リアルとは別のコミュニティ
その日俺は穴を掘っていた。
別に富士の樹海に人を埋めるとかではなく、長年飼っていた愛犬のミルが寿命を迎えたので庭に埋めるのだ。
本来は火葬した方がいいのかもしれないが、俺は正しい手順なんて知らないし、今はまだ別れたくなかった。
ミルと出会ったのは親と喧嘩をして家を飛び出した社会人1年目で、ずっと家族と暮らしていた俺が1人の辛さに参っていた頃だった。
仕事終わりに橋の下にダンボールが、というベタな展開だった。
都会のことは知らないが、俺の住んでいる地域ではまだ河原に入ることができる。
綺麗な白い毛並みをしていたのでミルと付けた。ミルクのミルだ。
出会った時には既にそれなりのおっさん犬だったようで、まだ5年しか一緒に生活していないのにもう逝ってしまった。
失って初めて大切なものはわかるとよくいうが、俺はミルがいなくなって初めて俺がミルにどれほど依存していたのか知った。
社会人になってから毎日欠かさず付けている日記を見返しても、ミルの話題がない日は数えるほどしかない。
夕食を食べる時、テレビで犬の特集をしていた時など、ことある事に思い出してしまい、俺は精神的に疲れてしまった。
友人や先輩は「早く忘れた方がいい」と言ってくれるが、自分には簡単に忘れることなどできない。幼稚な考えだと理解しているが、俺が死ぬまでは待っていて欲しかった。