繰り返す。シアンはルーエンと一緒にシャルマの話を聞いていたが、予想外の死亡要因に驚く。
「はい、風邪です。医療関係者によると、ごく普通の風邪で、体が弱っていない限り死ぬことはないと」
シャルマがいくつかの死亡診断書を見せる。個人名は伏せられているが、たしかに、見せられた診断書全てに、風邪を患っていたと書かれている。
「風邪が流行ってるんだな」
ルーエンは、そもそも風邪がこの時期に流行っていることが気になったようだ。
「はい、風邪は毎年この夏に。毎年のことなので、病院の対応が遅れたなんてことはないと思いますし、よっぽどのことはないと死に至るような病気ではありません。多くの患者が病院にもかからないほどです」
シャルマが丁寧に答える。すると、今度はシアンが「違う病気という可能性は?」と尋ねる。この問いにも、シャルマは真面目な顔をして頷いた。
「間違いなく風邪です」
シャルマの話を聞く限り、風邪が死亡原因に関わっているのは間違いないだろう。
「病原菌も進化すると聞くし、その類かもしれません」
シャルマは、わざわざ国王に足を運んでもらったことを申し訳なく思っている。「大ごとにしてすみません」と言って頭を下げる。
「…いや、他にも何か要因があるかもしれない」
そう言って、ルーエンは立ち上がった。そして、シアンの顔を見て「探るぞ」と言う。
ルーエンは、ゴール家の屋敷を出て、町の中に入った。町の人たちに話を聞くつもりなのだ。
「せっかくだ。夕食も食べて行こう」
ルーエンが屋敷から歩いてすぐのレストランに入ろうとする。シアンは慌てて止める。
「心配するな。身分は隠す」
そう言って、ルーエンが外套を羽織る。高そうな服が隠れた。確かに、ここにいる外套を着こんだ怪しげな男がまさか国王とは思わないだろう。シアンは制止を聞かないでレストランに入っていってしまったルーエンについていく。シアンと一分の近衛騎士が外套で服を隠して中に入ると、他の客から注目をあびることになった。
「…お前は目立つな」
ルーエンがシアンの銀髪を見る。
「外に出てます」
シアンが外に戻ろうとすると、ルーエンがシアンの腕を引っ張った。
「気にするほどではない」
ルーエンはシアンにいてほしいようだ。
ルーエンたち、団体客は、大きなテーブルに座った。このレストランは自分で料理を受け取って自分の席に運ぶスタイルのようなので、バスクと他三名が代表して注文と料理の受け取りに行った。
「とても人がたくさん死んでるとは思えないな」
ルーエンがひそひそと言った。たしかに、レストランにいる人たちは、ワイワイと楽しそうに食事をしている。風邪で人が死んでいることを誰も深刻に考えていないようだ。
バスクたちが料理を持って戻ってきた。シアンがルーエンが食べる前に毒見をしようとしたが、ルーエンはそれを断った。
「美味しいな」
ルーエンは恐れることなく料理を口に運ぶ。どうやらここの料理はルーエンの口に合ったらしい。
お腹いっぱい食べた後は、ゴール家に戻って、泊まらせてもらった。シアンたち近衛騎士は交代で見張りをし、ルーエンの身を守った。
こうして迎えた翌日も、ルーエンは己の命が狙われやすい立場にあることを考えていないのか、好き勝手に出歩いた。いくら身分を隠そうが、国王の顔を知っている者がここにいないとは限らない。シアンとしては、そう勝手に動き回られるのは困る。
「なんだ、風邪でもひいたか」
ルーエンが、鼻をずるずる言わせているバスクに言った。バスクだけではなく、他の数名も同様に鼻をすすっている。
「いえ。花粉症か何かかと」
バスクは体調が悪いわけではないと言う。
「この辺りはいろいろな花が咲いていますからね」
シアンは花粉症とは無縁なので、バスクたちの辛さはわかってあげられない。休むかと尋ねたが、全員首を横に振った。
「なかなか進展しないな」
ルーエンはもう少し展開が速いと思っていた。一向に問題解決に向かう兆しがない。
ルーエンは何も言わずに、昨晩、夕食を食べたレストランに入っていった。
「そのお店、気に入ったんですね」
シアンたちも続く。前回同様、バスクたちに料理は任せ、席についた。
「私が毒見するまで食べないでくださいよ」
シアンはルーエンに小さな声で言う。忠告してみたが、ルーエンはやはり忠告を聞こうとしなかった。バスクたちが運んだ料理を真っ先に口に運ぶ。シアンも急いで一口目を食べた。ルーエンより先には食べられなかったが、ルーエンの二口目には間に合う。
「ん?」
シアンは口の動きをやめた。ルーエンの要望で昨日と同じ料理を注文したが、全然味が違う。それに、とても癖のある味がする。どこかで食べたこのあるような…。
(ウイリスだ)
シアンは思い出した。これは毒草のウイリスの味だ。シアンは急いで吐き出し、ルーエンの方を見た。ルーエンも顔をしかめて、口を動かしていない。飲み込んではなさそうだ。
「料理に毒物が混ざっています。今すぐ吐き出してください」
シアンは、ルーエンと周りの近衛騎士に言う。幸い、誰もまだ料理を飲み込んでいなかったので、被害はでなかった。
(なぜわざわざ暗殺にウイリスを?)
シアンは頭をかかえる。ウイリスは強い毒素をもつが、決して暗殺向きじゃない。ウイリスは独特な味がする。まず美味しいとはいえない味だ。そのうえ、その味を消そうとすると、毒草としての効果もなくなる。
「変な味がすると思ったら…。」
「変な味?鼻がつまっててわかんなかった」
騎士が話している。シアンにストップをかけられ、料理を前にして待機している。
「そうか…!」
シアンは彼らの話を聞いてひらめいた。
「このレストランの従業員にこの事件の犯人がいます。確保してください」
シアンは騎士団員に指示を出す。四人の騎士がスッと立ち上がって、厨房に向かった。シアンの指示を聞いて、ルーエンはシアンが考えていることを理解した。
「なるほどな」
ルーエンはシアンに感心する。
「陛下、どうなさりますか?犯人はおそらく他にもいます」
「とりあえず、屋敷に戻るぞ」
シアンの問いに、ルーエンはシャルマに報告をしに行くのが先だと答えた。
「心配しなくても、そう簡単に逃げないだろう。何か目的はあるようだから」
ルーエンはそう言って、騎士たちを連れてゴール家の屋敷に移動した。
「おかえりなさいませ」
「原因がわかったぞ」
ルーエンたちの帰りを待っていたシャルマは、ルーエンの報告にほっとしたような顔になる。でも、すぐに深刻そうな表情になった。原因がわかったとわざわざ報告するということは、ただの風邪が原因ではなかったということだ。事態はより深刻だと考えられる。
ルーエンがシアンに推理を披露するよう指示する。シアンは、シャルマとまだ状況を飲み込めていない騎士団員に説明を始める。
「この事件はウイリスを使った大量殺人です。ウイリスというのは、少量でも死に至らしめる毒草です。しかし、味が特徴的なので、料理に混ぜても健康体の人にはすぐに毒だと気づかれてしまいます。そこで風邪をひいている人に狙いを定めたんです。病気になると味覚がおかしくなることも多いので、ウイリスの味に気づけませんから」
ここまで話して、ルーエンが大きく頷いた。予想してなかった真相に、シャルマがショックを受けている。
あのレストランは、風邪をひいている人にだけ、毒入りの料理を提供していたのだろう。花粉症で風邪のように見えたバスクたちにも、毒入りの料理を渡した。その結果、味がちゃんとわかる者たちによって、毒入りだと見破られてしまった。
「おそらく首謀者は海の向こうだろうな」
ルーエンが唐突に言った。
「よくある話だ。ここを毒物の実験に使ったんだろう。ウイリスは、毒薬としても優秀だし、強い植物だから手に入れやすい。ただ問題は、どうやって気づかれずに毒を盛るか。その実験をするには実際に人に使う必要がある」
ルーエンがため息をついた。シャルマは悔しそうに唇を噛みしめる。
「さっきのレストランの厨房にいた者は?」
ルーエンが騎士に尋ねる。
「はっ。縄でしばって、見張りをおいております」
「そうか。我々の正体はバレているか?」
「いえ、正体は明かしておりません」
「では、使ってやるとしよう」
ルーエンがニヤリと笑う。そして、シアンにイシェロ語で手紙を書かせた。首謀者とやらはルマネイシェロシエ連邦国にいるらしい。
「目につくこともいとわず、こんなに派手にやってるような奴だ。美味しい話一つで簡単に海を渡ってくるだろう」
ルーエンは、シアンが書いた手紙をレストランで捕らえた男に持たせた。彼には、自分たちはここで闇商売を始めようと思っている行商人だと説明した。そして、手紙には、「ウイリスの実験に成功したからその方法を教えてやる。ウイリスを持てるだけ持って来い」と書いてある。欲に飢えた首謀者をおびき寄せる作戦だ。
「実に簡単だ。だが、我が国民の命を弄んだ代償は払ってもらうとしよう」
ルーエンは誰よりも怒っていた。
「海を挟むといっても、ルマネイシェロシエ連邦は目と鼻の先だ。往復に一日とかからん。明日の夜には来るだろう」
ルーエンは、犯人を一網打尽にする日を心待ちにしている。シアンは、ルーエンが先頭に立って剣を振り回しそうな勢いがあって心配になる。国王を危険な目にあわせるわけにはいかない。今晩の任務は、「ルーエンの興奮を抑える」になりそうだ。
翌日、ルーエン一行は、港に向かった。夜には敵が来る。迎え撃つ態勢は万全に整えておかなければならない。
「奴らがこの港に来るとは限らないのでは?」
騎士の一人が言った。そのもっともな問いに、ルーエンは「その通り」と頷いた。そして、ルーエンは、皆を連れて港に止まっている船に近づいた。ルーエンは、その船の船長に船を動かしてほしいと頼んだ。報酬をはずむと言ったら、喜んで願いを聞いてくれた。
「変なことに巻き込まんでくれよ」
船長は、外套で身を包んだ団体を見て言った。前払い金をたんまりもらっているので、怪しい団体でも船に乗せてくれた。
「そんじゃ、行くとするか」
ルーエンが指示した出港時刻になると、船長が船員に準備を始めさせた。商人の船は荷物を乗せるために造られているので大きい。帆に風が当たって船が進み始める。
ルーエンは、海の上で犯人たちと交戦するつもりらしい。たしかに、近隣住民に迷惑をかけなくてすむし、船を壊せば逃げ場もなくせる。なかなか合理的な判断だ。しかし、ここにいるのは騎士。海賊ではないので、海や船で闘う術を知らない。何もかも上手くというわけにはいかないだろう。
「いいか?まず最初は交渉するフリをして船を近づけさせる。互いの船を行き来できるようになった状態で、私が合図を出す。そしたら、攻撃開始。少しでも多くの者を捕らえろ。そして、二つ目の合図をしたら、シアン・リュツカ、向こうの船に火をつけろ。ウイリスを積んでやってくるだろうから、それを全部燃やすのだ。たとえ、逃しても、しばらく再起不能にさせる。だから、お前たちは二つ目の合図がきたら、この船に戻ってこい。それが無理なら海に飛び込め」
ルーエンがひそひそと騎士たちに作戦を話す。この話を船長に聞かれたら面倒だ。船が汚されるかもしれないからと、陸に戻ってしまうかしれない。
海に出てから一時間ほど経っただろうか。空が暗くなり始める。船のあちこちに取り付けられたランタンに火がつく。
「船長殿、この辺りで船を止めておいてもらえるか?」
ルーエンが船のいかりを下ろさせる。ここで敵の船を待つのだ。
海の上というのは静かなもので、それが騎士たちの不安を煽る。空はすっかり暗くなってしまって、敵が本当に来るのかと不安になり始めている。
その時だった。
「船長、前方に船が」
船員が船長に報告した。それを聞いたルーエンは、待っていた船だと確信し、船長によける必要はないと言った。
ぼんやりとだけ見えていたランタンの明かりがしっかり確認できるような距離になると、相手の船も減速し、少しずつ近づいてきた。船が完全に止まると、二つの船の間に板が置かれた。これで互いの船を行き来できるようになった。
「頭はお前か」
首謀者と思しき男がルーエンに向かって言った。イシェロ語だ。
「あら、わかりますか」
ルーエンはへらへらと弱そうな男を演じる。いつもの迫力がなくて、別人のようだ。モネと名乗った首謀者がルーエンを自分の船に呼び寄せた。ルーエンは黙って指示に従った。シアンも後に続いて相手の船に乗り移った。本当はシアンは自分がリーダーだと言い、ルーエンを敵に近づけさせるつもりはなかった。しかし、こうなった以上、ルーエンの傍について安全を確保する他ない。
「いやぁ、良かったですよ。私の技術を売れる相手が見つかって。マニアックすぎて、誰も受けなかったんですよ。わざわざウイリスを使う意味はないって」
ルーエンがペラペラと話し始めるが、ルーエンが話しているのはウィンリア語。あまり速く話すと、モネには聞き取れない。
「イシェロ語で手紙をよこしたから、てっきりこっちの人間かと」
モネが困ったように言う。
「それなら、私が通訳します。手紙を書いたのは私ですから」
シアンがルーエンの前に出てきて言った。流ちょうなイシェロ語に、モネが感心する。
「それなら、さっそく商売の話といきましょか」
モネの目には、ルーエンは弱そうに見えており、交渉も自分が有利に進められそうだと気を抜いてる。そこで、ルーエンは一気に畳み込むことにした。変に察せられる前に事を起こすべきだ。
「ほんと、単純なお方で良かったですよ。疑いもせず、隠れることもしないでいてくれたおかげで、こちらもとてもやりやすいですから」
ルーエンがニコニコと言う。モネはルーエンとシアンをチラチラ見て、シアンがルーエンの言った言葉を訳すのを待っている。しかし、シアンは何も言わない。
「今だ。剣を抜け!」
ルーエンが声を張り上げた。すると、二つの船にいる騎士たちが同時に外套を脱ぎ、腰の剣を抜いた。あっけにとられている敵に次々に襲い掛かり、縄で縛って戦闘不能にしていく。モネは状況を理解すると、一目散に逃げだした。
「追うな。どうせ逃げ場はない」
ルーエンは騎士がモネを追いかけようとすると、すぐに止めた。今はもう、自分たちが襲われていると理解したモネの手下たちが応戦を始めている。わざわざ戦力を分散させる必要はない。もともとこの騎士団は少人数で構成されている。あちこちに人を送れるほどの余裕はない。
シアンは、ルーエンを守りながら剣を振るう。剣を使った動きはまだおぼつかない。それでも、危なっかしいというほどでもない。ちゃんとルーエンのことは守り切れるだろう。そこで何を思ったのか、ルーエンも剣を抜き始めた。ルーエンも戦うつもりだ。シアンは慌ててルーエンを抱きかかえて跳躍した。必要以上にルーエンに剣を持たせる意味がない。怪我でもされたら大変だ。シアンは、ルーエンを連れてもといた船に飛び移り、ルーエンを下ろした。
ルーエンが不服そうにシアンを見る。自分で闘いたかったのだろう。
「急に合図の言葉を変えないでください」
シアンは、ルーエンに文句を言われる前に逆に文句を言った。事前に決めておいた合図は、敵にわからないよう、特に意味のない言葉だった。ちゃんと合図は決めてあったのに、ルーエンはそのときになって急に変えたのだ。今回は、皆が混乱しないで、あれが合図だと判断したので良かったが、決めたのならちゃんとそのまま変えないでほしいところだ。
「向こうに言葉が通じてないみたいだったし、どうせならすぐにわかる言い方の方が良いだろう」
ルーエンがふふっと小さく笑う。こんな状況なのに、ルーエンは楽しんでいるようだ。
シアンとルーエンが言いあっていると、続々とモネの手下たちが縛られた状態で運ばれてきた。
「そろそろか。戻れ」
ルーエンが次の指示を出す。すると、既に縛り上げてある者を連れて騎士たちが自分たちが乗ってきた船に戻ってきた。騎士が全員戻ったのを確認すると、船長に船を動かすようお願いした。船長は黙って指示に従う。間もなく、船が動き始める。
「シアン・リュツカ、やれ」
ルーエンが最後の指示を出す。シアンはモネの船に右手をかざし、魔法を使う。船から火の手があがる。炎はみるみる船を包み、大きな炎となる。船に残っていた者は海に飛び込む。その中には、溺れ死ぬよりはましだと考えて、ルーエンたちの船にあがってきた者もいる。
一人の騎士が海の中を指さす。暗闇の中にボートが一隻見える。シアンの目には、そのボートにモネがいることが確認できた。騎士たちがルーエンに指示を仰ぐが、ルーエンは首を横に振った。
「追う必要はない。ルマネイシェロシエの人間なら、あちらに要請を出すまで。我が国民が何人も殺されたんだ。ルマネイシェロシエとの交渉材料ともなる」
ルーエンがボートを一瞥した後、船長に協力の感謝をしにいく。
「国王陛下であるならそう言ってくだされば…。」
船長はルーエンと騎士たちの服装で、その正体に気づいたようだ。たしかに、国王の依頼であれば、報酬など関係なく船を動かしてくれただろう。しかし、あそこで正体を明かすのは、その後の作戦に支障をきたすかもしれないと考えたら、難しい話だ。
「褒美ははずむ」
ルーエンがふっと鼻で笑う。
「ありがとうございます」
船長がルーエンの言葉にかぶせ気味に言った。国王のためなら協力は惜しまないと言っておきながら、礼はちゃんともらうようだ。
「初めての遠征にしては上々だろう」
ルーエンが満足そうに言う。
陸に戻ったルーエンは、シャルマに飲食店の調査を徹底するよう指示し、捕らえたモネの手下たちを国軍に任せた。これでひとまず、ゴール領地の死亡者急増事件は幕を閉じた。




