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01――チャラ男登場


 案内された部屋には、30人ぐらいが用意された机と椅子に既に座っていた。大体は20代か30代なんだけど、たまにそれより上の世代に見える人が混じっている。でももしかしたら老けて見えるだけで、本当は同じ世代の人かもしれない。こういう話はセンシティブに扱わないといけないので、できるだけ触れたくない。


 私の隣の席は髪の毛を金髪に染めたチャラ男だった、いくら私服でいいって言われてもそのラッパーみたいな格好できちゃダメでしょ、仕事なんだから。私は異星人を見るような気持ちで彼をやり過ごしながら、自分の席へと座る。するとチャラ男はすぐに私に話しかけてきた。


「えー、なんで中学生がここにいんの?」


 チャラ男が何の悪意もない笑顔で、こちらを向いて言う。あ、元々なかったけどこいつと仲良くする気なんて、欠片もなくなった。


 隣から自己紹介とかしてくるチャラ男を無視して、筆記用具とかメモとか必要なものを準備する。私は怒ると荒ぶってる心の中とは正反対に、表情が凍るらしい。無表情のまま無視され続けるのがキツかったのか、チャラ男はいつの間にかこちらに話しかけるのをやめて、近くの友達らしきやつと話していた。よしよし、そのままずっと絡んでこないでほしい。


 しばらく待っていると、事務服を来たお姉さんが部屋の中に入ってきた。紺色のベストとAラインスカート、白い長袖ブラウスというよくある感じの制服だ。当たり障りのない自己紹介と挨拶から、この人が私達の研修担当だとわかった。


「今から資料を配りますが、こちらは持ち帰らない様に。予め席に置いてあったカタログについては持ち帰っても大丈夫です、というか是非持ち帰って各自予習と復習をしてください。そうでなければ、脱落してしまいますよ」


 お姉さんが言うには、総合カタログというものには料金やサービスについての必要な知識がすべて掲載されているらしい。つまりこれを覚えて理解するのが私達の一番最初の仕事であり、これができて初めてスタートラインに立てるという事なのだそうだ。


 勉強は学生の頃から得意ではないけれど苦手でもなかったしきっと大丈夫だろうと思ったら、すぐにその考えが甘い事を思い知らされた。パケットってアレだよね、パケ放題とかのパケット……え、単位とかあるんですか? 1パケットは128バイト、バイトって何?


 バイトはデータ量の単位なんだって。さて、ここで問題です。4MBメガバイトの音楽をダウンロードした時に使ったバケットの数を求めよ、ってわかんないよそんなの!


 『メガバイトっていうのはキロバイトが1000集まったヤツだから~』と目をぐるぐるさせながら考えていると、隣のチャラ男がプッと私を見て吹き出したのをタイミング悪く目撃してしまった。


 おのれ、あいつは絶対に許さん。永遠に無視の刑に処してやる。


「チョビ、冷静に考えなよ。128バイトで1パケットだろ、という事は1MBだと何パケットだよ」


「……チョビって何?」


「うちの実家の犬、可愛いんだぞ。なんか今のアンタ見てたら、そう呼びたくなった。だからアンタのあだ名は今からチョビね」


 犬扱いかこのヤロウ、と爆発しそうになった私だが、屈託なく笑うチャラ男の顔を見てるとなんだかその怒りが不思議としぼんでしまった。しかしこのチャラ男、こういう計算に強いらしく、懇切丁寧に教えてくれた。意外な特技もあったものである。


「だからこの場合、32768パケットって事になる。わかったか、チョビ」


「……ありがとう、チャラ男」


 気に食わないヤロウだけど、教えてもらったからにはちゃんとお礼を言わないと。私は礼儀をわきまえた女なのだ。と思ったら、せっかくこっちが素直にお礼を言ったのに、チャラ男は何故だか釈然としない顔でこちらをジッと見ていた。


「……チャラ男ってもしかして俺の事?」


「そっちだってチョビとか変なあだ名を勝手につけたんだから、お返しだよ」


 ピシャリと言ってやったら、チャラ男は何やらガックリした様子で机の上に突っ伏した。ざまあみやがれである。

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