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お嬢様、泣かないでください。

「アーウェンを呼び捨てなんて、生意気だぞ」

 相変わらず、放課後にタシファレドに呼び出されては、あーだこーだ悪口を言われる毎日。

(飽きもせず、よくやるよ)

 例のごとくタシファレドの言葉右耳から左耳の流れ出ていく。シアンは、ただぼーっと終わるのを待つだけ。反応が返ってこないのをつまらないと思わないのか、タシファレドは言いたいことを一通り言ってしまうとスッキリした顔をして帰っていく。本当のことを言われて傷ついているから、言い返せないのだと思っているかもしれない。

(今日はやけに長いな)

 まだ言い足りないのか、ペラペラペラペラ口を回し続けている。もはや感心するほどだが、早く切り上げないと、ルキナが呼びに来てしまう。ルキナの方も、何かやることがあるのだろう。放課後はしばらくの間「帰ろう」と言わない。だが、さすがにそろそろ探しにくるかもしれない。

「シアーン!」

 思ったとおりだ。ルキナがシアンを呼ぶ声がする。ルキナを待たせるわけにはいかない。

「今日はこれで失礼します」

 頭を下げ、さっさとその場を去る。そのことについては、タシファレドは何も言わない。こんなに自由に帰らせてくれるのなら、最初から呼び出さないでほしいところだ。

「シアン、遅い」

 ルキナがぷんぷん怒って待っている。廊下の真ん中に仁王立ちだ。

「申し訳ありません。どうかなさ…お嬢様」

 シアンはルキナの頬が赤くなっていることに気づく。目の周りも腫れている気がする。

「なによ」

「泣いてたんですか?」

 ルキナは、目をゴシゴシ擦る。頬が赤いのは、そうやって涙を拭う時に強く擦ったからだろう。

「お嬢様、話してください」

 何か泣く理由があったはずだ。シアンは、努めて優しく問いかける。

「あのね、最近、変なことが多くてね。物がなくなったり、ちゃんと持ってたはずなのにゴミ箱に捨てられてたり、カバンに虫が入っていたり」

 ルキナは、これまで受けた被害を順番に話していく。

(これが本当のイジメか)

 ルキナには、犯人らしい思い当たる人物はいないと言う。

 シアンは、ルキナと一緒に彼女の教室に行く。ルキナの席は知らなかったが、すぐにそれらしきものを見つける。というのも、机にデカデカと落書きをされていたからだ。

(わたしのまえからきえて、か)

 まだ字を書きなれていない者が書いたようで、文字の形が崩れている。おそらく、犯人は一級生の中にいる。

「お嬢様、先に馬車に戻っていてください。僕は掃除をしてから行きます」

 シアンは、ルキナがこれ以上ここにいたくはないだろうと思い、教室を出るよう言う。しかし、ルキナは首を振ってシアンの制服を摘む。シアンの側から離れるのが不安なのだ。

 シアンは、ちゃんと掃除道具を使って汚れを落とすつもりだったが、魔法を使うことにする。ルキナが帰ろうとしないので時間をかけるわけにはいかないからだ。

 右手を机の前にかざし、神経を集中させる。呪文や魔法陣は必要ない。ただ頭の中で想像するだけだ。机に書かれていた文字がふっと浮かび上がり、空中にとどまる。右手を握りしめると、文字がグニャリと歪み、次の瞬間には消えた。

「ふぅ」

 魔法を使うには集中力が必要なため、少しの間使うだけでも疲れを感じる。シアンは息を吐いて肩の力を抜く。

 その時、廊下から視線を感じて、バッとそちらの方を向く。犯人がわかるかもしれないと期待したが、残念ながら誰の姿もなかった。

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