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お嬢様、一人で抱え込まないでください。

「…はぁ」

 ルキナが大きくため息をつく。シアンは心配そうに見守る。

「他の人より数十年余分に生きてきたから、イジメなんてへでもないと思ってたんだけどなぁ」

 へへへと元気のない笑い。ルキナは一生懸命笑顔を作ろうとするが、目が笑っていない。

 前世の記憶があったところで、その分の人生を生きることと等しいわけではない。その人生で学んだことをいかすことはできるが、ルキナの人生が前世の人生の続きではない。心はまだ七歳の子供。

「辛いものは誰にとっても辛いんですよ、きっと」

 それに、大人になったって、イジメは苦しいものだ。シアンは、ルキナの手を握る。不安な時は手をつなぐと良いと、ルキナの母、メアリから教えられた。ルキナも嫌がらず、むしろ、その温もりにすがるように目を閉じる。そうしないと、また涙が出てきそうだった。

「お父様には言わないで」

 ルキナが、馬車に揺られながら、力なく言った。顔はまだ赤いが、学校を出る前に一度水で冷やしたので、だいぶましになっている。もしかしたら、両親にも泣いたことがバレてしまうかもしれない。そんな時のためにも、先に口止めをしておくのだ。

 シアンは黙って頷いた。親に相談するのが一番だとわかっているが、ルキナにも信念というものがある。極力、親の力は借りない。シアンは、ルキナの気持ちを尊重するのが最優先事項だと決めている。進言はすれど、勝手に動くことはしない。

「なぜすぐに言わなかったのですか?」

 シアンは聞くべきではないと思ったが、聞かずにはいられなかった。親を頼らないなら、なおさらシアンに話すべきだった。

「邪魔しちゃいけないと思って。気のせいかもしれないし」

 家では両親が聞いてるかもしれない。ルキナは、度々学校で相談しようと思っていた。しかし、シアンはルキナの命令に従ってマクシスとの仲を深めていた。そんなところに割って入っていくわけにはいかないと思ったのだ。

(ああ、だから、あの時も)

 だから、学食で会っても逃げるように離れていき、チグサと一緒にいる時も話しかけてこなかったのだ。

(僕の責任だ)

 相談する機会を奪っていたのはシアンの方だった。そうでなくとも、気づくべきだったのだ。様子がおかしいことは薄々気づいていたし、シアンが尋ねればそれですんだのだ。

 ルキナは、泣いていたことさえ隠そうとした。

(そこまで追い詰めていたなんて)

 シアンは、自分の愚かさを嘆くと同時に、ルキナをこんな目に合わせた者を絶対に許さないと心に誓う。

「お嬢様、明日は僕と一緒にいてください」

 授業時間を除き、授業の合間、昼休み、放課後は側にいようと心に決める。ルキナの不安解消とイジメの防止対策のためだ。ルキナもそうしてほしいと望んでいたので、躊躇うことなく頷く。

 そもそも明日も学校に行く勇気があるかどうか心配だったが、ルキナのことだ。聞くまでもなく答えは決まっている。ルキナは、何もしないで負けたまま逃げるようなことが嫌い。 

「授業中は、周りの目もありますし、そうそう手を出してくることはないでしょう。授業の合間はできるだけ教室に行きます。移動教室があるのなら言ってください。一緒に行きます」

「シアンが授業に遅れたりしない?」

 珍しく弱気なルキナに調子が狂う。いつもなら、「そんなこと自分でなんとかなさい」と言う。最悪、シアンが授業に遅刻したって気にもしないだろう。

「心配ありません。学校の敷地内なら動き回れますから」

 シアンの身体能力と魔法をもってすれば、校舎の端から端までだって移動するのに数十秒とかからない。移動距離など、心配するまでもない。

 ルキナは、屋敷につくと、さっきまでの弱気な姿が嘘のように、いつもどおりに過ごした。両親の前では笑顔を絶やさず、シアンと二人きりになったとしても、弱音を吐かなかった。そんな彼女に、シアンは密かに感心していた。

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